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事例:E‐81

2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:M301)


【整備車両】

 RG500EW (HM31A) RG500Γ(ガンマ) Ⅱ型  年式:1986年  参考走行距離:約14,000km


【不具合の症状】

 オイルチェックバルブが衰損していた為,その整備と同時にオイルポンプを含めたオイルラインの整備一式を承りました.


【点検結果】

 この車両はお客様が他店で購入され,公道を走行する前に各所点検整備をしておきたいというご希望を承り,

メガスピードに入庫されたものです.

オイル廻りの整備一式を承り,各部を点検すると同時にオイルポンプの吐出量の測定を行いました.

クランク軸からオイルポンプまでの動力伝達経路は,クランク軸ギヤからパイロット軸ギヤを介して,

プライマリドライブギヤに伝達され,プライマリドリブンギヤ,ファーストドライブギヤへと伝わり,

ファーストドリブンギヤ,そしてオイルポンプギヤへと導かれます.

それぞれ歯数は54T,54T,26T,58T,11T,29T,21Tであることから,

クランク軸からオイルポンプまでの減速比は約4,259となり,

オイルポンプレバー全開でクランク軸2,000rpmでオイルの消費量は7,1ml~7,7ml/2minの規定から,

ウォーム軸までの減速比が4,259であることから,このときウォーム軸は469,594rpmとなります.

すなわちウォーム軸400rpmでオイルの消費量は6,048ml~6,474ml/2minであり,181,440~194,220ml/hに換算されます.

消費したオイルが吐出口に均一にオイルが吐出されることは当社で過去に測定した実験結果から明らかであり,

このことから吐出口1つあたりのオイルの吐出量が45,360ml~48,555ml/hとなります.

つまり常温吐出特性がウォーム軸400rpmにおいて,

オイルポンプのレバー開度55°~64°におけるオイルポンプの吐出口1口当り46,2ml/hの規定は,

その範疇に含まれることが分かります.

これはフルスロットルすなわちオイルポンプのレバー開度が全開の吐出量の基準とし,

アイドリング回転数1,500rpmにおけるオイルポンプのレバー開度全閉の吐出量の基準は次の値をとります.

レバー開度9°以下でのウォーム軸400rpmにおけるオイルポンプからの一口当りの吐出量は3,26ml/hの規定により,

オイルポンプの減速比4,259からウォーム軸400rpmにおけるクランク軸の回転は1703,599rpmであり,

クランク軸1500rpmにおけるウォーム軸は352,196rpmの吐出量2,870ml/hが基準となります.

これらを踏まえた上で実際のオイル消費量を測定しました.

ここではオイルポンプの吐出量とその考察を記載します.


RG400ΓⅠ型のオイルポンプ吐出量の測定事例
※1 や,RG400ΓⅡ型のオイルポンプの吐出量の測定事例 ※2

そしてRG400ΓⅠ型とRG400ΓⅡ型及びRG500Γのオイルポンプとの違い
※3 は,

それぞれの関連リンクをご覧下さい.




図1.1 規定回転数におけるオイルポンプ吐出量の測定

 図1.1はオイルポンプを規定回転数で回し,

オイルポンプからのオイルの吐出量とオイルポンプのオイルの消費量を測定している様子です.

フルスロットル時に必要な最大消費オイル量が満たされているか,

アイドリング時に必要な最低消費オイル量が満たされているか,をそれぞれ検査し,結果を表1にまとめました.




a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1,65ml 49,50ml 3,30ml
2番 1,65ml 49,50ml 3,45ml
3番 1,65ml 49,50ml 3,15ml
4番 1,65ml 49,50ml 3,30ml
合計 6,60ml 198,00ml 13,20ml
6,35ml 190,50ml 11,75ml
誤差 0,25ml 8,50ml 1,45ml
規定値 6,00~6,50ml 46,20ml/1箇所 2,90ml
表1.1 オイルポンプのオイル吐出量

 表1.1において,薄い青で示したセルの数値は規定値であり,薄い赤で示したセルの数値はそれに対する測定値です.

まずウォーム軸400rpm,2分間レバー全開における測定結果は,

1番から4番キャブレータへ接続される吐出口の吐出量はすべて約1,65mlと均一で非常に良好であると判断でき,

これは1時間に換算すると約49,50mlになり,規定の約46,20mlを約7%上回り,それが安全マージンになるといえます.

またオイルポンプのオイル消費量は約6,35mlと,規定値中間であり,

消費量と吐出量の誤差が0,25mlであることを考慮すると,

非常に良好であることが分かります.


 次にウォーム軸352rpm,1時間レバー全閉における測定結果は,規定の約2,90mlに対して,

1番が3,30mlで約14%,2番が3,45mlで約19%,3番が3,15mlで約9%,4番が3,30mlで約14%上回っており,

それぞれ余剰分が安全マージンであるといえます.

上記の結果から取り外したオイルポンプのオイルの消費量及びオイルの吐出量を含めた性能は正常であると判断しました.



【整備内容】

 オイルポンプの吐出量が正常であることが確認できた為,オイルホースの新品交換や
オイルチェックバルブの加工 ※4

オイルタンクの洗浄等を含めたオイル廻りの整備一式を行い,試運転の結果良好であることを確認して整備を完了しました.



【考察】

 この事例ではオイルポンプの吐出量の測定をとりあげましたが,

オイルはライン一式で考える必要であり,オイルの入り口であるオイルタンク,そこからオイルポンプまでのホース,

そしてオイルポンプ本体,オイル本体からキャブレータまでのオイルホース,そしてキャブレータのオイルチェックバルブ,

更にはオイルレベルスイッチやインジケータ等すべてが重要であり,どれも欠かすことができません.

中でもオイルポンプは機関の根幹であり,まずオイルポンプが正常でなければすべての不具合につながります.

その為にもオイルポンプの測定は必要であり,データに基づいた確実な測定が求められます.


 例えばRG500ΓのSUZUKI純正の整備書(サービスマニュアル)ではオイルポンプの点検は,

クランク軸2,000rpmにおいてオイルポンプが消費するオイルの量を測定する方法しか記載されていません.

それだけでは極めて不十分であるといわざるを得ず,

一般的な他店ではその点検すら実際に実施される事はほとんどないといっても過言ではありません.

私が2サイクルエンジンの車両について,今まで目にしてきたパターンで一番多いのが,

“オイル関係は何も見てないけど,とりあえずエンジンかかっているから大丈夫”,という発言です.

一体何をもって大丈夫なのか,何が大丈夫なのか,そしてどの部分がどの様に大丈夫なのか,

まったく科学的根拠や数値的裏付けがなく,その都度,認識レベルの低さに落胆していました.


 当社では,他店で購入された直後の何も見ていない車両の整備を承る機会が少なくありませんが,

オイル廻りを包括的に点検していると,実際に危ないと感じた事例は多々あり,

その中でも
オイルホースのオイルチェックバルブの付け根が切れている事例 ※5 や,

オイルホースがオイルチェックバルブから半分抜けていた事例
※6 があり,

オイルタンクについては,フィルターが詰まっていた事例
※7 がありました.

これらがもし点検整備されなければ近い将来エンジン焼き付きといった,

甚大な不具合を発生させる可能性が極めて高いといえます.


 メガスピードでは可能な限り,測定に基づいた細かな点検整備を行うことにより,

数値的根拠に基づいた安心を提供させていただけるよう日々研鑚を重ねております.

すでに上述したように,例えばRG500Γをとれば,整備書に記載されている点検方法では極めて不十分であり,

ミッションやクランク,パイロット軸のギヤ数からオイルポンプまでの減速比を割り出し,

規定回転における吐出数値を割り当て,

そこから得られた規定値に対して実際に測定した数値が整合するか確認しなければ,

厳密にオイルポンプが正常であるかどうかは判断できません.

メガスピードではそのレベルまで調査,点検測定,整合性の有無,部品の判断を行い今後の見通しを立てます.

過去に測定した
オイルポンプからの自然落下量 ※8 や,それに対するオイルチェックバルブの保持圧力の測定等,

RG500/400Γのオイルポンプに関して最高水準の点検測定を行っており,他の追随を許しません.

なぜそこまでするのか.

答えは簡単です.

RG500/400Γを所有され,乗られている方に,あるいはこれから乗ってみようと考えているお客様に,

少しでも安心して楽しく乗っていただきたい,それだけです.

メガスピードでは何も見ずに“~だろう”という判断は行いません.

必ず点検測定し,数値等を含めて確実な論拠に基づいた整備を行うことにより,確かな安心をお届けします.

そしてそれがお客様の人生における楽しい時間に少しでもつながる結果をもたらすことができれば,

これ以上の喜びはありません.






※1 “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅰ型)”

※2 “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅱ型)”

※3 “K301Ⅰ型及びⅡ型とM301型の2サイクルエンジンオイルポンプ吐出量の違いについて”

※4 “オイルチェックバルブの衰損によるキャブレータ外部への2サイクルエンジンオイルの流出について”

※5 “オイルホースの破損によるエンジン焼き付きの危険性について”

※6 “オイルホースの取り付け不良によるオイル漏れとエンジン焼き付きの危険性について”

※7 “オイルフィルタに堆積した固形物によるオイル供給量の低減について”

※8 “オイルチェックバルブの衰損によるキャブレータ内部への2サイクルエンジンオイルの流入について”







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