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K301Ⅰ型及びⅡ型とM301型の2サイクルエンジンオイルポンプ吐出量の違いについて


【考察車両】

RG400EW(Ⅰ型),RG400EW-2W(Ⅱ型),RG500EW(Ⅰ型,Ⅱ型)


【点検結果】

この事例ではK301Ⅰ型とK301Ⅱ型,そしてM301型すなわち,

RG400ΓⅠ型,RG400ΓⅡ型とRG500Γのオイルポンプの吐出量の違いについて記載します.

規定値のみならず,実際に吐出量を測定することにより,規定値が参考になることを示し,

また規定値からRG400ΓのⅠ型とⅡ型そしてRG500Γのセッティングについて考察します.

目的は排気量に対するオイル吐出量の比較と,それによる適正な混合比を算出することですが,

その必要性は,RG400Γの中でもⅠ型とⅡ型でオイルポンプが異なり,

RG400ΓⅡ型のオイルポンプとRG500Γのオイルポンプが同一であることから,

その矛盾点及びそれに対する見解を示す必要性があるということを明確にすることです.



まず大切なのは,RG400Γの中でもⅠ型とⅡ型でオイルポンプが異なることを認識することです.

メガスピードでは数多くのRG500/400Γの整備をこなすことにより,その違いは早くから認識していましたが,

実際にそれを客観的に考察している整備技術者がどの程度存在するのかは分かりませんが,

少なくとも当社ではお客様にその重要性や差異を示す必要があると考えました.

RG400ΓⅠ型のオイルポンプの品番は16100-20A00ですが,

途中で品番が変更され,16100-21A00になっています.

これはRG400ΓⅡ型の正規の部品番号であることから,

Ⅱ型が発売された頃にⅠ型のポンプとⅡ型のポンプが統一されたことになります.

しかし整備書ではⅠ型の規定値しか記載されておらず,

Ⅱ型のオイルポンプを測定する際には誤った情報の下で測定され兼ねません.

ではⅡ型の吐出量はどうかというと,部品番号からRG500Γと同一であることが分かり,

RG500Γの規定値を使用する必要があります.

実際に測定してみれば明らかですが,正常なオイルポンプであれば,RG400ΓⅠ型はRG400Γの規定値とほぼ一致し,

RG400ΓⅡ型とRG500ΓⅡ型はRG500Γの規定値とほぼ一致することが確認できます.

以下表1.1,表1.2及び表1.3はそれぞれRG400ΓⅠ型のエンジンK301(Ⅰ型)のオイルポンプの吐出量
※1

RG400ΓⅡ型のエンジンK301(Ⅱ型)のオイルポンプの吐出量
※2

そしてRG500ΓのエンジンM301型のオイルポンプの吐出量
※3 を測定した結果です.

各表の分析結果や詳細はそれぞれの事例をご覧下さい.



a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1.20ml 36.00ml 2,20ml
2番 1,20ml 36,00ml 2,20ml
3番 1,20ml 36,00ml 1,80ml
4番 1,20ml 36.00ml 1,80ml
合計 4,80ml 144,00ml 8.00ml
4,80ml 144,00ml 8,20ml
誤差 0ml 0ml -0,20ml
規定値 4,50~4,95ml 34,7ml/1箇所 2,15ml
表1.1 K301(Ⅰ型) オイルポンプ(品番:16100-20A00)のオイル吐出量



a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1,55ml 46,50ml 2,90ml
2番 1,40ml 42,00ml 3,05ml
3番 1,60ml 48,00ml 3,70ml
4番 1,50ml 45,00ml 3,60ml
合計 6,05ml 181,50ml 13,25ml
6,20ml 186,00ml 12,15ml
誤差 -0,15ml -4,50ml +1,10ml
規定値 6,00~6,50ml 46,20ml/1箇所 2,90ml
表1.2 K301(Ⅱ型) オイルポンプ(品番:16100-21A00) のオイル吐出量



a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1,65ml 49,50ml 3,30ml
2番 1,65ml 49,50ml 3,45ml
3番 1,65ml 49,50ml 3,15ml
4番 1,65ml 49,50ml 3,30ml
合計 6,60ml 198,00ml 13,20ml
6,35ml 190,50ml 11,75ml
誤差 +0,25ml +7,50ml +1,45ml
規定値 6,00~6,50ml 46,20ml/1箇所 2,90ml
表1.3 M301型 オイルポンプ(品番:16100-21A00) のオイル吐出量



これらの結果から,RG400ΓⅠ型のオイルポンプは,

RG400ΓⅠ型に対して設計されたといえます.

もう少し厳密にいえば,400ccの排気量に対する適正な吐出性能をそなえたオイルポンプであるといえます.

オイルの消費量はシリンダのボアやストロークも設計に考慮されていると考えられますが,

排気量でいえばRG400Γの400ccとRG500Γの500ccとでは1,25倍と大きく違い,

それにもかかわらずRG400ΓⅡ型とRG500Γのオイルポンプが,

同一であることには疑問が生じ,その経緯を考察する必要があります.

(品番:16100-21A00)のオイルポンプすなわち後期型のオイルポンプが,

RG500Γ用すなわち排気量500ccを潤滑する為に設計されたと考えれば,

一口あたりのオイルポンプ吐出量46,20ml/Hが,

その排気量の80%しかないRG400Γに適用されれば,当然オイル過多となることは明白です.

その逆で,RG400ΓⅡ型用に設計されたとすれば,RG500Γの500ccはその1,25倍の排気量であり,

RG500Γに使用されればオイル不足が懸念されるのは言うまでもありません.

また同じ排気量であるRG400ΓⅠ型のオイルポンプの吐出量はRG400ΓⅡ型の吐出量より少ない為,

Ⅰ型の吐出量が実際には不足していた為,RG400ΓⅡ型で設計を変更されたとすれば,

RG400ΓⅠ型はオイル不足により不具合を発生させて故障しているはずですが,

実際にはその様な事例は少ないといえます.

これらのことから,RG400ΓⅡ型及びRG500Γに使用されている後期型のオイルポンプは,

RG500Γ用に設計され,コスト削減の一環として,同時期に発売されたRG400ΓⅡ型も同じポンプを使用し,

またもとからあったRG400ΓⅠ型も,部品で注文した場合は後期型のオイルポンプを提供する流れになったのではないか,

と判断することができます.

そしてもしRG500Γ用に設計されたオイルポンプがRG400ΓⅡ型でも使用されているということは,

RG400ΓⅡ型のオイルポンプのオイル吐出量は排気量に対して1,25倍多くなっていると考えれらます.

これはRG400ΓⅠ型には見られない現象であり,

RG400ΓⅠ型とⅡ型のキャブレータ,メーンジェットの番手がともに#135が標準とされていることからも,

ガソリンに対するオイルの比率に差異があり,

RG400ΓⅡ型ではオイル過多によるプラグのかぶりやそれによる吹け上がりの鈍化が懸念されます.

すなわちこのことがまさに個体に合わせてキャブレータセッティングを行う必要性であり,

その為にも現在の車両のオイルポンプの吐出性能を調べることが求められます.



ここで問題となるのは,RG400Γのオイル吐出量とRG500Γのオイル吐出量の排気量に対しての比率です.


レバー開度 RG400ΓⅠ型 (品番:16100-20A00)  RG400ΓⅡ型,RG500Γ (品番:16100-21A00) 
0°~9° 2,44ml 3,26ml
32° 18,60ml 24,70ml
55°~64° 34,70ml 46,20ml
表1.4 オイルポンプ(品番:16100-20A00)と(品番:16100-21A00)のオイル吐出量規定値の比較


表1.4はRG400ΓⅠ型のオイルポンプとRG400ΓⅡ型及びRG500Γのオイルポンプの規定値を排気量に対して比較したものです.

RG500Γについてみれば,排気量はRG400Γの1,25倍ですが,オイルポンプのオイルの吐出量は,

どのオイルポンプレバー開度においても約1,33倍であり,排気量に換算すれば,32%程度オイルの量が多くなっています.

これは設計製作上の誤差というより,出力に対する余剰潤滑を目的としたものであるととらえるべきであるといえます.

またRG500Γにおいてはメーンジェットは#125が標準であり,RG400Γと比較すると排気量が1,25倍であるにもかかわらず,

RG400Γの#135から番手でいえば10番下げられています.

これはキャブレータを含めた吸気系統がRG500/400Γで共通していることから,

RG500Γは吸入空気量が額面通り増加せず,逆に排気量によるベンチュリ部の流速増大によるガソリンの吸い出し等も,

密接に関連してきます.

したがって,2サイクルエンジンにおいて充填効率という概念を単純に用いることはできませんが,

仮に同一の充填効率で同一の空燃比,同一の図示出力が得られるものであるとすれば,

RG400Γの59PSに対してRG500Γが74PSにならずに実際は64PS程度に抑えられているのは,

それらが影響していると考える必要があるといえます.

しかしメーンジェットの番手の選定を理由づける意味は必ずしも重要であるとはいえず,

むしろその状態でRG500Γでは排気量比で約32%増量しているオイルポンプの吐出量を主眼にしなければならず,

ひいてはそれがRG400ΓⅡ型に使用される場合におけるキャブレータやオイルの吐出量の,

セッティングの重要性を認識すべきであるといえます.

次にこの表において留意しなければならないのは,

レバー開度55°~64°における吐出量が,RG500/400Γすべてのオイルポンプにおいて,

レバー開度0°~9°の約14,2倍であるということです.

その範疇でエンジンはそれだけの変動を許容していることになり,

着目点はやはりレバー開度55°以上のフルスロットルの加速状態であるといえます.


【考察】

メガスピードでRG500/400Γ,特にRG400Γのオイルポンプの吐出量を厳密に測定しているのは,

ただ単にオイルポンプが正常に稼働しているかどうかだけではなく,

排気量に対して現在どのような状況にあるのかを把握し,正確なキャブレータセッティングを行う為なのです.

確かにオイルポンプ外観からの型式判断も重要ですが,

すでに発売が1980年代半ばであるということからすれば,

実際の吐出量の測定が最上級のセッティングを生み出す要であるといえます.

そしてその吐出量に合わせてスロットル開度におけるレバー開度をセッティングする必要があり,

更にそれを踏まえた上でキャブレータの燃料調整を行うべきであり,

逆にいえば,オイルの吐出状態に合わせたキャブレータセッティングがなされていない車両は,

残念ながら素人整備の域を出ていないといえ,

結果的に何となく走れる状態が継続されているだけのケースが見られることもまた事実です.

整備書ですらその程度の範疇でしか言及されていないことからも,

アバウトな考えで行けば,“問題なく走っている”という解釈でひとくくりにされても,一定の結果は得られるでしょう.

しかし分離給油であれば尚,一見重箱の隅を突くようなこの違いが,

実は2サイクルエンジンを考える上で最も大切な概念のひとつであり,

むしろオイルの問題をセッティングに含めない方が不自然であり,

そこに留意してセッティングを詰められるかどうかがプロフェッショナル,

ひいてはスペシャリストか否かという判断基準であると捉えても何ら違和感を感じません.



メガスピードでは常に理論と実際に基づき車両に向き合っております.

もし“何だかエンジンの調子が悪いな”と感じた場合は,エンジンの圧縮状態やキャブレータの状態も含めて,

一度当社でオイルポンプの測定をしておけば,それが今後の課題を浮き彫りにし,

燃料を含めた包括的なセッティングの手引きとなり,

それにより一層充実したバイクライフを送れる可能性が高まるといえます.






※1 RG400ΓⅠ型のエンジンK301(Ⅰ型)のオイルポンプの吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅰ型)”



※2 RG400ΓⅡ型のエンジンK301(Ⅱ型)のオイルポンプの吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅱ型)”



※3 RG500ΓのエンジンM301型のオイルポンプの吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:M301型)”






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