事例:E-106
劣化したニードルホルダとピストンバルブの欠けについて |
【整備車両】
GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250 推定年式:1987年 参考走行距離:約18,100km |
【不具合の状態】
始動直後に4番シリンダが燃焼不良を発生させていると同時に低速トルクが薄くなった状態でした. |
【点検結果】
この車両はお客様から薄くなった低速トルクの原因究明のご依頼を承り,メガスピードにて診断を行ったものです.
数年前に他店でキャブレータをオーバーホールしたとされるものですが,
エンジンの圧縮の有無を始めとした当社の点検結果として燃料系統に異常があると判断し,
改めてキャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行いました.
その結果,不具合の直接の原因はパイロットジェットとスタータジェットの詰まりであると判断しました.
ここではその際に確認した破損してるピストンバルブについて記載します.
図1.1は破損していたピストンバルブの様子です.
黄色の四角Aで囲んだ部分が欠けていることが分かります.
空気の流れや通常の使用方法でかける部位ではなく,また欠けている方向が垂直であること,
材質が硬いことや,部品として衝撃を発生させる運動をしないこと等総合的に判断すると,
人為的に破損させられた可能性が高いといえます.
その場合,放置されたキャブレータに良く見られるケースとして,
マイナスドライバ等で無理やり固着しているピストンバルブを持ち上げようと,
いわゆるてこの原理でこじられてしまっている場合が少なくありません.
この車両もお客様が量販店で購入されるまではそこで長期保管であったことから,購入時には固着を発生させており,
納車整備の際にこじられた可能性は否定できません.
もちろん当該量販店の在庫になる以前にこじられたものである可能性も当然排除できませんが,
いづれにしろ通常の使用で発生する破損ではないと推測されます.
図1.2は劣化して褐色に変色したホルダの様子です.
材質も脆くなり,使用に伴う樹脂の変形や接続部の摩耗等が確認できる為,
部品としての性能はかなり低下しているといえます. |
【整備内容】
ピストンバルブの欠けは実際の走行性能にはあまり影響しないといえますが,厳密にいえば空気の流れを乱すことや,
絶版になる前に新品にしておく価値があると判断し,劣化していた樹脂のニードルホルダと合わせて,
構成部品をすべて新品に交換しました.
図2.1は新品のピストンバルブ廻りの様子です.
ニードルやクリップ,スプリング,ワッシャ等が新品になることにより,
性能もさることながら金属光沢の美しさも取り戻しました.
またダイヤフラムはすでに新品に交換されたというお客様の情報と照らし合わせ,
実際にゴムの状態に柔軟性が見られ,樹脂部の色もほぼ新品の白に近いことから,その情報は正確であると判断し,
再使用しました.
図2.2は新品のピストンバルブに組み付けられた新品のニードルホルダの様子です.
ピストンバルブも性能を取り戻しましたが,ニードルを保持する樹脂部品であるホルダも新品にされたことにより,
この先も長く使用できるようになりました.
劣化した樹脂部品は触れただけで割れてしまうこともある為,やはり可能であれば新品に交換される必要があります.
金属の光沢も美しいものですが,新品の樹脂部品,特にキャブレータ内部のホルダ等は純白が多く,
金属とはまた別の魅力を持ち合わせています.
図2.3 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ |
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図2.3は各所オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータの様子です.
スロットルバルブ廻りも含めて洗浄や錆取り研磨された美しい外観 ※1 もさることながら,
新品になったピストンバルブの黒も非常に美しいといえ,この先長く活躍することが期待されます. |
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