トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:111~120)


事例:111

インペラシャフトの段付き摩耗によるミッションオイル漏れについて


【整備車両】

RG400EW‐W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1986年  参考走行距離:約12,200km


【不具合の状態】

ウォータポンプのインスペクションホールからミッションオイルが漏れ出していました.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼を承り,メガスピードにて各所点検整備したものです.

スロットルワイヤの戻りが悪化していたり
※1 ハンドルスイッチが共回りしていたり ※2

リヤブレーキランプスイッチの配線が熔損していたり
※3

破損したクラッチレリーズ部からミッションオイルが漏れ出していたり
※4 ,様々な不具合が発生していました.

 この様な状態ですので,念の為エンジン下廻りを確認すると,

ウォータポンプインジケータホールからオイルが漏れ出していることを確認しました.

RG500/400Γ (HM31A/HK31A) は発売が1980年代中盤であることから,

かなりの割合で,シールやシャフトの衰損によりインスペクションホールから漏れが発生しています.

この車両も例のごとく,やはり漏れが発生していました.



図1.1 インスペクションホールから漏れ出しているミッションオイル

 図1.1はエンジン下廻りのウォータポンプ周囲の様子です.

インスペクションホールからミッションオイルが漏れ出していることが分かります.

オイルパン取り付けボルトの頭が湿っている部分は漏れ出したオイルが付着したものです.

ウォータポンプの塗装がはげて汚れている他,

オイルパン及びウォータポンプ取り付けボルトはすべて赤く錆びて見苦しくなっていました.



図1.2 漏れ出したミッションオイルと冷却水

 図1.2はウォータポンプインスペクションホール(黄色い四角A)を真下から見た様子です.

黄色い四角Bは漏れ出したオイルが滴になっている部分です.

黄色い四角Cで示した冷却水がオイルパンを伝ってBまで到達したものであると考えられます.

このことからオイルと同時に冷却水が漏れ出していることが確認できます.

すなわちオイルの密封性能のみならず,メカニカルシールの衰損等が同時に発生している可能性が高いと判断できます.




図1.3 取り外したオイルパンとウォータポンプ

 図1.3はエンジンから取り外したオイルパンに取り付けられているウォータポンプASSYの様子です.

ウォータポンプのラジエータホースの接続部が腐食していることが分かります.

金属粉がオイルに混じっていたものの,その量は至って平均的なものであるといえ,

この状態からは大きな不具合は見られず,初期診断の参考にするとともに,

ウォータポンプを分解して内部の状態を確認しました.



図1.4 段付き摩耗しているインペラシャフト

 図1.4は取り外したウォータポンプインペラシャフトの様子です.

A及びBの部分はオイルシールリップとの接触部であり,ミッションオイルを密封している部位に当たります.

指で触っても容易に分かるくらい摩耗していました.



図1.5 衰損しているオイルシール

 図1.5はミッションオイルシールの様子です.

A'およびB'は図1.4のAおよびBに接触する部分であり,軸側が擦り減っているのに対し,

シール側は広がっている分だけ軸をシールする性能が低下していると判断できます.

また目視不可能なレベルですが,軸を摩耗させた接触部も同様に摩耗していると考えられます.


【整備内容】

 オイル漏れの主な原因はインペラシャフトの摩耗とオイルシールによるものであると判断することができる為,

オイルシールを新品に交換し,すでに絶版であるシャフトは肉盛溶射を行い軸径を仕上げました
※5



図2.1 肉盛溶射により修正されたインペラシャフトのオイルシール取り付け部

 図2.1は肉盛溶射を実施し,仕上げ研磨処理の施されたインペラシャフトのオイルシールとの接触部の様子です.

図1.4で示したAとBの段付き摩耗は完全に修正されていることが分かります.

これにより軸側のオイルシールに対する寸法が正規の値に戻ると同時に表面が滑らかになりました.



図2.2 ハウジングに圧入された新品のインペラシャフトオイルシール

 図2.2は新品のオイルシールを点検洗浄したハウジングに圧入した様子です.

シール側が新品になることにより,肉盛溶射で修正されたシャフトとの密封性能を取り戻すことができました.



図2.3 オイルパンに取り付けられたインペラシャフト

 図2.3は新品のメカニカルシールを点検洗浄したハウジングに取り付け,

インペラシャフトをベアリングに圧入して取り付けた様子です.

腐食していたオイルパン表面は塗装を行うことにより,防食機能と美しさを取り戻しました.



図2.4 整備の完了したオイルパン

 図2.4はオーバーホール【overhaul】の完了したオイルパンASSYの様子です.

図1.3と比較して,隅々まで洗浄され,組み立て直された正確なギヤ廻りを含めて,

美しく再生されていることが分かります.



図2.5 オイル漏れの解消したオイルパンとウォータポンプ廻り

 図2.5はオーバーホール【overhaul】の完了したオイルポンプとオイルパンASSYをエンジンに取り付けた様子です.

オイルパン及びウォータポンプは塗装されて美しくなっており,

それに合わせて機能のみならず見た目の点も考慮し,

Ⅰ型に適応した純正品番のボルトを使用することにより全体的に違和感なくリフレッシュしていることが分かります.

また同時にウォータポンプからのラジエータホース及びクランプを新品に交換したことにより,

非常に美しく仕上げることができました.


考察】

 2輪のエンジンの場合,ウォータポンプとオイルポンプが同軸に設置されていることが少なくなく,

ウォータポンプインペラシャフトにメカニカルシールとオイルシールの2種類が取り付けられていて,

インスペクションホールからどちらかが漏れている場合は,残りの一方も衰損している場合がかなりの割合で存在します.

この事例でも大きな衰損はオイルシール側でしたが,同時にメカニカルシール側も衰損していました.

やはり古い車両であれば,片側の衰損はもう片側の衰損でもあると判断し,同時に整備されることが望ましいといえます.

当該個所を整備するにはウォータポンプをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)する必要がある為,

オイル側と冷却水側の両方を含めて包括的な修理が行われます.


 今回の事例ではインペラシャフトがすでに絶版であることから肉盛溶射を行い,

正規の寸法まで修正研磨して軸の再生を行いました.

メガスピードではこの様に最良の修理方法でお客様の大切なエンジンを整備しております.

RG500/400Γ (HM31A/HK31A) にそれを行うだけの価値を見出し,

乗り続けたいというご要望に可能な限り対応させていただく為に,常に向上心を持って日々精進しております.






※1 “スロットルケーブル保持部の破損や経年劣化により重くなったスロットルグリップについて”

※2 “位置決めピンの抜けによるハンドルスイッチの共回りについて”

※3 “排気チャンバとの接触によるリヤブレーキのストップランプスイッチ配線被覆の熔解について”

※4 “転倒によるレリーズシャフトオイルシール部の破損がもたらすミッションオイル漏れについて”

※5 “肉盛溶射によるインペラ軸摩耗の修正について”






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