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事例:E‐103

フロートチャンバ取り付けねじ溝のねじ切り破損について


【整備車両】

 GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250  推定年式:1987年  参考走行距離:約18,100km


【不具合の状態】

 フロートチャンバ締め付けねじがねじ切れてしまう状態でした.


【点検結果】

 
この車両はお客様のご依頼によりアイドリングから中低速にパワーがないという症状の改善をすべく,

メガスピードに持ち込まれたものです.

このキャブレータは他店で数年前にオーバーホールされたということですが,

スロットルバルブシャフトシールが破損していたり
※1 パイロットジェットが詰まっていたり ※2

フロートバルブシート固定ねじがナメていたり
※3 ニードルジェットホルダに亀裂が入っていたり ※4

ピストンバルブに欠けが発生していたり
※5
と,数年では形成されない様な多数の不具合を内在した状態でした.


ここではオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)に際し発見した,

フロートチャンバ取り付けねじ溝の破損について記載します.



図1.1 破損している雌ねじ溝

 図1.1は1.2番シリンダ様の左側キャブレータのフロートチャンバ取り付けねじ溝が破損している様子です.

フロートチャンバをボデーに仮止めする際に軽くねじを回しましたが,いくら回しても締まらない為,

ねじ溝を確認すると,ねじ切れた形跡が見られました.

ほとんど抵抗がなかったことから,ねじ溝はねじ切れる寸前の状態であったといえます.


【整備内容】

 破損したねじ溝を修正するには種々の方法がありますが,今回はヘリサート加工を実施しました.



図2.1 ヘリサート加工されたねじ溝

 図2.1はヘリサート加工されたねじ溝の様子です.

材質はステンレスであり,強度が高くなったことにより,確実にフロートチャンバを取り付けられる様になりました.




図2.2 整備の完了したキャブレータ

 図2.2は各所分解整備の完了したキャブレータの様子です.

赤い四角で囲んだAの部分が今回ヘリサート加工した部分を示しています.



図2.3 規定トルクでのねじの締め付け

 図2.3はトルクドライバを使用しフロートチャンバを取り付けている様子です.

ねじ径が4mmということや標準締め付けトルクを参考にしながらも,ガソリンを密封しなければならないこと,

他の3か所はねじ溝がアルミ合金であること等を総合的に判断し,最適な締め付けトルクで組み付けました.

すべてを組み立て試運転を行い,ガソリン漏れ等の不具合がないことを確認して整備を完了しました.


考察】

 キャブレータに関する作業ミスの中でも,パイロットジェットの抜き取り時の破損 ※6 と同等に,

フロートチャンバ取り付けねじの破損が多いといえます.

今回の事例では,ねじを再度締め付ける際にまったく締まる気配がなかったことから,

すでにほとんど破損していた可能性が非常に高いと推測されます.

原因は,過去に作業した時のねじの締め過ぎであると考えられ,いわゆるオーバートルクにより,

キャブレータボデー側のアルミ合金が耐えられずに破損したといえます.


 このキャブレータは量販店でオーバーホールされた,というものですが,その時に破損したのか,

すでにその時に破損していたのかは分かりません.

しかしオーバーホールしたとなれば,やはりボロボロになったねじ溝を見過ごすことはできないはずです.


 メガスピードではトルク管理を重要視しています.

特にキャブレータ等の精密な機械にこそ厳重なトルク管理が求められ,

逆に勘で締められたようなキャブレータを“オーバーホールした”と称されている現状に危機感すら覚えます.

しかし,だからといって標準トルクを鵜呑みにしていたのでは正確な組み立てはできません.

整備書の指定トルクにすら幅があるように,

使用目的や材質その他把握していることをすべて考慮した上で締め付けトルクを決定する能力が求められるのです.






※1
 “2バレル2キャブレータ式スロットルバルブ廻りのオーバーホールについて(気化器の型式:BSW27)”

※2 
“始動系統及びパイロット系統の詰まりによる始動直後及び低速の燃焼不良について”

※3 
“フロートバルブシート固定ねじ緩め方向のナメと錆について”

※4
 “使用に伴うニードルジェットホルダの亀裂と空燃比の崩れについて”

※5
 “劣化したニードルホルダとピストンバルブの欠けについて”

※6 
“エキストラクターによる頭部破損パイロットジェットの抜き取りについて”






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