事例:E-192
転倒によるシフトシャフトの曲がりとこじられたシールリップ接触部及びハウジングについて |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型 推定年式:1983年 参考走行距離:約9,200km |
【不具合の状態】
シフトシャフトが曲がっていました. |
【点検結果】
この車両はエンジンの吹け上がりの悪い回転数がある ※1 ということで,
お客様のご依頼によりメガスピードにて整備を承ったものです.
ここではそれと同時に各部を点検した際に確認した,曲がっていたシフトシャフトについて記載します.
図1.1 ハウジングの破損しているシフトシャフトオイルシール部 |
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図1.1は一見何もない様に取り付けられているシフトシャフトオイルシール部ですが,
実際にはハウジングが損傷しているだけでなく,おそらく転倒による原因と見られる,
シャフトのエンジン後方への曲がりが発生していました.
図1.2は取り外したシフトシャフトの様子です.
青矢印Aで示した部位はオイルシールリップの接触部であり,ラジアル方向に摩耗していることが確認できます.
赤矢印Bで示した部位は,何らかの硬いものでこじられた様に傷になっていました.
画像では見えませんが,横や裏側すなわち周方向に小さな傷が複数存在していました.
また黒矢印Cで示した部位はエンジン左側のカバーすなわちスプロケットカバーが軸として受けている部位であり,
そこを支点に画像上側すなわち車両後方側にスプライン部が曲がっていました.
曲がる支点がスプラインから短く,金属の棒をこの寸法で曲げるとしたら,転倒による大きな力を除いては説明がつきません.
図1.3は状態を確認する為洗浄して汚れを除去したハウジングの様子です.
赤丸で囲んだ部分に何かでこじられた形跡が見られました.
また矢印で示した奥行きで周上に引っ掻き傷がありました.
この車両はミッションオイル漏れをポンチで叩いて修理しようとされていた ※2 ことから,
何らかの理由でこの部位も人為的にこじられてしまったと考えられます. |
【整備内容】
曲がっていたシフトシャフトはスプラインが潰れていた為,修正ではなく,
メガスピードで研磨した中古のシフトシャフトと交換しました.
また損傷していたハウジングの内側を滑らかに修正しました.
図2.1は,いつか出番が来るだろうことを予測してストックしていた中古のシフトシャフトの様子です.
シールとの接触面を修正研磨することにより,リビルド品として性能を発揮できる状態に仕上げました.
図2.2 洗浄されたスプラインと研磨されたシャフト |
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図2.2はスプラインを洗浄し,シールとの接触部が研磨されたシフトシャフトの様子です.
もはや発売が1983年ということからスプラインにも汚れが堆積していましたが,
潰れや曲がり等の破損がなく程度が良かった為,洗浄により新品に近い状態に復元できました.
またシャフトもわずかにシールの接触部に痕が残っていたものの,
修正研磨してオイル漏れを防止することができました.
図2.3はハウジングを修正研磨し,新品のオイルシールと修正されたシャフトを組み付けた様子です.
ハウジング外観は傷が残っているものの,内側の状態はオイル漏れが発生しないよう研磨し,
シャフトの接触面も修正されたことによりオイル漏れを防止することができました.
最終的に長距離の試運転を行い,問題ないことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
この事例の要点は,シフトシャフトの曲がりにあります.
そしてシフトシャフトが絶版であることや,スプラインの修正が難しいことから,どの様に対応するかが絞られてきます.
メガスピードに修理で入庫されるバイクの中でも,実際にシフトシャフトが曲がっている車両が少なくなく,
特にGJ21A/Bといった並列二気筒のガンマに曲がりが多く見られる ※3 ことから,
おそらGJ21A/B型の並列二気筒のガンマは左側に転倒した時に,
シフトシャフトが地面と接触しやすい車体形状になっているのではないかと推測されます.
したがって,絶版その他修理を妨げる条件を除けば,やはり中古部品と交換することは常套手段の一つであり,
いかに良質の中古品を在庫しておくかで対応の可否が分かれると言っても過言ではないのです.
今回の事例ではストックしていた中古の在庫を修正研磨して,部品の質を高めてから交換しました.
やはり一番良いのは転倒しないこと,あるいは転倒してシャフトの曲がっている中古車両を入手しないことですが,
もしその様なケースに陥ってしまっても,焦ることはありません.
メガスピードでは何とか気持ち良くバイクに乗っていただけるよう,
あらゆる手段,可能性を探りながら修理を行い,楽しいバイクライフを送っていただけるよう努めてまいります.
※1 吹け上がりの引っ掛かりと空燃比の狂いについて
※2 トランスミッションカウンタシャフトからのオイル漏れと無理な整備による弊害について
※3 転倒により曲がりの発生したシフトシャフトについて
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