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事例:E-256

ボルトの締め付け不良によるエキゾーストチャンバ付け根からの排気漏れについて

【整備車両】 
 RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ)  年式:1985年  参考走行距離:8,900 km
【不具合の状態】 
 1番シリンダおよび2番シリンダの排気管つなぎ目から排気漏れが発生していました.
【点検結果】 
 この車両は一年ほど前に不動に陥ったまま保管されていたということで,メガスピードにて再生のご依頼を承ったものです.ロータリーバルブカバーが破損していた ※1 り,キャブレータに2サイクルエンジンオイルが混入していた ※2 り,スロットルバルブが開きっぱなし ※3 だったり,様々な不具合が見られましたが,今回の事例では排気漏れについて記載します.

図1.1 排気漏れしている2番シリンダ
 図1.1は排気漏れの発生している2番シリンダのエキゾースト付け根の様子です.ドス黒い液体がフランジ下部だけでなくボルトからも漏れ出していることが分かります.特にボルトから排気漏れが発生していることからボルトが正常に締め付けられていない可能性があると言えます.

図1.2 ほとんど針の動いていない検査用トルクレンチ表示板
 図1.2はを検査用トルクレンチで排気ボルトの締め付け具合を測定した様子です.手応えから全く締め付けられていないと判断しましたが,実際に検査用トルクレンチで確認したところ,数値の上でも全く締まっていないことが分かりました.ボルトが締まっていなければ当然排気漏れが発生します.

図1.3 エキゾースト接合部
 図1.3は排気管を外した取り付け部の様子です.幸い雌ねじに損傷がありませんでした.見える範囲で内部を確認したところ,ピストンにわずかな摺動傷が見られるものの,深い縦傷等はありませんでした.このシリンダは圧縮圧力が約1,000kPaあったことから,この程度の傷はほとんど無視しても良いレベルであると考えることができます.

図1.4 ほとんど変形していないエキゾーストガスケット
 図1.4は取り外したエキゾーストガスケットの様子です.ほとんど潰れていない為,ボルトが緩んだのではなく,初めから締め付けが極めて不十分だった可能性を示唆しています.

図1.5 疲労の見られるマウントラバー
 図1.5はチャンバマウントラバーの様子です.当時モノの可能性が高く,材質に潰れや疲れが見られます.排気漏れの修理に際してシリンダとの接合部が重要なのは言うまでもないことですが,実際にはチャンバを車体に保持している部分のグラつき等も重要で,いくらシリンダとの接合部を直しても,チャンバを吊っているところがグラグラしていると,その影響がシリンダとの付け根まで及ぶことから必ず全体的にリフレッシュしておく必要があります.


【整備内容】
 シリンダとの接合部の部品やチャンバを吊っている個所の部品を新品に交換し,適切な締め付けトルクでチャンバを取り付けました.

図2.1 チャンバ取り付けに必要な新品の部品
 図2.1はシリンダとの接合部およびチャンバ取り付け部の新品の部品の様子です.ボルトは再使用すると折れる可能性があることや,取り外しの際の折れを防ぐ意味でも新品にすることが大切です.またスプリングワッシャも一度使用すれば潰れる為,取り外したら新品にする必要があります.これらを再使用すると,いくら排気管を付け直しても排気漏れが直らない場合があります.またマウントラバーも新品に交換して万全を期します.

図2.2 点検洗浄したマウントラバーハウジング
 図2.2は点検洗浄の完了した排気管のマウントラバーハウジングの様子です.亀裂や損傷等はなく,良好な状態であることを確認しました.

図2.3 新品のマウントラバーおよびスペーサ
 図2.3はハウジングに新品のマウントラバーを取り付けた様子です.これにより振動吸収性能が戻り,排気漏れを起こしにくくなりました.また同時にスペーサも新品にして気分もリフレッシュしました.スペーサは排気管を取り付けてしまえば見えなくなりますが,やはり見えない部分にも気を配りたいところです.

図2.4 点検洗浄されたシリンダの排気管接合部
 図2.4は排気チャンバ取り付け部を洗浄した様子です.これにより接合面の異物の噛み込み等を防ぎ清潔な状態で排気管を取り付けることが可能になりました.

図2.5 耐熱塗装された排気管付け根およびフランジ
 図2.5は排気チャンバの付け根とフランジを耐熱塗装した様子です.取り外したチャンバの付け根が赤く錆びていた為,錆取りおよび塗装を実施しました.

図2.6 排気漏れの解消した2番シリンダと排気管接合部
 図2.6は排気漏れの直ったチャンバ付け根の様子です.約170km程試運転を実施してから点検した様子ですが,ドロドロ漏れ続けていたドス黒い液体は一切見られず,完全に排気漏れが解消されました.

図2.7 確実に取り付けられた排気管マウント部
 図2.7は排気管を吊り下げているフレームの様子です.新品に交換されたマウントラバーによる排気漏れの耐性だけでなく,マウント部フレームへの振動の影響を低減するとともに,新品に交換されたボルトとワッシャにより見た目の美しさも取り戻すことができました.


【考察】 
 排気管の締め付けボルトは取り外し時に折損しやすく,特に2サイクルエンジンにおいては振動による疲労の影響でかなりの確率で折れる場合があります.またネジ溝がダメになりやすい部位でもあると言え,その脱着には慎重になる必要があります.しかしそれを恐れて締め付けを弱くしてしまっては排気漏れの発生原因になり,2サイクルエンジンではドロドロした燃焼オイルが垂れてきます.
 この事例ではガスケットの潰れ方が少ないことや,ボルトがほとんど締まっていないことから,過去の作業者が排気管を取り付けた際にほとんどねじを締め付けなかったと推測されます.しかし排気漏れを防止する為にも確実にボルトは締め付けられなければならず,もし規定トルクをかけてボルトが折れたりネジ溝が破損するようでは,材質そのものに問題があると考えなければなりません.そしてそこから対策する必要があります.
 今回は排気管のシリンダとの付け根が赤く錆びていた為,耐熱塗装してから取り付けました.やはり古いものであれば錆びているものが多く,その排気漏れを修理するのであれば,可能な限り再塗装しておくことが望ましいと言えます.


※1 ロータリーバルブカバー裏地の剥離による吸気口遮蔽がもたらす燃焼不良について
※2 キャブレータの燃料オーバーフローホースから出た2ストオイルについて
※3
 全開で固定されたスロットルバルブによるエンジン始動不能について





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