イグニションコイル二次側端子の錆による点火不良がもたらすFIインジケータの点灯について |
【不具合の状態】
走行中にFI警告灯が点灯しました. |
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【整備内容】
この車両は走行中にFI警告灯が点灯したことにより,メガスピードにて原因究明と点検整備を実施したものです.今回の事例ではその原因であるイグニションコイルについて取り上げます. |
図1.1 LCD部に表示されたFIマークと点灯する警告灯 |
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図1.1 はコンビネーションメータ中央に位置するLCD部に表示されたFIマークと点灯しているFI警告灯の様子です.FI警告灯が点灯した場合,フェイルセーフで100%の性能を引き出せない様になっていますが,この車両は乗っていてそれほど違和感を感じませんでした. |
図1.2 は故障診断の為に専用カプラから専用ツールを接続した様子です.OBDⅡの様に過去の不具合が記憶されていれば良いのですが,この初期型のハヤブサはエンジンを切ると故障個所・内容がリセットされてしまう為,再現性の無い場合は,不具合が検出できない可能性があります.
幸い今回の不具合は,エンジンを切っても再始動するとすぐにFI警告灯が点灯する為,内容を読み出すことができました. |
図1.3 はLCDに表示された故障コードです.“C24” とは点火系統の不具合で,1番シリンダからの点火確認信号が2回連続で検出できない場合に表示されます.つまりこの時点で1番シリンダの点火系統に不具合があると判断することができます.これは非常に便利です.古いバイクの様に状況から故障診断する手間が省け,一気に故障ポイントにアクセスできます. |
図1.4 は1番シリンダの点火不良の点検を実施している様子です.FI故障コードが1番と場所を指定しているので,まず1番のみに使用されているコイルやプラグを点検することにしました.空間はかなり狭いものの,この手のバイクはタンクを外さなくて済むから助かります.それでも重いので燃料は少なくしてあります. |
図1.5 は1番シリンダから取り外したプラグの様子です.他の2番から4番プラグと比較しても全体的にカーボンが多く付着していることが分かります.少なくとも1番シリンダに2回連続で失火する症状がある為,点火不良が原因の一つになっていると考えられます. |
図1.6 は1番シリンダのコイルウィズキャップを取り外し,内部を確認する為にキャップゴムを外した様子です.二次側端子のプラグとの接触部が極度に錆びていることが分かりました.これでは電気の物理的な接触不良が発生していてもおかしくはありません.1番コイルだけなぜかこの様に著しく錆が発生していました. |
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【整備内容】
まず明らかに不具合の発生しているイグニションコイル二次側端子部の錆を除去し,全体を可能な限り磨くことから整備を開始しました. |
図2.1 錆の除去されたイグニションコイル二次側端子 |
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図2.1 は錆を除去したイグニションコイル二次側端子の様子です.これによりプラグへの電気的接続が物理的に良好になったと言えます.今回のFI警告灯の点灯原因がこの部位であるかどうか切り分ける為,ひとまずその他の条件を変更せずに戻すことにしました.他の3気筒はほとんど錆がありませんでしたが,この機会にすべて手入れしました. |
図2.2 確実に取り付けられたコイルウィズキャップ |
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図2.2 は各プラグにそれぞれ1つずつコイルウィズキャップを確実に取り付けた様子です.端子との接続部の緩みがないことを確認しました. |
図2.3 はコイル二次側端子の清掃のみを実施してからエンジンをかけたLCDの様子です.FI警告灯が消え,LCD部も“C00”という正常値を示しました.その後高速を含めて250km程の長距離の試運転を実施しましたが,一度も警告灯が点灯しないことを確認して整備を完了しました. |
図2.4 長距離試運転後に取り外した1番シリンダのプラグ |
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図2.4 は250km程の長距離の試運転を実施し,取り外した1番シリンダのプラグの様子です.FI警告灯が点灯していた時に取り外したプラグ(図1.5)はカーボンが多めだったのに対し,そのプラグをそのまま戻して再度取り外してみると,良く焼けていることが分かります.つまり付着していたカーボンは整備後に焼き切り,良好な点火状態に戻ったと判断することができます.この時点で前回のプラグ交換から5,000km程度走行した為,4気筒ともプラグを新品に交換しておきました. |
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【考察】
この車両は走行中にFI警告灯が点灯したものです.実際にはその前からまれにFI警告灯が点灯することがあり,エンジンを切ると表示が消えて何事もなく動く状態でした.ですので点灯すると気分は悪いものの,経験的にエンジンがかかって普通に乗れる可能性が非常に高いと分かっていました.また故障診断をするにも再現性がなく,FI警告灯はたまに点いては消える状態でした.システムが旧式で過去のデータが呼び出せない為,FI警告灯が点灯しているときにカプラから読みださなければならないのです.
しかし今回は点灯しっ放しになった上,エンジンを切っても再びFI警告灯がほぼ間違いなく点灯する状態だったので,メガスピードに帰ってから点検することが可能でした.もっとも,今回のことを踏まえてカプラーからLCDに故障コードを呼び出す専用工具は常時設置(付けっ放し)にしておくことにしました.そうすれば,いつFI警告灯が点灯してもエンジンを切らずにその場で故障診断コードを表示させることができます.
今回の故障診断コードは点火確認信号が2回連続1番シリンダから検出されないということで表示されたものです.つまり点火不良が発生していたわけですが,修理する前にFI警告灯が点灯しているときに色々確認してみました.まず乗った感じの加速感に違和感をほとんど感じないのと,1番マフラーも熱くて触れないくらいになっていることから,まったく点火していないわけではないと考えました.アイドリングもギクシャクしていないし,吹け上がりも問題ありません.FI警告灯は2回連続で点火確認信号が検出されない場合に点灯し,一度点灯したらエンジンを切るまで消えないので,おそらくたまたま2回連続で点火しないことがあるものの,ほとんどの場合は点火していると推測されます.もちろん二次側の錆だらけの端子を見れば火花が弱くなっていることは想像に難くありませんが,それでもエンジンがかかり走行できる範疇にあったと言えます.もし全く点火していなければ,取り外した1番プラグは真っ黒な煤だらけの上にガソリンがビショビショにかぶっているはずです.その場合は加速力も著しく弱くなるでしょうし,トルクもなくなるので発進しづらくなるはずです.
すでにこのGSX1300RハヤブサGW71型は発売から16年経過しています.今回の事例ではたまたま1番シリンダのイグニションコイル二次側端子のみに錆が発生していましたが,車両を全体的に手入れをしなければならない年代に入っていることを示しています.それも消耗品や目に見える部位ではなく,今回の事例のようにプラグキャップの奥の金属端子部に発生する錆の様な,普段あまり目にすることのない手の届かない部位に関する不具合が増加することが予想されます.
私は初期型のハヤブサが好きですが,それは現行に対するアンチテーゼではなく,本来バイクはもっと自由であるべきだと考えるからです.その中でも規制に対する考えは外せません.厳しくなる排ガス規制の中で,排気音の規制や触媒の設置,アイドリングでさえ自動調整になり,ABSやキャニスタの設置が義務化され,4輪と同じレベルの排ガス規制の導入など,こうしなくてはイケませんという条件で縛られてがんじがらめになっていくのが窮屈なのです.だから規制前のものに目が行くわけです.しかし排ガス検査の導入が2001年モデル付近ですから,もう規制前の車両はどんどん古くなる一方です.その上で規制前の車両に乗るのであれば,やはり予防的な整備を実施し,例え不具合が発生したとしても,ひとつずつ対処していこうとする心構えが大切です. |
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