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事例:E-251

キャブレータに大量に吸い込まれた交換済みとされるエアフィルタについて

【整備車両】 
 NS400RF (NC19) ※1  年式:1987年  参考走行距離:23,000 km
【不具合の状態】 
 エアフィルタがキャブレータに吸い込まれている状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードにて継続検査(車検)およびその前の法定定期点検を承ったものです.点検の結果ラジエータコアに詰まりがある ※2といった不具合が見られましたが,今回の事例では定期点検中に整備したエアクリーナについて記載します.

図1.1 千切れているエアクリーナのフィルター
 図1.1は定期点検の項目としてエアフィルタの状態を点検した様子です.この車両はお客様に自走してお越しいただいたものですが,フタを開けるとこの様にフィルターが千切れている状態でした.確かに走行はできたかもしれませんが,これではあまりにもキャブレータが可哀相です.私も驚きましたが,お客様も驚かれました.色々な車両の整備している中,久し振りに,ぶん殴られた様な衝撃的な状況と直面しました.

図1.2 キャブレータに吸い込まれているエアフィルタ
 図1.2はフィルターのセットプレートを取り外した様子です.黄色の楕円で囲んだ部分は1番キャブレータに接続される通路です.そのくちの中に塊が突っ込まれているのは息苦しそうで胸が痛くなります.スポンジは指先で触れただけで粉々になり,カステラよりも脆くなっていました.総面積からすれば,半分程度はすでにエンジンに吸い込まれてしまったと推測されます.本来ゴミを濾過するものがゴミそのものになってしまっては本末転倒であり,ミイラ取りよろしく,『ゴミ取りがゴミ 』 になってしまったのです.

 この車両は2年前の車検時に,レースもやるという他店でエアフィルタ交換と整備記録簿に記載されていました.すると額面通り受け取れば交換から2年でここまで劣化したことになります.いやしかし,これはどう見ても何十年も経過したエアフィルタではないか,私にはその様に思えます.

図1.3 エアジェット付近に散らばっているフィルターの屑
 図1.3はエアクリーナボックスを取り外したキャブレータの様子です.フィルターの屑が散らばりエアジェット付近に付着していて通路のふさがりが懸念されました.


【整備内容】
 すでに純正のエアクリーナフィルターが絶版だった為,汎用のフィルターを形状通りに型抜いて使用しました.

図2.1 通路の開通しているエアジェット
 図2.1はエアジェット周囲に堆積していたフィルターの屑を取り除き,エアジェット付近に負圧をかけた様子です.燃料がジェットからスムーズに逆流してきたことから通路が詰まりなく開通していることを確認しました.

図2.2 吸気側の洗浄されたキャブレータ
 図2.2は3気筒ともすべて吸気側に堆積していた異物を除去し,通路の開通を確認したキャブレータの様子です.これによりゴミ等を吸い込む恐れがなくなりました.

図2.3 プレートにセットした新品のエアフィルタ
 図2.3は洗浄したプレートおよびクリップに,新品の社外のエアフィルタを取り付けた様子です.純正部品がすでに絶版だった為,2層構造の汎用品を純正形状に切り抜きクリップ取り付け穴を貫通させて使用しました.

図2.4 エアクリーナボックスに取り付けられた新品のエアフィルタ
 図2.4はエアクリーナボックスに新品のエアフィルタを設置した様子です.千切れている図1.1と比較するまでもなく,清潔で美しく,性能も取り戻したことにより安心してエンジンをかけることが可能になりました.色合いも鮮やかで新鮮な印象を受けます.
 その後各部の点検整備を完了して試運転を実施し,継続検査(車検)に合格して新たに2年間楽しく安心して乗ることができる様になりました.


【考察】 
 繰り返しになりますが,この車両の整備記録を見ると,2年前の車検時に他店で点検整備が実施されていて,エアクリーナエレメント交換と記されています.しかも作業者と整備主任の二重チェックになっていました.しかし実際は図1.1の様にエアフィルタがバラバラになってエンジンに吸い込まれている状態でした.物理的に考えればここまでフィルターが劣化するには少なくとも20年はかかるはずです.
 すると,2年前に確かに他店でエアフィルタを交換したが,使用したのはボロボロのエアフィルタだったとしか言いようがないのです.なるほど交換パーツにエアクリーナエレメントと記されているだけで,どこにも新品とは書いてありません.しかし通常交換と記載したものは新品であり,中古品を使用すれば逆に中古である旨の断りを記すのが一般的です.あるいは書類上で交換したと記載しただけで実際には何も見ていない可能性も排除できません.はたまた,未開封の何十年も前の当時物の“新品フィルター”を使用したのか.いづれにしてもボロボロ崩れてキャブレータに吸い込まれるようではフィルターとしては何の意味もありません.
 
 この事例から学ぶべき最も大切なことは,エアフィルタが劣化することではありません.それは部品として当たり前だからです.純正が絶版であれば,汎用品で対処すれば良いのです.
 着目すべきは,記録簿を起こせる整備業者が交換したとするフィルターが実際にはボロボロだったということです.小細工をしたのか,本当は何もやっていなかったのか.
 重要なのは,整備の質は,最後は人間性がモノをいうということです.学歴でもなく,資格でもなく,ましてやレース参加の有無でもなく,目の前にある課題に対して誤魔化さずに真摯に取り組み解決することができるかどうかなのです.

 この車両はお客様に自走でメガスピードにお越しいただいたものです.過去の不適切な整備の結果,その間ですらエアフィルターをエンジンが吸い込み続けていたことになります.しかし今回リフレッシュしたのでもう安心です.安心こそお客様にお渡しできる最大のサービスではないかと思うのです.


※1 ギャラリーNS400RF (NC19)
※2 ラジエータ内部コアの詰まりによる水温上昇について





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