トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:131~140)


事例:134

転倒により曲がりの発生したシフトシャフトについて


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 シフトペダルがわずかに内側に傾いていて,操作フィーリングを損なう状態でした.


【点検結果】

 この車両は各部の分解整備のご依頼をメガスピードにて承ったものです.

車体外観目視点検の際にシフトペダルの付け根が内側に曲がっていることを確認しました.

今回の事例ではエンジンのオーバーホールを実施した際に整備したギヤシフトシャフトについて記載します。



図1.1 わずかに内側に曲がっているシフトペダル取り付け部

 図1.1はシフトペダル取り付け部の様子です.

車体内側にわずかに曲がっていることが分かります.

転倒によるものであると考えられますが,シフトペダルに大きく削れた形跡が見られないことから,

転倒後にシフトペダルのみ交換された可能性が否定できません.



図1.2 車体後方にまがっているシフトシャフト

 図1.2はシフトペダルを取り外した様子です.

シフトシャフトのペダル取り付け部が車体後方に曲がっていることが分かります.

これは転倒により地面から受けた力がスプロケットカバーを軸にして後方に働いた為であると考えられます.



【整備内容】

 今回の整備ではエンジン一式オーバーホールを承っていた為,その工程の中でシフトシャフトを整備する流れになりました.



図2.1 オーバーホール実施の為エンジン台に設置されたエンジン

 図2.1はエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施する為,

エンジンを専用のエンジン台に設置した様子です.

やはりエンジンを清潔な環境で正確に分解整備する為には,

専用のエンジン台に確実に設置して整備が行われる必要があります.




図2.2 シフトシャフトクラッチ側

 図2.2はシフトシャフトクラッチ側の様子です.

図の様に軸受にはほとんどクリアランスが存在しない為,

曲がっているシャフトがシフトペダル側のハウジングに当たってしまう為,これ以上は引き抜けない状態でした.



図2.3 切断されたシフトペダル側のシフトシャフト

 図2.3はシフトシャフトのシフトペダル側を切断した様子です.

曲がっていた部分を切断したことにより,残りのシャフトがストレートになり,

ハウジングから引き抜ける状態になりました.



図2.4 点検洗浄されたシフトペダル側のシフトシャフトハウジング

 図2.4はシフトシャフトを引き抜き,点検洗浄されたシフトペダル側のハウジングの様子です.

シフトペダルの曲がりは支点がスプロケットカバーである為,軸受けには歪み等の損傷は発生していませんでした.

またオイルシール接触部の状態も良好であることから,軸受けともに問題がないと判断しました.



図2.5 中古の点検済みシフトシャフト

 図2.5は別のエンジンから取り外したシフトシャフトの様子です.

シフトシャフトは取り外しの際に切断したことから再使用するのは困難であり,

すでにメーカー絶版であることから,中古のシフトシャフトを使用しました.

今回はお客様に予備で持っていたエンジンを提供していただくことにより,

そこから取り出した曲がりや損傷のないシフトシャフトを使用することができました.



図2.6 エンジンに取り付けられた中古良品のシフトシャフト

 図2.6は中古良品のシフトシャフトをエンジンに取り付けたクラッチ側の様子です.

今回はエンジンの分解整備一式を承っていた為,同時にクラッチ廻りの分解整備を実施しました.



図2.7 取り付けられた真っすぐなシフトシャフト

 図2.7はエンジンに取り付けられた真っすぐなシフトシャフトの様子です.

シールから外に露出している部分には若干の腐食による変色が見られるものの,

オイルシール部の摩耗や腐食もないことから,長期間安定的に使用できることが見込まれます.



図2.8 エンジンに対して並行に取り付けられたシフトペダル

 図2.8は最終的に整備の完了したシフトシャフトにシフトペダルを取り付けた様子です.

わずかに内側に曲がっていた為,操作時の位置感覚の微妙な“ずれ”が解消されたことにより,

正確かつスムーズなシフトチェンジが可能になりました.


考察】

 シフトシャフトに転倒による曲がりが発生した場合,

その程度がわずかであれば操作フィーリングに大きな影響を及ぼすものではなく,

見た目を我慢すればそのまま使用し続けることが可能です.

しかしエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施する場合に,

シフトシャフトを引き抜く為には曲がったままではシフトペダル側の軸受けに接触する為,

修正できなければ切断しなければなりません.

その場合に代替品が新品供給されていれば良いものの,この事例の様にすでに絶版になっている場合は,

良質の中古部品を使用することがコストを考えた上でベターな選択肢であるといえます.

ですが部品単体では入手することが難しい為,今回の事例ではお客様にエンジン一式ご用意いただき,

メガスピードにて内部より取り出した良品のシフトシャフトを使用する流れになりました.

確かに傷が発生していたり,軽度の摩耗であれば修正研磨
※1 肉盛溶射 ※2 等により再生が可能ですが,

今回の事例ではエンジンから取り外しの際に切断した為,再生するのであれば溶接しかありません.

しかし曲がった棒を切断し,取り外して再度溶接したとしても,

当該部位に対しては軸受けに対する要求精度が高く,それを満たすためには非常にコスト高になることから,

やはり中古良品を使用した方が良いという判断になります.


 シフトシャフトが曲がる原因は転倒によりシフトペダルが内側に押され,

それに伴いシャフトが左エンジンカバーを支点に歪むという力の流れであるといえますが,

特にRG250Γ3型~5型のGJ21B型の転倒車両において曲がりが見られることが少なくない為,

シフトペダル廻りの形状や強度がかなり影響しているといえます.


 いづれにしろシフトシャフトの曲がりを修正しない限りはシフトペダルが真っすぐにならない為,

もしシフトシャフトが曲がってしまった,あるいは曲がっている車両を購入してしまった場合は,

一度シフトシャフトの状態を詳しく点検整備しておく必要があります.





※1 “段付き摩耗したシフトシャフトと劣化したオイルシールからのミッションオイル漏れについて”

※2 “肉盛溶射によるインペラ軸摩耗の修正について”






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