トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 電装関係の故障、不具合、定期点検、一般修理の事例 (事例:21~30)


事例:D‐21

排気チャンバとの接触によるリヤブレーキのストップランプスイッチ配線被覆の熔解について


【整備車両】

RG400EW-W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1986年  参考走行距離:約12,200km


【不具合の状態】

リヤブレーキのストップランプスイッチの配線被覆が溶けて内部の銅線が剥き出しになっていました.


【点検結果】

 この車両はクラッチカバーからのオイル漏れ ※1 ウォータポンプインジケータホールからのオイル漏れ ※2

重くなったスロットルワイヤの交換
※3 ハンドルスイッチの共回り ※4 改善等のご依頼を承り,

メガスピードにて修理・整備を実施したものです.

点検の為右リヤサイドカウルを取り外したところ,

配線被覆が排気チャンバに接触してくっついてしまっていることが分かりました.



図1.1 排気チャンバにくっついている配線被覆

 図1.1は4番シリンダ排気チャンバにくっついているリヤブレーキストップランプスイッチ配線被覆の様子です.

この状態では排気熱により熱くなったチャンバとの接触部が溶けてしまうことは想像に難くなく,

実際に裏返して見ると,案の定配線被覆が溶けていました.

サスペンションリンクの後ろ側を通っていたり,端子部が外側になっていたりと配線の取り回しが滅茶苦茶であることから,

素人整備による誤った取り付けの結果,この様な事態に陥ったものであると判断することができます.



図1.2 溶けて内部の銅線が剥き出しになっている配線被覆

 図1.2は被覆が溶けて内部が露出しているブレーキスイッチ配線の様子です.

配線被覆そのものも熱により変形したまま硬化していました.




図1.3 溶けた被覆の拡大

 図1.3は溶けた被覆部を拡大した様子です.

電源側の配線がオレンジ,アース側の被覆が白/黒ですが,どちらも熱により緑色に変色し,

内部の銅線が露出している状態でした.

この状態では銅線が短絡し,ブレーキスイッチが点灯し続ける可能性があります.

もしそうなれば,公道を走行する上での保安基準を満たさないばかりでなく,

他の交通に制動動作を知らせる手段が失われ,追突事故等の直接の引き金になり兼ねません.

幸い当該車両でブレーキランプが点灯し続ける状態にならなかったのは,

被覆の溶けた範囲が限定的であったことや,接触面のみ溶けたことにより短絡するには至らなかったと考えられます.

しかしもし排気チャンバで加熱し続ければ,いづれ短絡することは明らかであるといえます.


【整備内容】

 熱で熔解した配線被覆部の対策として,ASSYとなっているブレーキスイッチ上部を残して,

端子を含めて残りの破損していた配線は新品を使用することにしました.




図2.1 ブレーキスイッチ上部に接続された新品のハーネス

 図2.1は新品の配線をブレーキスイッチ上部にギボシで接続した様子です.

半田を溶かし込み,信頼性のある接続部を作成すると同時に配線が新品に交換されることにより,

今後長期間の耐久性を向上させました.

また純正色に合わせ,朱色と白/黒を使用するとこにより,

整備書に沿って電流の流れを正確に読み取れる様に配慮しました.




図2.2 正しい取り回しの行われたハーネス

 図2.2は配線にPVC (polyvinyl chloride) ポリ塩化ビニル被覆をかぶせ,車体に取り付けたハーネスの様子です.

取り回しを正しく行うと同時に結束バンドで3か所固定しました.

これによりハーネスが4番シリンダ排気チャンバに一切接触せず,適切な距離を確保しました.

そして実際にリヤブレーキランプがリヤブレーキ操作時に点灯することを確認して整備を完了しました.


【考察】

 配線が溶けた場所の排気によるチャンバの温度がどの程度まで上昇していたかを推測することは難しいといえますが,

被覆カバーの材料が一般的に使用されているPVCの場合,ガラス転移点が82℃,融点が180℃であることを考慮すれば,

この事例の溶けた接触面から推測すると,

少なくとも融点に近い温度まで熱せられたのではないかと仮定しても何ら不自然な点はありません.

実際にそこまで温度が上昇していたのかどうかを判断することはできませんが,

材料が他の代表的な高分子であったとしても,融点を見る限りはかなりの温度まで加熱されていたことになります.


 この事例ではリヤのストップランプの配線が熱により剥き出しになるという不具合が発生していましたが,

もし発火温度が低い物質が排気チャンバに触れていれば,車両火災を引き起こし兼ねません.

2輪は排気管が剥き出しになっている為,使用者の危機意識が薄れている場合が少なくありませんが,

実際はエンジンが稼働すればかなりの高温になります.

特にRG500/400Γ (HM31A/HK31A) やTZR250R (3MA) の様に,

排気管がシリンダの付け根から直接車体中央を縦断する設計になっている車両は,

車両火災の危険性を可能な限り除去する為にも,

やはり排気管周囲の状態は常に点検整備されることが望ましいといえます.






※1 “転倒によるレリーズシャフトオイルシール部の破損がもたらすミッションオイル漏れについて”

※2 “インペラシャフトの段付き摩耗によるミッションオイル漏れについて”

※3 “スロットルケーブル保持部の破損や経年劣化により重くなったスロットルグリップについて”

※4 “位置決めピンの抜けによるハンドルスイッチの共回りについて”






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