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メカニカルシールの破損による冷却水漏れについて


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型 東京SBS仕様 限定車  推定年式:1983年  参考走行距離:約8,000km


【不具合の状態】

保管中にエンジン右側から冷却水が漏れ出してきました.


【点検結果】

車両の保管中にエンジンの右側から冷却水が漏れ出しているのを確認しました.

図1.1 床面に流れ出ている冷却水

 図1.1は漏れ出した冷却水の様子です.

一晩で図の様に床面まで冷却水が落下し水たまりになっていました.



図1.2 インジケータホールから漏れ出している冷却水

 図1.2はウォータポンプメカニカルシールの破損やインペラ軸オイルシールの衰損等のインジケータホールから,

冷却水が流れ出している様子です.

車体は静止状態において何日も限りなく冷却水が漏れ出してくる状態でした.

状況からメカニカルシールまたはインペラボルトガスケット等の破損によるものであると判断し,

ウォータポンプのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行いました.



図1.3 インペラから脱落した固着しているメカニカルシール

 図1.3はウォータポンプカバーを取り外し,インペラボルトを抜き取り,インペラをシャフトから外した様子です.

本来インペラのハウジングに収まっているべきメカニカルシールがシャフト側のメカニカルシールと固着していました.

また軸側のメカニカルシールはスプリングが圧縮されたまま固着していて,

軸側のメカニカルシールをインペラ側に押し付ける性能が欠落していました.

このことはメカニカルシール同士の接触面にすき間を発生させ,

そこから冷却水が漏れだす直接の原因になっていたと考えれられます.



図1.4 合わせ面の固着しているメカニカルシール

 図1.4はシャフト側にくっついてしまっているインペラ側のメカニカルシールの様子です.

ウォータポンプシャフトとメカニカルシールの間にすき間が発生し,

この部分からシャフト側面に冷却水が流れ込んでいたと考えられます.



図1.5 シャフトとメカニカルシール間に堆積した錆や水垢

 図1.5はシャフトとメカニカルシール間が錆と水垢等で埋め尽くされている様子です.

インペラ側のメカニカルシールとシャフトの間にも錆や水垢が堆積していたことが分かります.



図1.6 内部の汚損しているメカニカルシールシャフト側

 図1.6はメカニカルシールシャフト側からインペラシャフトを引き抜いた様子です.

シール内側も錆や水垢等が堆積していて著しく悪い状態でした.



図1.7 汚染されているメカニカルシールハウジングとインジケータホール

 図1.7はハウジングからメカニカルシールを取り外した様子です.

ハウジング内側やインジケータホールに水垢や固形物が堆積していることが分かります.

これはインペラ側から冷却水がこの部分まで浸透していたことを示し,その結果水漏れが発生したと考えれらます.



図1.8 錆と水垢の堆積で膨れ上がっているインペラシャフト

 図1.8は取り外したインペラシャフトの様子です.

メカニカルシール取り付け部に位置する部分は錆と水垢等が堆積してシャフトが膨れ上がっていました.

また今回整備した段階ではオイル漏れは発生していなかったものの,

オイルシールとシャフトの接触部が摩耗して段差ができていることが確認でき,

近い将来オイル漏れが発生する可能性が高い状態であったといえます.


【整備内容】

図2.1 点検洗浄したメカニカルシールハウジング,インジケータホール

 図2.1はメカニカルシールハウジングを点検洗浄した様子です.

オイルシール受け部がわずかに腐食して肉が減っていたものの,使用には問題ないと判断しました.



図2.2 新品のインペラシャフト,ベアリングASSY

 図2.2は新品のウォータポンプインペラシャフトの様子です.

J201型エンジンの場合,インペラシャフトと軸受のベアリングがASSYとして供給されています.



図2.3 新品のメカニカルシール

 図2.3は新品のメカニカルシールの様子です.

左側がクラッチカバーのハウジングに圧入される軸側,

右側がインペラのハウジングに取り付けられるインペラ側の様子です.



図2.4 新品のメカニカルシールの取り付け

 図2.4はインペラシャフトをクラッチカバーに圧入し,メカニカルシール軸側をハウジングに圧入したものと,

インペラハウジングに取り付けたメカニカルシールの様子です.



図2.5 オーバーホールの完了したウォータポンプ

 図2.5は新品のボルト及びガスケット,ロックワッシャを使用してインペラをシャフトに取り付け,

オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したウォータポンプの様子です.



図2.6 点検されたクラッチ廻り

 図2.6はクラッチ廻りエンジン側の様子です.

点検の結果特に異常が見られない為,

ウォータポンプのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行ったクラッチカバーをエンジンに組み付けました.



図2.7 整備の完了したウォータポンプ廻り

 図2.7はクラッチカバー及びウォータポンプカバーをエンジンに取り付けた様子です.

古くなっていたラジエータホースやクランプ,キックペダルオイルシール等消耗品も同時に交換し万全を期し,

試運転を行い,冷却水漏れがなく良好であることを確認して整備を完了しました.


【考察】

 RG250EW (GJ21A) RG250Γの発売が1983年であることを考えれば,

ウォータポンプのメカニカルシールが破損していてもおかしくはありません.

RG400EW (HK31A) RG400Γとともに,メガスピードにて整備を承った車両について言及すれば,

そのほとんどのメカニカルシールが破損あるいは衰損しているといっても過言ではなく,

特にこの事例と同じ初期型のGJ21Aでは,

すべての車両のメカニカルシールに経年による何らかの不具合が発生しているといえます.



 今回の事例では保管車両が静止状態である日突然インジケータホールから冷却水が漏れ始めました.

内部を分解した結果,メカニカルシールが経年によりすでに破損していた為,

いつ漏れが発生してもおかしくなかった状態であるといえます.

インペラ取り付けボルトのガスケットに大きな損傷が見られなかったことから,

直接の原因は軸側のメカニカルシールの固着によりスプリングが固まっていて,

接触面を押しつける性能が低下したことにより,そのすき間からインペラ側や,軸側に冷却水が流れ出したといえます.



 冷却水が漏れ出したのはメカニカルシールの破損が主な原因でしたが,

例えバイクの部品でなくとも,20年も30年もゴムを水の中に浸けておけばどうなるかを想像すれば,

メカニカルシールが破損して水漏れするのも無理はないということが分かるでしょう.

メガスピードでは製造後20年以上経過している車両の場合,

メカニカルシールが交換できる構造のエンジンであれば,迷わず交換しておくことを推奨しています.

特に2サイクルエンジンの場合,クラッチカバーにウォータポンプが内蔵されている構造のものが多く,

クラッチ廻りの整備やそれに付随する修理を行う場合は特に同時にウォータポンプの分解整備を提案しております.

なぜかというと,2サイクルエンジン自体がすでに古く,クラッチカバー関連の修理を行う必要がある車両であれば,

メカニカルシールも同等に衰損している可能性が非常に高く,

今ある不具合のみを修理しても,近い将来メカニカルシールの衰損による水漏れ等が発生した場合,

またクラッチカバーを取り外してウォータポンプを分解整備しなければならない,

すなわち二度手間となりお客様の負担が倍になる為です.

国内で最後に販売された2サイクルエンジン搭載モデルが2000年頃であることを考えれば,

最終モデルでもすでにメカニカルシールが衰損してくる時期に入っていると考えられます.



 2サイクルのみならず,4サイクルエンジンも同様な症状が発生し,

オイルシールの衰損によりインジケータホールからオイルが漏れ出す事例 ※1も少なくありません.

逆に2サイクルエンジンであってもオイル漏れと水漏れが重複し,機関内部で乳白化している事例
※2が多々見られます.

メガスピードでは水漏れやオイル漏れの修理をする機会が非常に多く,

その中でも特にメカニカルシールの整備の重要性を認識し,数多くの事例と向き合っております.

やはり少なくとも発売から10年経った車両であれば,一度包括的な点検整備を行う必要があるといえます.





※1 オイルシールの衰損によりインジケータホールからエンジンオイルが漏れ出す事例

   
“ウォータポンプ内のオイルシールの劣化によるオイル漏れについて”



※2 インペラシャフトの摩耗とメカニカルシールの衰損によりミッションオイルと冷却水が混ざり乳白化している事例

   
“インペラシャフトの摩耗によるオイル漏れとメカニカルシールの劣化による冷却水漏れついて”






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