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事例:D-67

位置決めピンの削除がもたらすスロットル操作時のハンドルスイッチの共回りについて

【整備車両】
 
GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ) 年式:2000年  参考走行距離:約30,000 km
【不具合の状態】 
 少し強くスロットル操作を行うとハンドルスイッチがグリップと一緒に回ってしまう状態でした.
【点検結果】 
 この車両は中古で購入されたものですが,その段階ですでにトップブリッジとハンドルがセットで社外品に交換されていました.そしてスロットルをラフに操作すると,ハンドルスイッチが一緒に回ってしまい,スロットルケーブルがブレーキレバーにぶつかってやっと止まる状態でした.実際に乗ってみれば容易に理解できますが,スロットル操作時にハンドルスイッチが一緒に動いてしまうのは非常に不快で気分の悪いものです.
 今回は同時に劣化していたスロットルワイヤもの交換 ※1 や,固定不良のグリップの交換 ※2 など,周囲をすべてセットで是正することになりました.またFIランプが点灯した ※3 為,それもあわせて整備しました.

図1.1 ブレーキレバーに接触しているスロットルケーブル
 図1.1 はスロットル操作時にハンドルスイッチが一緒に共回りして,スロットルケーブル引き側がブレーキレバーに接触している様子です.こうなる度に毎回元の位置に手で戻さなければなりません.

図1.2 削られている位置決めピン
 図1.2 は状態を確認する為にハンドルスイッチを開けた様子です.高確率でこうなっているだろうことは覚悟していましたが,実際に目にするとガッカリです.黄色の楕円で囲んだ部位が位置決めピンですが,本来あるはずのピンが削られて無くなっていました.
 この様にされる理由はただひとつ,社外ハンドルに位置決めピンの収まる穴が無いことから,簡単に切り取れる位置決めピンが削除された為です.

図1.3 位置決めピンの穴のない社外ハンドル
 図1.3 は社外ハンドルの様子です.位置決めピンの収まる穴が純正のハンドルには必ずと言っていいほどありますが,社外のハンドルにはないことの方が多く,大半はこの様な状態です.したがって,ハンドルに穴を開けるより容易なハンドルスイッチの位置決めピンの削除が実行され,取り付けられてしまうのです.社外ハンドルを加工して傷つけたくない,というよりは,金属を加工するよりハンドルスイッチの樹脂の位置決めピンを削った方が楽だという流れでしょう.


【整備内容】
 ハンドルスイッチを固定して共回りを防止する為,スイッチ側,ハンドル側の両方に対策加工しました.

図2.1 位置決めピン取り付け穴
 図2.1 は位置決めピンを取り付ける為の穴をハンドルに開けて面取りした様子です.これによりハンドル側の準備が整いました.本来純正のハンドルであればこの様な穴は最初から存在します.

図2.2 圧入された位置決めピン
 図2.2 はハンドルスイッチに位置決めピンを圧入した様子です.赤色の円で囲んだ部位が位置決めピンですが,同質の樹脂ではなく金属を埋め込みました.

図2.3 整備の完了したハンドルスイッチ廻り
 図2.3 は回り止め加工の完了したハンドルスイッチの様子です.これにより例えラフなスロットル操作を行った場合でも,ハンドルスイッチはスロットルグリップと一緒に共回りしなくなりました.


【考察】 
 高価なアフターパーツの場合,それに傷を付けたくないが為に必要な加工を渋るユーザーが少なくありません.例えばこの事例ではハンドルを傷つけない為に回り止めの穴を開けず,ハンドルスイッチの突起が削られていました.もっともハンドルを傷つけたくないという理由よりは,樹脂の突起を削った方が早い為,安易にその様な加工をしてしまった可能性の方が高いと言えます.確かにそうすれば取り付けることは可能ですが,回り止めが無い場合,ハンドルスイッチを固定するのは6mmのねじ2本の締め付けによる摩擦だけになります.しかもハンドルスイッチは全体が樹脂部品なのであまり強く締めると損傷します.したがって,不十分な固定はスロットル操作時にグリップと一緒にハンドルスイッチが共回りし,スロットルケーブルがブレーキレバーに当たってしまうという状態に陥ります.

 取り付けの際に金属に穴を開けるのが大変だから,簡単な樹脂側を削るというのは,それがもたらす結果を考えれば安易です.今回の事例では樹脂の突起が削られてしまっていた為,金属の突起を埋め込むことで対応しました.しかし社外ハンドルを取り付けた際にハンドルに穴を空ければそれで終わる話だったのです.

 人間はつい楽をしたがります.簡単な方を選択しがちです.もちろん結果が大差なければより効率の良い方を選ぶのは自然なことです.しかしこの事例のように,安易な選択がハンドルスイッチの共回りという極めて不快な結果につながることを考えれば,樹脂の突起を削ってしまうという愚かな選択肢はないのです.

 世の中カスタムカスタムと言いますが,このようなカスタムはデチューン以下の欠陥品を作っているだけです.純正のハンドルにきちんと純正のハンドルスイッチが固定されていた方が100倍も優れています.それほどハンドルスイッチはスロットル操作で共回りしてはならない部品なのです.この車両は中古で購入されたものですが,すでのその時点でトップブリッジやハンドル廻りが変更されていました.したがって,その様な場合は今回の様な手抜きカスタムが潜在している可能性が高く,もし実際にそうであれば,その場合にはハズレを引いてしまったと諦めて,とにかく機能を回復することを考える必要があります.

 大げさかもしれませんが,ハンドルスイッチのスロットル操作時の共回りは非常に不快です.これはこの様な車両に乗ったことのある方にしか分からないと思いますが,とにかく少しでもラフにスロットル操作するとすぐにハンドルスイッチの位置がずれるのです.ずれれば手で戻さなければなりません.ですのでそうならないように毎回気をつかってスロットルを操作するのは強大なストレスになります.
 
 今回の修理によりその不快さが解消されましたが,それがもたらす恩恵は計り知れません.冷静に考えれば単に本来の姿に戻っただけなのですが,スロットル操作が余計な気を遣わずに思い通りにできることがどんなに素晴らしいことかと改めて気づかされます.いかに「本来の姿」が重要なものなのかを再認識する事例となりました.


※1 スロットルケーブルの摩耗とグリップ内部の抵抗増大により戻りが悪くなったスロットルについて
※2 接着剤の劣化によるハンドルグリップの密着不良について
※3 イグニションコイル二次側端子の錆による点火不良がもたらすFIインジケータの点灯について





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