トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:61~70)



エンジン稼働時に発生するオイルパンからのオイル漏れについて


【整備車両】

RG500EW-2W (HM31A) RG500Γ(ガンマ) Ⅱ型  年式:1986年  参考走行距離:約14,000km


【不具合の状態】

オイルパンとエンジンの繋ぎ目からオイルが漏れていました.


【点検結果】

この車両は他店から購入されたお客様が公道を走行される前に点検しておきたい,

というご依頼を承りメガスピードに入庫されたものです.

他店で車検を取得して納車されたものですが,サイドカウルやアンダーカウルを取り外すと,

キャブレータからガソリンや2サイクルエンジンオイルが漏れていたり,

クラッチカバーからオイルが漏れていたりフライホイール側からオイルが漏れていたり,排気漏れしていたり,

様々な不具合が発生しているのを確認しました.

このオイルパンの漏れも同様に,エンジンとオイルパンの繋ぎ目からオイルが漏れていたものです.



図1 オイル漏れの発生しているオイルパンとエンジンの繋ぎ目

図1はミッションオイルの漏れているオイルパンの様子です.

お預かりした時点でオイルパン廻りの油汚れが著しいことから,

その周囲を洗浄し,まずきれいな状態にしてオイル漏れの発生源を突き止める作業を行いました.

各所オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行う間,様子を見ていましたが,

静止状態では漏れを確認できず,試運転を40km程行った段階で発見しました.

にじみという程度ではなく,完全に液体が垂れて外壁を伝わっている状態でした.

しかしエンジン停止直後に漏れをすべて拭き取ったところ,

24時間後には目立つ漏れが確認できなくなりました.

このことは加熱による金属の膨張によりできたすき間を古いガスケットがシールし切れずに,

内部のオイルが漏れ出した可能性を完全に否定することができないということを示しています.

それは静止状態でもオイルパンとエンジンの繋ぎ目より上の位置までミッションオイルが満たされている為,

すき間が冷間時にオイルの密封許容性能を上回っていれば,

内部のオイルが漏れ続けるはずであるということからも裏付けられます.



図2 古いガスケットの貼りついているオイルパンとエンジンの繋ぎ目

図2はオイルパンを取り外したエンジン側の合わせ面の様子です.

オイルパンとエンジンの固着具合や,ガスケットの貼り付き具合から,

おそらく新車から一度もオイルパンが取り外されていないのではないかと推測されます.

合わせ面にオイル漏れを引き起こすような目立つ損傷はありませんでした.

またオイルパン締め付けボルトが全体的に緩んでいたことから,合わせ面にすき間を作っていた可能性があり,

エンジン稼働時の振動とも密接にかかわりがあると判断しても決して誤りではないといえます.



図3 取り外したオイルパン

図3は取り外したオイルパンの様子です.

ガスケットはオイルパンに固着していて,エンジン側の合わせ面から比較的きれいに剥がせたものの,

オイルパンから取り外す時にはほとんど千切れてしまう状態でした.

このガスケットの固着具合や変色,質から,

劣化したガスケットのシール性能の低下が発生していると判断することは難しくありません.


【整備内容】

オイルパン及びエンジン側の合わせ面の状態は比較的良好な為,

ガスケットを新品にして取り付ける運びになりました.


図4 合わせ面を研磨し全体的に洗浄されたオイルパン

図4はエンジン側との合わせ面を修正研磨し,ウォータポンプギヤ廻りを洗浄した様子です.

これにより漏れの再発を最小限に抑える効果が得られました.




図5 新品のオイルパンガスケット

図5は新品のオイルパンガスケットです.

新品に交換することにより,ガスケットの強度のみならず,材質の劣化の回復を図りました.



図6 修正研磨されたエンジン側の合わせ面

図6はオイルパンとの合わせ面を修正研磨したエンジン側の様子です.

パイロットシャフト等も目視できる範囲では状態は良好であり,

ウォータポンプのギヤ部と合わせて点検を行い,オイルパンを規定トルクで確実に締め付けました.



図7 オイル漏れの解消したオイルパン

図7はオイル漏れが直ったオイルパン廻りの様子です.

試運転を行い,繋ぎ目やその他からミッションオイルが漏れ出していないことを確認して整備を完了しました.


【考察】

この事例では冷間時にはオイル漏れは発生せず,

エンジンをかけてオイルパン廻りが十分に加熱されるとミッションオイルが内部から漏れ出していました.

実際にそのような現象が起きた為,結果から原因を推測すれば,

エンジン側とオイルパン側の金属はともにアルミニウム合金であり,大きな熱膨張の差異によるものではないといえ,

その場合,間に挟まっているガスケットの性能の低下という消去法的な結論に至ります.

あるいは緩んでいだボルトの締め付けトルクが熱により何らかの変化が生じていた可能性もゼロとはいえません.

いづれにしろエンジンを動かす,すなわちオイルパンが過熱される,あるいはエンジンにより振動する時のみ発生していた,

一定の条件下におけるオイル漏れであり,その量も多く,漏れている以上は修理される必要があります.

1986年付近に発売された車両であれば,使用や経年によりいつオイル漏れが発生してもおかしくはありません.



この事例ではウォータポンプのメカニカルシールやオイルシールから漏れが発生していなかった為,

お客様のご都合によりウォータポンプはオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)は省略しました.

しかしオイルパンのオイル漏れの修理を行う為にオイルパンを取り外したときはウォータポンプも一緒に付いてくるので,

発売が1986年付近であることを考えれば,消耗品の新品の部品供給がある場合は,

可能な限りウォータポンプのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を同時に行うことが望ましいとえいます.

それは“インペラシャフトの摩耗によるオイル漏れとメカニカルシールの劣化による冷却水漏れついて”

の事例に見られる様に,経年や使用によりシールの密封力が必ず低下している為,

近い将来不具合を起こす可能性が否定できず,症状が出た場合に同じ整備をやり直す必要がある為です.

やはり古い車両であれば尚一層包括的な点検整備が求められるといえます.



RG500/400Γのエンジンは,この事例の様なオイルパンからのオイル漏れのみならず,すでに経年や劣化により,

各所から水漏れ,オイル漏れ,燃料漏れが発生しているといっても過言ではありませんし,

実際にその様な不具合の車両が持ち込まれ,日々多くの修理をこなしています.

これからもお客様に安心して乗り続けていただける様,メガスピードは日々研鑚を重ねてまいります.





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