トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:251~260)


事例:E-260

経年劣化するエアフィルタと部品をストックする難しさについて

【整備車両】 
 RG500EW (HM31A) RG500Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  参考走行距離: ―
【不具合の状態】 
 エアフィルタが劣化によりボロボロになっていました.
【点検結果】 
 この車両はお客様が7年程度乗らずにいる間に不動になり,メガスピードにて再生のご依頼を承ったものです.今回の事例ではエアフィルタについて記載します.

図1.1 触れただけで千切れるエアフィルタ
 図1.1は吸気系を点検する為に取り外したエアフィルタの様子です.このタイプのフィルタは,劣化したフィルタが吸い込まれて無くなっている事例 (NS400R) ※1 や,クリームの様になってしまっている事例 (GSX-R) ※2 等の極端な劣化が多いことから,確認の為に指で触れると,例に漏れずわずかな力で千切れるという現象が発生しました.RG250Γ (GJ21B) でもやはり発生し ※3RG400Γでも同様の事例 ※4 があります.

図1.2 台座から取り外したエアフィルタ
 図1.2は台座から取り外したエアフィルタの様子です.取り外そうとしても,とにかく指で触れたところから崩れていく為,最終的にこの様な形状になりました.もしこの状態でエンジンをかけたら間違いなく吸い込まれていたはずです.

図1.3 未開封のまま崩れたエアフィルタ
 図1.3はお客様からお預かりしていた新品のエアフィルタの様子です.早速使おうと開封しようとしたところ,袋の上から触っただけで潰れてしましました.図は分かりやすいように少し袋を開けた様子です.救いようのない話ですが,実際に新品未開封でも長年保管していたものは劣化によりこの様な現象が起こるのです.


【整備内容】
 新品を注文したところ,部品が入荷したので検品して使用できるのを確認し,交換しました.


図2.1 新品のエアフィルタ
 図2.1は入荷した新品のエアフィルタの様子です.実際にこのフィルタがいつ製造されてメーカーでどの程度在庫期間があったのかは不明ですが,引っ張り,圧縮,せん断,その他色々な方向に曲げても千切れることなく,フレッシュな状態で使用可能と判断しました.

図2.2 台座に取り付けられた新品のエアフィルタと洗浄されたフィルタハウジング
 図2.2は新品のエアフィルタをフィルタの台座に取り付けた様子です.ガスケットも潰れて劣化していたので,同時に新品に交換しました.また汚れていたフレームのフィルタハウジングも洗浄してより良いエアを吸い込める様にしました.


【考察】 
 エアフィルタが湿式のスポンジタイプの場合,まず劣化したものは崩れます.崩れないまでも指で触っただけでクリームの様に滑らかに溶けるものもあります.どちらにしても使い物になりません.今回の事例でも同様の崩れが発生していました.お客様が保管されていた新品のエアフィルタもやはり同じような現象が起きていて使用することができない状態でした.これはかなり重大な出来事です.なぜなら,新品部品をストックしておく行為そのものを部品が否定しているからです.

 部品の材料は色々ありますが,金属であれば多少錆は発生するものの,半永久的に部品としてストックすることが可能です.それに対し今回の事例の様に新品未開封でも時間が経つだけで劣化していくものは,長期保管ができないと言えます.どの程度の保管期間が有効であるかは部品個々の事情によるところですが,スポンジ類は明らかにダメです.樹脂類も経年劣化する材質があるのは,専門書を紐解いても 『プラスチックは製造工程ですでに劣化が始まっている』 と明記されていることから明らかです.

 そうなると,この様な部品をストックするという概念は無意味になる可能性があり,整備する段階でフレッシュな新品が出ることを期待するしかありません.金属類は新品でも当時モノの錆びたパーツが入荷する場合がありますが,強度その他の問題で使用に影響するものはありません.しかしエアフィルタの様なすぐに劣化するものは,当時ものでは役に立ちません.また絶版になった場合は汎用品で対応する必要がありますが,NS400Rの様に簡単な形状のものもあれば,RG500/400Γの様に台座に覆い被せる特殊な形状のものもあります.したがって,何でもかんでも簡単に社外の汎用品で対応できるわけではありません.

 今回の事例では幸い新品の供給があり,材質もフレッシュなものが入荷して使用することができました.しかしいつ絶版になるか分かりません.例えストックしたとしてもそれを使用する頃にはボロボロになっている可能性があります.それはストックすることができない,あるいはストックしても無意味であることを示しています.結局はエアフィルタはその時になってみないと容易に整備できるかどうか分からない,という部位になってしまうということです.ストックしても無意味とはかなりショッキングですが,これが現実です.

 私もそうですが,おそらく皆様の中にも部品をたくさんストックされている方がいらっしゃると思います.果たしてそれが有効なのか,無意味なのか,一度総点検してみるには良い機会かもしれません.いざ使おうとしたときにゴミになっていたという事態を避ける為にも.


※1 キャブレータに大量に吸い込まれた交換済みとされるエアフィルタについて (NS400R)
※2 エアクリーナスポンジの劣化について (GSX-R)
※3 エアフィルタースポンジの劣化と密室化しているエアクリーナボックスについて (RG250Γ)
※4 経年劣化により極度に脆くなったエアフィルタスポンジと完全に潰れたガスケットについて





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.