トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:51~60)


事例:E‐60
オイルチェックバルブの衰損によるエンジン始動不能について


【整備車両】

 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約18,600km


【不具合の状態】

 エンジン始動不可能な状態でした.


【点検結果】

 この車両は車検が切れてから数年間の保管中にエンジンがかからなくなったものであり,

整備一式をメガスピードにて承ったものです.

キャブレータ等の燃料系統の整備と同時にオイル廻りの整備一式も承り,総合的に整備しました.



図1.1 キャブレータ内部に流入している2サイクルエンジンオイル

 図1.1は2番シリンダキャブレータに流入している2サイクルエンジンオイルの様子です.

黄色い四角Aの部分はオイル吐出口であり,黄色い四角Bはそこから流入し堆積した2サイクルエンジンオイルです.

オイルチェックバルブが衰損していることにより,

エンジンをかけなくても24時間で最大約10mlのオイルがキャブレータに流れ込む ※1 ことで,

オイルがガソリンに対して著しく増加し,不完全燃焼を引き起こしてプラグをかぶらせ,

エンジン始動困難に至る原因になったといえます.



【整備内容】

 RG500/400Γの発売がおおむね1986年くらいの時期であることから,現在まだ存在している車両において,

そのすべてといっても過言ではないほど多くの割合でキャブレータ内部のオイルチェックバルブが衰損し,

2サイクルエンジンオイルがキャブレータ内部に流入する症状が発生しているといえます.

したがってその様な事態に陥っているものに関しては,

古いオイルチェックバルブを取り外して内部をストレート加工し,

オイルラインに新しいオイルチェックバルブを追加するという対策が有効であるといえます.

しかし純正のオイルホースを使用する場合はニップルが必要であり,

何らかのかたちでキャブレータにニップルを取り付けなければなりません.

メガスピードでは新規に設計製作された圧入部がオーバーサイズの新品のニップルを使用することにより,

その機能の回復を図っています.



図2.1 洗浄,修正したオイルチェックバルブハウジング

 図2.1はオイルチェックバルブを取り外し,ハウジングを洗浄した様子です.

確実に内部が貫通していることを確認するとともに,側面等に荒れやひっかかり等がないこと確かめました.

長年使用されたことにより,実際にはごくわずかに内径が広がっていることが分かります.



図2.2 取り外した損傷している古いオイルチェックバルブ

 図2.2は取り外したオイルチェックバルブの様子です.

Aがスプリング,Bがチェックボール,Cがオイルチェックバルブシート・ニップルです.

スプリングがチェックボールをバルブシートに押し付けることによりバルブの機能が確保されますが,

取り外したこれらの部品は衰損している為に機能が不全であるだけでなく,

ニップル部も材質が真鍮である為に劣化して粘りがなくなり脆くなっていることが分かります.

また圧入部も長年使用されていたことにより圧縮され寸法が狂っており,

圧入側のハウジングの使用による広がりを考慮すれば,

再使用した場合に本来の摩擦力を得ることができずに,何らかの外力により容易に抜け落ちる可能性が否定できず,

オイルホース脱落の危険によるエンジン焼き付きの不安をかかえて乗ることになります.

それでは本来のRG500/400Γの楽しさを十分に味わうことはおろか,

ストレスを抱えたままでは乗ることそのものが苦痛になるだけでなく,ひいては所有意欲の低下につながり兼ねません.

したがってメガスピードではオーバーサイズで設計された新品を使用することによりそれらの危険性を回避し,

安心して車両を操れる様な仕上がりをお届けしております.





図2.3 新規に設計製作されたオーバーサイズのニップル

 図2.3はメガスピードにて新規に設計製作された,圧入部及びニップル部がオーバーサイズのニップルの様子です.

本来の役割の一つであったバルブシートの機能は除去されている為,以下“ニップル”と呼称します.

図のL1及びL2はオイルホース取り付け部であり,純正の設計よりそれぞれ同じ寸法でオーバーサイズになっています.

また図のL3はキャブレータに圧入する部分であり,やはりこれも純正の設計よりもオーバーサイズになっています.

圧入に対する最適な寸法で設計されていることにより,信頼性が大幅に増しています.

またL4は純正のオイルチェックバルブ通路と同じ設計であり,

概してオイル廻りのセッティング等も狂うことなく正確に行うことができます.

このように重要部分がオーバーサイズで設計されていることにより,キャブレータへ取り付けてからの信頼性及び,

オイルホースを取り付けてからの信頼性の向上のみならず,

材料が新品であることから見た目の光沢の美しさも楽しむことができます.



図2.4 キャブレータに圧入されたオーバーサイズのニップル

 図.2.4はキャブレータに圧入されたオーバーサイズの新品のニップルの様子です.

圧入部分がオーバーサイズなので完全にキャブレータに取り付けられただけでなく,

材質も新品なので粘りがあり,衝撃や折れ,割れに対して十分な強度を維持しています.

またニップル部もわずかにオーバーサイズに仕上げられていることによりオイルホースを引っ張る等の,

予期せぬ外力に対しても十分に抜け止めの機能が発揮されるといえます.



図2.5 流れ込みの止まったオイルパイプ

 図2.5はオイルラインのエア抜きを完了し,キャブレータ内部への流入の止まったオイルパイプの様子です.

キャブレータへの供給量が十分であり且つエンジン停止時には確実にオイルが止まっていることを確認しました.



図2.6 新規に取り付けたオイルチェックバルブ

 図2.6は新規に取り付けたオイルチェックバルブ(黄色い四角A)と,

キャブレータに圧入された内部をストレート加工した新品のニップル(黄色い四角B)の様子です.

オイル廻り一式整備と燃料系統の整備を同時に行うことにより,

適正な空燃比になるよう総合的にセッティングを行い,エンジン始動及びスムーズな加速を実現しました.



【考察】

 メガスピードではRG500/400Γを整備する上で積極的な研究を行っておりますが,

その中でもオイルポンプの吐出量やオイルチェックバルブに関しては力を入れて研究を重ねてまいりました.

特にオイルチェックバルブに関して言えば,現在新たに設計製作された新品のニップルを使用することにより,

更に信頼性を高めることに成功しました.

キャブレータへの圧入部がオーバーサイズになっていることで,

通常の範囲を大幅に超える外力がかかっても引き抜くことができないほど頑丈に取り付けすることが可能です.

またニップル部もわずかにオーバーサイズにしたことにより,オイルホースがより確実に取り付けられ,

これも同様に予期せぬ外力に対しても抜けにくく,純正より信頼性が向上しています.

さらに材料が新品であることにより,金属そのもののに粘りがあり,衝撃や摩擦等に対しても十分な強度を確保しています.


 今回の事例の様にオイルチェックバルブが衰損した場合,

オイルラインにオイルチェックバルブを追加して対策する方法が有効であるといえますが,


キャブレータ内部のバルブをストレート化しないとオイルの吐出量が減り,

エンジンに悪影響を及ぼすといえるのは当社の実験から明らかです
※2

これらのことに対処する為,

メガスピードでは圧入部がオーバーサイズのオイルチェックバルブニップルを新規に設計し,

新品部品として整備をご依頼いただいたお客様に提供させていただいております.

これからもRG500/400Γに関する様々な製品開発を行い,楽しく乗る為の手助けになれるよう尚一層精進してまいります.





※1 “オイルチェックバルブの衰損によるキャブレータ内部への2サイクルエンジンオイルの流入について”

※2 “オイルチェックバルブの故障とロータリーバルブからのオイル漏れについて”




   ~お知らせ~


 素人が当サイトを参考にして自分でオイルチェックバルブを取り外し,

それをそのまま再使用しているのをブログか何かで見たことがある,という話をお聞きしたことがあります.

それが本当かどうかは分かりませんし,またそのことには全く興味も関心もありません.

断言したいのは,当社はそれに与せず,一切関係がないということです.

 一般論として,圧入して使用する重要部品を,何もせずにそのまま取り外した状態で再使用するなど問題外です.

素人整備は危険であり,大切な車両を損傷させる恐れがあります.

当社ホームページは,修理・整備の事例の注意書きにある様に,特に修理事例に関しては,


当社の整備に対する取り組み姿勢や、当社の技術、知識を分かり易く説明させていただくことを目的に

公開しているものであり、一般の方が参考にして素人整備をする為に作成されたものではありません.

そのことを正しくご理解していただいた上で閲覧いただければ幸いであり,

メガスピードに整備のご依頼をいただければ,これ以上の喜びはありません.





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