事例:119
段付き摩耗したシフトシャフトと劣化したオイルシールからのミッションオイル漏れについて |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型 推定年式:1983年 参考走行距離:約20,400km |
【不具合の状態】
シフトシャフトオイルシールからミッションオイルが漏れ出していました. |
【点検結果】
この車両はエンジン左側の排気チャンバにオイルが付着しているということで,
メガスピードにて修理のご依頼を承ったものです.
点検を実施すると,シフトシャフト周囲からオイル漏れが発生しているのが確認できました.
図1.1 漏れ出したオイルの付着した左側の排気チャンバ |
|
図1.1はどこからか漏れ出したオイルと見られる液体が排気チャンバに付着している様子です.
この車両は2サイクルエンジンであることから,可能性としてはミッションオイルであり,
付着している位置からその上部のシフトシャフト周囲が漏れの発生源であると判断しました.
図1.2は今回のオイル漏れの発生源と見られるシフトシャフト周囲の様子です.
白い四角Oはシフトシャフト下部に漏れて滴っているミッションオイルと推測されます.
状況からこのオイルシールとシフトシャフトの間から漏れが発生していると判断しました.
オイルシール周辺は漏れ出したオイルとチェーンから落下した油と泥の混合物等で汚染されていました.
またシフトシャフトそのものも,エンジンから露出した部分はかなり錆が発生していました.
図1.3は取り外したシフトシャフトの様子です.
青い四角Aで囲んだ部分はオイルシールとの接触部であり,著しい摩耗が確認されました.
図1.4 段付き摩耗の発生しているオイルシールとの接触部 |
|
図1.4はシフトシャフトのオイルシールとの接触部すなわち図1.3の青い四角Aを拡大した様子です.
青い矢印はそれぞれオイルシールとの接触部であり,aの部分はエンジン内側,bの部分は外側になります.
特にbの部分の摩耗が著しい為,密封性能の低下したオイルシールと合わせて,
オイル漏れを発生させる原因になっていたと考えられます. |
【整備内容】
オイル漏れの発生原因はオイルシールの衰損による密封性能の低下と,
シフトシャフトのオイルシール接触部の摩耗であると判断し,それぞれ対策を講じました.
図2.1は古いオイルシールを取り外し,点検洗浄されたオイルシールハウジングの様子です.
側面等に目立つ傷や破損等はなく,またハウジング形状にも歪み等がないことから,
状態は至って良好であることを確認しました.
図2.2 ハウジングに圧入された新品のシフトシャフトオイルシール |
|
図2.2は新品のオイルシールをハウジングに圧入した様子です.
これにより,シール側の密封性能を完全に回復させることができました.
図2.3は軸のオイルシールとの接触部を修正研磨したシフトシャフトの様子です.
シャフト側のオイルシールとの兼ね合いも可能な限り性能を取り戻すことができました.
図2.4はシフトシャフトを修正した部位を拡大した様子です.
40μm程度研磨し,段付きを解消して表面を平滑に研磨することにより,オイルシールの接触密封性能の向上を図りました.
図2.5 エンジンに取り付けられた修正研磨されたシフトシャフト |
|
図2.5は整備の完了したシフトシャフトをエンジンに取り付けた様子です.
J201型エンジンのシフトシャフトはクラッチ廻りを取り外す必要がある為,
合わせてクラッチ廻りの点検も実施しました.
図2.6 オイル漏れ修理の完了したシフトシャフトオイルシール周囲 |
|
図2.6はオイル漏れ修理の完了したシフトシャフト周囲の様子です.
シフトシャフトのエンジン外側に露出した部分の錆も合わせて修正研磨することにより,見た目も美しくなりました.
またシフトペダルスプラインも同時に洗浄することにより,溝の確実な嵌め合いを実現しました. |
【考察】
軸のオイル漏れとしては,それを密封するオイルシールの摩耗,
そしてオイルシールの接触する軸の摩耗が大きな2大要因であり,
シール側と軸側の両方が消耗している場合が少なくありません.
この事例でもオイルシールの衰損と,シフトシャフトの摩耗が確認された為,お互いがオイル漏れの原因であるといえます.
オイルシールは新品に交換し正確に圧入されることにより密封性能を回復させることが可能ですが,
軸側は摩耗してしまった場合,許容範囲を超えてしまえばいくらオイルシールを交換したところで,
確実にオイル漏れを防ぐことはできません.
すでにシフトシャフトは絶版であることから,新品を入手することは困難であり,
中古部品を使用するか,シャフトを修理するか,どちらかの選択が有力になります.
しかし中古部品は所詮中古であり,実際に使用されていれば走行距離に応じた摩耗が生じており,
摩耗していないシャフトを入手することが非常に難しいといえ,
現実的にはシャフトを再生させるという方法をとることになります.
今回の事例では40μm程度研磨することにより表面を仕上げ,
オイルシールとの接触部のシール性能を回復させることができました.
これはシフトシャフトの操作時の回転角度が360°未満であり,
常時回転する部位でなく,シフト操作時のみ回転する機関であることから,
致命的な摩耗は生じていなかったものであると考えられます.
これに対してウォータポンプインペラシャフトの軸はエンジン稼働時は常時回転している為,
オイルシールとの接触部はかなり摩耗していることが多く,
修正研磨で対応できない程擦り減っている場合は,肉盛溶射等で修正する ※1 必要があります.
やはりシフトシャフトといえども,使用すれば必ず接触面が減っていきます.
したがって,オイル漏れが発生した段階ではかなりの摩耗が発生していると推測して修理を行う判断力が求められ,
実際に修正し切れない場合も含めた様々な選択肢を持ち合わせる能力が必要です.
メガスピードでは様々な引き出しを用意し,お客様のニーズに対応すべく,日々研鑚を積んでおります.
※1 “肉盛溶射によるインペラ軸摩耗の修正について”
|
|