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2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅰ型)


【整備車両】

RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1985年  (参考)走行距離:約13,800km


【不具合の症状】

エンジンの吹け上がりが鈍い状態でした.


【点検結果】

この車両は他店で購入されたものの,吹け上がりが悪いという状況を改善すべく,

メガスピードにて整備を承ったものです.

外装はいわゆるウォルターウルフのⅡ型であったものの,

車検証やフレーム番号からⅠ型であると確認されました.

これは過去のいづれかの段階で外装のみ換装されていたと考えれらます.

またハンドルスイッチやその他Ⅰ型とⅡ型を区別する指標となる部品はそれぞれが混在している状態で,

フレーム以外はⅠ型と決定づける確実な公的参照物がない為,

実際にはどこがどのようになっているかは現物で判断することになりました.

古い車両であればこのようにグチャグチャになっているものも少なくありませんが,

特にRG400Γに関してはその傾向が顕著であり,

実際に整備を行う際には細心の注意が必要であるといえます.

エンジンの吹け上がりが悪いという状態を改善する為,まずエンジンの圧縮圧力を測定し,

エンジン本体は問題ないことを確認してキャブレータの整備と併せて,オイル廻りの整備一式を行いました.

ここではRG400ΓⅠ型のオイルポンプの吐出量について記載します.

RG400ΓⅡ型のオイルポンプ吐出量の測定事例
※1 や,RG500Γのオイルポンプの吐出量の測定事例 ※2 は,

それぞれの関連リンクをご覧下さい.



まず動力はクランク軸からオイルポンプまでの動力伝達経路は,クランク軸ギヤからパイロット軸ギヤを介して,

プライマリドライブギヤに伝達され,プライマリドリブンギヤ,ファーストドライブギヤへと伝わり,

ファーストドリブンギヤ,そしてオイルポンプギヤへと導かれます.

それぞれ歯数は54T,54T,26T,58T,11T,29T,21Tであることから,

クランク軸からオイルポンプまでの減速比は約4,259となり,

オイルポンプレバー全開でクランク軸2,000rpmでオイルの消費量は5,3ml~5,8ml/2minの規定から,

ウォーム軸までの減速比が4,259であることから,このときウォーム軸は469,594rpmとなります.

すなわちウォーム軸400rpmでオイルの消費量は4,515ml~4,940/2minであり,135,45ml~148,20ml/hに換算されます.

消費したオイルが吐出口に均一にオイルが吐出されることは当社で過去に測定した実験結果から明らかであり,

このことから吐出口1つあたりのオイルの吐出量が33,86ml~37,05ml/hとなります.

つまり常温吐出特性がウォーム軸400rpmにおいて,

オイルポンプのレバー開度55°~64°におけるオイルポンプの吐出口1口当り34,7ml/hの規定は,

その範疇に含まれることが分かります.

これはフルスロットルすなわちオイルポンプのレバー開度が全開の吐出量の基準とし,

アイドリング回転数1,500rpmにおけるオイルポンプのレバー開度全閉の吐出量の基準は次の値をとります.

レバー開度9°以下でのウォーム軸400rpmにおけるオイルポンプからの一口当りの吐出量は2,44ml/hの規定により,

オイルポンプの減速比4,259からウォーム軸400rpmにおけるクランク軸の回転は1703,599rpmであり,

クランク軸1500rpmにおけるウォーム軸は352,196rpmの吐出量2,148ml/hが基準となります.

車両はRG400ΓⅠ型であり,その規定値を用いりました.

ここで気をつけなければいけないのは,RG400ΓのⅠ型とⅡ型で部品番号が変わる上,

Ⅱ型で変更された品番がRG500Γと統一であることから,

Ⅱ型はRG500と同じオイルポンプが使用されていたと考えられ,規定値もそれに沿ったものでなければならないばかりでなく,

排気量に対するオイルの吐出量が増えたことにより,厳密にいえばセッティングが変更されなければなりません
※3

今回の点検では,これらを踏まえた上で実際のオイル消費量を測定しました.



図1,1 規定回転数におけるオイルポンプ吐出量の測定

図1,1はオイルポンプを規定回転数で回し,

オイルポンプからのオイルの吐出量とオイルポンプのオイルの消費量を測定している様子です.

フルスロットル時に必要な最大消費オイル量が満たされているか,

アイドリング時に必要な最低消費オイル量が満たされているか,をそれぞれ検査し,結果を表1.1にまとめました.




a オイルポンプウォーム軸:400rpm オイルポンプウォーム軸:352rpm
2分間 レバー全開 (測定値) 1時間 レバー全開 (換算値) 1時間 レバー全閉 (測定値)
1番 1.20ml 36.00ml 2,20ml
2番 1,20ml 36,00ml 2,20ml
3番 1,20ml 36,00ml 1,80ml
4番 1,20ml 36.00ml 1,80ml
合計 4,80ml 144,00ml 8.00ml
4,80ml 144,00ml 8,20ml
誤差 0ml 0ml -0,20ml
規定値 4,50~4,95ml 34,7ml/1箇所 2,15ml
表1.1 K301(Ⅰ型) オイルポンプのオイル吐出量

表1.1において,薄い青で示したセルの数値は規定値であり,薄い赤で示したセルの数値はそれに対する測定値です.

まずウォーム軸400rpm,2分間レバー全開における測定結果は,

1番から4番キャブレータへ接続される吐出口の吐出量はすべて1,20mlで,偏りがなく,

これは1時間に換算すると平均約36,00mになり,規定の約34,7mlを約3,7%上回り,吐出性能は非常に良好であるといえます.

またオイルポンプのオイル消費量は約4,80mlと,規定値中間であり,消費量と吐出量の誤差がなく,

これも非常に良好であることが分かります.

次にウォーム軸352rpm,1時間レバー全閉における測定結果は,規定の約2,15mlに対して,

1番,2番が2,20mmlと規定を約2,3%上回り,3番と4番が1,80mlと規定を約17%下まわっています.

測定時間が60分であることから,それぞれの過不足は測定誤差の範囲であり,良好であると判断できます.

上記の結果から取り外したオイルポンプのオイルの消費量及びオイルの吐出量を含めた性能は正常であると判断しました.


【整備内容】

オイルポンプの吐出量が正常であることが確認できた為,オイルホースの新品交換やオイルチェックバルブの加工,

オイルタンクの洗浄等を含めたオイル廻りの整備一式を行い,

キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)及びセッティングと,

オイル吐出量のセッティングを行い,試運転の結果良好であることを確認して整備を完了しました.


【考察】

この事例ではオイルポンプの吐出量の測定をとりあげましたが,

オイルはライン一式で考えることが必要であり,オイルの入り口であるオイルタンク,そこからオイルポンプまでのホース,

そしてオイルポンプ本体,オイル本体からキャブレータまでのオイルホース,そしてキャブレータのオイルチェックバルブ,

更にはオイルレベルスイッチやインジケータ等すべてが重要であり,どれも欠かすことができません.

中でもオイルポンプは機関の根幹であり,まずオイルポンプが正常でなければすべての不具合につながります.

その為にもオイルポンプの測定は必要であり,データに基づいた確実な測定が求められます.

2サイクルエンジンのキャブレータ調整を行う場合は必ずオイル廻りのセッティングも同時に行われる必要があることからも,

オイルの状態は確実に把握しておかなければなりません.



この事例では外装や取り付け部品からⅡ型であるように見えますが,

実際はⅠ型の車体であり,エンジンであり,そしてオイルポンプもⅠ型でした.

オイルポンプはⅠ型とⅡ型で異なる為,

正確なキャブレータセッティングはそれぞれどのオイルポンプが使用されているか把握しておく必要があり,

Ⅱ型に見えたこの車両でも,実際のオイルの吐出量からⅠ型のセッティングが求められます.

そしてその判断を行うには実際にオイルポンプの吐出量を測定しなければ,

きちんとしたセッティングを行うことができないといえます.

趣味でやるのであれば,“こんなものだろう”といったアバウトさが許されるかもしれませんが,

それでは実際に車両を把握していることにはならず,所詮その壁の範疇でいじくられたバイクに過ぎません.

メガスピードでは必ずオイルポンプの吐出能力を測定し,

それに合わせたキャブレータセッティングを含めて包括的に取り組むことにより,車両の性能を引き出しています.

プロフェッショナルであればその水準が求められ,

その真髄は,400ccの2サイクルエンジン搭載車両は面白いというお客様のバイクライフを,

可能な限りサポートさせていただくことであり,それがすべてであるといっても過言ではありません.






※1 RG400ΓⅡ型のオイルポンプ吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:K301Ⅱ型)”



※2 RG500Γのオイルポンプ吐出量の測定事例

   “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:M301型)”



※3 RG400ΓⅠ型とRG400ΓⅡ型及びRG500Γのオイルポンプの違いについて

   “K301Ⅰ型及びⅡ型とM301型の2サイクルエンジンオイルポンプ吐出量の違いについて”






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