事例:184
オイルチェックバルブの衰損により短期間で2サイクルオイルで満たされたフロートチャンバについて |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1988年 参考走行距離:約58,000km |
【不具合の状態】
エンジンが始動できない状態でした. |
【点検結果】
この車両はエンジンの始動が不能になったということで,その修理をメガスピードで承ったものです.
キャブレータ外観に2サイクルエンジンオイルと見られる液体が垂れていたことから,
オイルチェックバルブの衰損が疑われ,まずエアパイプを取り外し状況を確認することから始めました.
図1.1 メインエアジェットから逆流している2サイクルオイル |
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図1.1はエアパイプを取り外し,状態を確認した1番シリンダのキャブレータの様子です.
メインエアジェットから2サイクルエンジンオイルと見られる緑色の半透明の液体が漏れ出していることが分かります.
これはサイドスタンドで左側に車体が傾斜していることを考慮しても,
この部位まで液体が満たされていることを示し,
すなわちフロートチャンバがオイルで満たされている可能性が極めて高いことを意味します.
図1.2 2サイクルエンジンオイルの満たされたフロートチャンバ |
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図1.2はフロートチャンバを取り外した様子です.
内部に2サイクルエンジンオイルが入っていることを想定して,
キャブレータを垂直のまま倒さない様にしながらフロートチャンバを取り外しました.
推測通りフロートチャンバは2サイクルエンジンオイルで満たされていました.
これでは100回キックしてもエンジンはかからないはずです.
原因はオイルチェックバルブの衰損と断定し,対策をとる運びになりました.
メガスピードの実験結果から,オイルチェックバルブの衰損しているキャブレータに,
オイルポンプのプランジャの出口が重なる状態で静止いた場合,
24時間で最大10mlのオイルがキャブレータに流れ込む ※1 ことが確認されています.
したがって,車検取得時に民間車検場ではエンジンがかかっていたが,納車後には不動になった,
というお客様の言葉通り,納車後に衰損していたバルブの位置にオイルポンプのプランジャが停止し,
数日でこの様な事態になったといえます.
民間車検場でエンジンがかかったということが確かであっても,
後述する2番シリンダキャブレータのオイルチェックバルブが衰損していたことから,
いづれにしろ始動不能に陥っていた可能性が高いといえ,
逆に民間車検場で車検時にエンジンがかかっていたことの方が幸運であったと考えても良いはずです.
図1.3 クランクケース内部に流入している2サイクルエンジンオイル |
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図1.3は2番シリンダのキャブレータの奥側に2サイクルエンジンオイルが見られた為,
キャブレータを取り外してクランクケース側を点検した様子です.
ロータリーバルブとカバーの中だけでなく,クランクケース内部にも2サイクルエンジンオイルが流入していました.
これは2番キャブレータのオイルチェックバルブの衰損を意味し,
サイドスタンドを利用した駐車時に,車体の傾斜により1番キャブレータはキャブレータ側にオイルが落下したのに対し,
2番キャブレータは,クランクケースの方に傾斜している為,エンジン側に2サイクルオイルが流れ込んだと判断できます.
今回の事例では1番と2番のキャブレータオイルチェックバルブが衰損していました.
したがって,これがエンジン始動不能に陥った原因であると断定しました.
別の車両では10年程度の長期保管中に大量に2番シリンダ内部に2サイクルエンジンオイルが流入した ※2 事例もあり,
発売が1980年代中盤であるとを考慮すれば,同じ様にバルブが衰損し,
同様の事態に陥っている車両は少なくないといえます.
そして重要なのは,それが長期保管であっても,短期間であっても,バルブが衰損していれば同様にオイルが流れ込み,
エンジン始動不能に陥るという点です.
オイルポンププランジャの当たりによっては最大24時間で10ml程度オイルが漏れるということを忘れてはなりません. |
【整備内容】
キャブレータ本体の整備も必要になりますが,
まずは衰損しているオイルチェックバルブを抜き取ることから整備を開始しました.
図2.1 オイルチェックバルブニップルの抜き取られたハウジング内部 |
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図2.1はオイルチェックバルブのニップルを抜き取り,
内部の衰損していたチェックボールとスプリングを除去した様子です.
確実に洗浄することにより,オイルの流れをスムーズにしました.
図2.2はメガスピードにて設計製作されたオーバーサイズのニップルの様子です.
このニップル事態については詳細に記載した事例をご覧下さい ※3 .
図2.2はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の為に分解したキャブレータボデーの様子です.
やはりボデーとガイド間の汚れは甚大であることから,この部位まで分解してしっかり点検洗浄することが求められます.
図2.3 圧入された新品のオーバーサイズのニップル |
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図2.3は分解点検・洗浄組み立ての完了したキャブレータにオーバーサイズのニップルを圧入した様子です.
これにより内部がストレート化されオイルの流入抵抗がなくなり,本来の流量を確保できるようになりました.
図2.4 オイルラインに取り付けられた新品のオイルチェックバルブ |
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図2.4はオイルラインに新品のオイルチェックバルブを取り付けた様子です.
内部のバルブに金属製のチェックボールではなく,ゴム系のOリングが使用されている為,
本来のチェックボールよりわずかなずれに対しても柔軟に変形することからオイルの密封性能の向上が期待できます.
図2.5 オーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータ |
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図2.5はオイルチェックバルブを含めて細部まで分解整備の完了したキャブレータの様子です.
燃料ホースは当然のこと,スプリングを始め各部位を新品にリフレッシュしたことにより,
性能だけでなく,見た目の美しさも取り戻すことができました.
実際に試運転を行い,非常に良好な状態であることを確認して整備を完了しました. |
【考察】
この車両はディーラーで断られ,最終的にメガスピードにて整備を承ったものです.
しかしそれはそれで良いのです.
ディーラーにはディーラーの役割,すなわち新車の供給や車検,オイル交換や名義変更等,
日常的なライダーのより所となる役目があるのです.
それらは業務に応じた時間給で仕事をしなければならないのですから,
腐ってボルトが何本も折れ込んでいる様な車両や部品が絶版だらけの車両,
オイルチェックバルブがどうたらこうたらという様なわけの分からない車両の修理をするメリットがありません.
それは大手量販店も同じです.
各々の立場で日々の業務に向かえば良いのです.
そして私は互いに尊重し合わなければならないと考えます.
その中で,一筋縄ではいかないものをやるのが当社の存在意義であり,社会的役割であると考えています.
今回の事例では,例に漏れずオイルチェックバルブの衰損によりエンジン始動不能に陥っていましいた.
RG500/400Γではもやは構造上不可避であり,やはりそうなる前に対策しておきたい部位であるといえます.
もしあなたの愛車が同じ様な事態になってしまっても,焦ることはありません.
是非一度メガスピードにご相談いただければ,きっとチカラになれるはずです.
※1 オイルチェックバルブの衰損によるキャブレータ内部への2サイクルエンジンオイルの流入について
※2 オイルチェックバルブの衰損により流入した2サイクルオイルに満たされたフロートチャンバについて
※3 オイルチェックバルブの衰損によるエンジン始動不能について
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