事例:E-152
経年劣化により極度に脆くなったエアフィルタスポンジと完全に潰れたガスケットについて |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1987年 実走行距離:約1,200km |
【不具合の状態】
エアフィルタースポンジが劣化していてボロボロになっていました.
またエアフィルタ取り付けボックスのガスケットが潰れて擦り切れていました. |
【点検結果】
この車両はお客様のご依頼によりメガスピードにて各部分解整備を承ったものです.
今回の事例ではエアフィルタについて記載します.
メガスピードに入庫された時点でお客様により約9年程保管されたままの状態であった為,
エアフィルタ交換のご依頼を同時に承りました.
すでに始動不能であったことから,その再生及び車検の取得と同時に整備を実施しました.
図1.1 劣化してボロボロになっているエアフィルタ |
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図1.1はエアフィルタボックスASSYを取り外した様子です.
図のように取り外して作業台に移動する際につかんだ部分が容易に凹んでしまう状態でした.
軽く指でなでると,いわゆる洋菓子のムースのように滑らかに掬い取ることができました.
完全に材質そのものが劣化している為,分子間の結束力が著しく低下したものであると考えられます.
万が一この状態でエンジンを始動し,高速域まで引っ張れば,
吸入空気抵抗及び流速によりスポンジ部がすべてエンジン側に吸い込まれてしまうことは容易に想像できます.
図1.2は指先で掬い上げたスポンジを拡大した様子です.
かたちになっている部分はまだ良いものの,粉の様に細かく崩れてしまう程材質が劣化していました.
これは9年間の経年というよりむしろ新車時から四半世紀を経た物体のなれの果ての姿であると推測されます.
図1.3は台座からスポンジを取り外した様子です.
指でつかむ度に崩れてしまう為,すべてのスポンジを台座から取り外した時点で形が残っているのは,
シート部の材質の異なるメインフィルタ部より硬い部分のみでした.
図1.4 完全に潰れてなくなっているエアフィルタボックスのガスケット |
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図1.4はエアフィルタボックスのフレームに接触する部分の様子です.
本来あったはずのガスケットが潰れていて,取り付けボルト付近は完全になくなっていました.
これでは密封不良の為にエアフィルタを通さずに吸入空気がキャブレータ側に侵入してしまう恐れがあります. |
【整備内容】
新品のフィルタスポンジはお客様にご用意いただいた為,
それを使用するとともにボックスとフレーム間の新品のガスケットを取り寄せ,
ボックスや台座を全体的に点検洗浄を実施しました.
図2.1 台座に付けられた新品のエアフィルタスポンジ |
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図2.1は新品のエアフィルタスポンジを台座に取り付けた様子です.
湿式の為,新品梱包の段階で全体的にオイルに浸された状態になっています.
取り外した古いものに比べ,スポンジそのものが張りがあり,十分に空気をろ過する能力が期待されます.
図2.2はボックスのフレームとの接触部に残っていたガスケットを除去し,
新品のガスケットのシール部の密着度を高める為に脱脂した様子です.
図2.3 新品のエアフィルタボックス取り付け部のガスケット |
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図2.3は新品のエアフィルタボックスとフレーム間のガスケットの様子です.
厚さが5mm程度あり,この部分が圧縮されることにより密封性能を発揮します.
これと比較すれば,図1.4の取り外したボックスのガスケットは見事にほとんどなくなっていることが良く分かります.
図2.4 ボックスに取り付けられた新品のガスケット |
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図2.4は洗浄脱脂したボックスに新品のガスケットを貼り付けた様子です.
ボックスに大きな歪みや傷,損傷等もなく均一に貼り付けできたことから,
新品のガスケットが十分性能を発揮することが期待されます.
図2.5 組み立て整備の完了したエアフィルタASSY |
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図2.5は整備の完了したエアフィルタASSYの様子です.
フィルタが新品になったことによりエンジン内部への劣化したスポンジの吸い込み懸念がなくなり,
その逆に正常な空気のろ過能力を取り戻しました.
また新品になったガスケットによりボックスとフレーム間の密封性能の向上が図られました.
これにより,長期保管により始動不能に陥ったエンジンを安心してかけることができるようになりました. |
【考察】
バイクはその特性から場所をとらない為,車の様に乗らなくなってもすぐに売却されず,
庭先やガレージ等に長年保管されるといったケースが少なくありません.
そして幾年を経てその様なバイクを再生させる場合に一番気を遣わなければならないのは,
樹脂類すなわちプラスチックやゴム等,使用しなくても経年による劣化が顕著なものです.
この車両は少なくとも9年程度は動かされていなかったことから,
当然燃料ホースやオイルホース等はすべて交換を実施しましたが,
忘れてはならないのはエアクリーナの中身です.
エレメントタイプであればこの事例の様な劣化はあまり考えられませんが,
スポンジタイプの場合は,必ずと言って良い程ムースの様に柔らかく千切れやすく,スカスカになっています ※1 .
この状態でエンジンを始動すれば内部に吸い込まれて不具合の原因になることは言うまでもありませんが,
不動車を再生させる場合において最低限エアフィルタは新品に交換しておきたいものです.
そしてRG400Γ (HK31A) の場合であれば,多くの場合においてこの事例と同じ様に,
ボックスとフレーム間のガスケットが潰れて意味を成さなくなっています.
やはりフィルタを新品にするのであれば,ボックスの潰れた古いガスケットをそのまま使用するのは愚かであり,
きちんと新品に交換し,万全を期して臨まなければならないといえます.
※1 “エアクリーナスポンジの劣化について”
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