トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:61~70)



スロットル・ストップ・スクリュの取り付け不良と不安定なアイドリングについて


【整備車両】

RGV250M (VJ22A) RGV250Γ(ガンマ)  推定年式:1991年  参考走行距離:15,500km


【不具合の症状】

加速後のアイドリングが1,200rpm~3,000rpmの間で不安定な状態でした.


【点検結果】

この車両は他店でお客様が購入されたものの,エンジン焼き付きや,燃料漏れ,

オーバーヒート,その他様々な不具合によりメガスピードにて整備を承ったものです.

各所点検しているとスロットル・ストップ・スクリュの取り付けが不適切であることを発見しました.



図1 Eリングの脱落したスロットル・ストップ・スクリュ取り付けブラケット部

図1は2番シリンダキャブレータすなわち右側のスロットル・ストップ・スクリュが,

保持されるべきEリングが外れていたことによりブラケットに固定されず,ぐらぐらする状態でした.

これは振動によりねじが動く原因になるといえます.



図2  回り止めのスプリング及びシートが取り付けられていないキャブレータ

図2はアジャスト・スクリュのキャブレータ取り付け部の様子です.

黄色の四角Aの部分が接続されている箇所ですが,本来使用されているはずの,

振動等による緩み止めの為のスプリング及びスプリング・シートが欠落している状態でした.

これはアジャスト・スクリュが振動により動き,アイドリング時のエンジン回転が不規則に変化する原因になります.



図3 被覆が破れ,露出したワイヤの錆びたスロットル・ストップ・スクリュ

図3は点検の為に取り外したアジャスト・スクリュの様子です.

赤い四角A及びB部の被覆が破れていて,露出した内部に錆が発生していて動きが渋くなっていました.

これは調整する為にねじを動かす抵抗になります.


【整備内容】

被覆が破れて動きの渋くなっていたスロットル・ストップ・スクリュを新品に交換することにより動きをスムーズにし,

欠落していたスプリング及びシートを取り付け緩みの防止を図りました.

また外れていたEリングを新品に交換することにより,確実にブラケットに保持されるようにしました.



図4 新品のスロットル・ストップ・スクリュ

図4は新品のスロットル・ストップ・スクリュの様子です.

新品に交換することにより動きの滑らかさを取り戻し,

またEリングのシートやブラケットのスペーサ等の樹脂もASSYで新品になることにより,

その耐久性も向上しました.



図5 キャブレータに取り付けられた新品の回り止めスプリング及びシート

図5はアジャスト・スクリュのキャブレータへの取り付け部の様子です.

なくなっていたスプリング(黄色の四角A)及びシート(黄色の四角B)を取り付けることにより,

スクリュの回転を防止する機能を回復しました.



図6 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ

図6は燃料漏れを直す為に内部も含めたオーバーホール【overhaul】
(※1)の完了したキャブレータの様子です.

不適切な取り付けをされていたドレンボルトの整備
(※2)も行い,すべて問題ないことを確認しました.




図7 ブラケットに取り付けたスロットル・ストップ・スクリュと抜け止めのEリング

図7は外れていたEリングを新品に交換し,ブラケットに取り付けた様子です.

これによりアジャスト・スクリュの振動による影響を防ぐとともに,

アジャスト時に正確に回転角をキャブレータまで伝達することが可能になりました.



図8 車体に取り付けられたスロットル・ストップ・スクリュ保持ブラケット

図8は抜け止めのEリングが取り付けられ,ブラケットに固定されて車体に取り付けられたアジャスト・スクリュの様子です.

キャブレータ調整におけるアイドリング時の回転の不安定さ等が解消され,

良好な結果が得られたのを確認して整備を完了しました。


【考察】

今回の事例ではEリングが外れていたことでスロットル・ストップ・スクリュすなわちアジャスト・スクリュがぐらぐらしていたこと,

そのアジャスト・スクリュの保護被覆が破損していて内部のワイヤに錆が発生していたこと,

そしてアジャスト・スクリュが簡単に振動等で動かない様にする役目である,

スプリングとシートが丸ごと欠落していた事により,

振動等でスクリュが動き,アイドリング時のエンジン回転が不規則に変化していたものであると推測されます.

実際にそれらが機械的不具合が発生していて,整備完了とともに症状が改善されたことから,

推測を超えるものであると結論づけられます.

大きな加速後にスロットル・バルブを全閉にする際,必ずスロットル・バルブが閉じるときに振動が発生します.

この車両の症状が加速後にアイドリングが不安定になっていることから,

エンジンや走行による振動等の影響よりも,

むしろスロットル・バルブを前開から全閉にした時の衝撃の有無に左右されていたのではないかと推測されます.

どちらにしても,今回アジャスト・スクリュ廻りを整備したことにより症状が改善されました.



この車両はお客様が他店で購入さてすぐにエンジン焼き付きやオーバーヒート等の不具合を発生した為に,

メガスピードにて整備を承ったものであり,車両に対する過去の正確な整備状況は分かりません.

しかしキャブレータに関しては取り付け不良等が重なり不具合に至ったと判断できます.

アジャスト・スクリュにはどのキャブレータにも緩み止めのスプリングが設計されており,

スプリングやシートがなければねじが緩んでしまうのは明らかです.

本来あるはずのそれらの部品がなければすぐに気がつかなければなりません.

1番2番両方のキャブレータにそれが取り付けられていないことを考えると,

部品が取り付けられていない状態に何ら疑問を感じない素人に整備されたのか,

あるいは業者が欠品に気づかず放置したのか,

または気がついたとしてもコスト減から省略して組み付けたものであるといえます.

欠品に気付かないのは問題外として,気づいていれば機能的な部位における部品を故意に省略するのは,

その職業の存在意義にもかかわる問題であるととらえられても仕方がないといえる状態であるのは間違いありません.



この車両は車台番号からRGV-(M)型と判断できますが,

本来のミクニTM30SS型の判別刻印:22D5のパワー・ジェットがないタイプのキャブレータではなく,

RGV-(L)型のミクニTM33SS型の判別刻印:22D0のパワー・ジェットがあるタイプのキャブレータが取り付けられていました.

パワー・ジェットの有無やソレノイドの制御等
(※3)が違う為,

厳密にいえば,その状況に適したセッティングを行う必要があり,

メガスピードにて,それらを含めた調整に配慮しました.

2サイクルエンジンのレプリカは確かに趣味性の高いものといえ,技術的に未熟な所有者にいじくられてしまい,

それにより機能が損なわれている車両が少なくありません.

それゆえ,市場から“まともなバイクがない”といわれてしまうこともまた確かであり,

非常に憂慮されるべき現象であるといえます.

特にV型2サイクルエンジン搭載250ccレプリカは新車発売時はまともでも,

ユーザーによる素人整備の結果ダメにされてしまっている車種の代表的な例であるという市場評価は,

これらの経緯で発生しているものであり,それは現状を考えれば無理もありません.

ですが正しい知識や技術のある整備技術者が整備を施すことにより,

まだまだきちんと走行できる車両がベースとして存在することも忘れてはならない項目のひとつであるといえます.

メガスピードでは不適切な変更や抜き取り,脱落,交換等によりグチャグチャになってしまった車両を,

正常に戻すサービスを提供させていただくことにより,

お客様のライディングに対する楽しみが増えることを願って整備を行っております.






(※1)燃料漏れを直した修理事例は

“燃料フィルター未装着による錆の混入がもたらすガソリン漏れ及びエンジン始動不可ついて”

をご覧下さい.



(※2)不適切なドレンボルトの整備事例は,

“不適切なドレン・ボルトの使用による燃料抜き取り時の燃料漏れについて”

をご覧下さい.



(※3)
ソレノイド・バルブ・ホースの整備事例は

“エア系統ソレノイド・バルブ・ホースの組み間違いによる不適切な空燃比について”

をご覧下さい.





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