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事例:122

ユーザーによる抜き取りに失敗して破損したオイルチェックバルブのストレート加工について


【整備車両】

 RG500 (HK31A) RG500Γ(ガンマ)


【不具合の状態】

 1番キャブレータ内部に2サイクルエンジンオイルが流入しているとされる状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様のご希望により,キャブレータ単体で持ち込まれ,

メガスピードにてオイルチェックバルブのストレート加工を承ったものです.

2サイクルエンジンオイルがキャブレータ内部に流れ込んでいたということから,

キャブレータ内蔵のオイルチェックバルブを除去してストレート化し,

オイルラインに新品のオイルチェックバルブを新設する形で対策を施しました.

やはりオイルチェックバルブを新設するのであれば,

キャブレータ内蔵のオイルチェックバルブを抜き取らないと抵抗になるのは当社の測定結果から明らかであり ※1

極力ストレート加工しておく必要があります.

参考までにRG500Γ (HM31A) のオイルポンプの吐出量については,当社での測定結果に対する考察をご覧下さい
※2



図1.1 傷だらけで曲がっているニップル

 図1.1はオイルチェックバルブのニップル周囲の様子です.

お客様がどこぞやのブログか何かを見て抜き取りをチャレンジして失敗されたという経緯により,

この様に傷や曲がり,破損が発生しているということでした.

当社ではキャブレータ単体でのストレート加工も承っておりますが,

可能であれば,この様に破損させる前にきちんと抜き取りのご依頼をいただくようお願いしております.

というのも,このニップルの様に無理な力を加えた為に内部のバルブシートまで歪めてしまっては元も子もないからです.


 もちろん技術料としてサービス内容に値する対価は当然発生しますが,

私が施工すれば一瞬かつ全くと言えるほど周囲に傷を付けずに抜き取ることが可能です.

その仕上がりを見ていただければ十分に満足されるでしょう.



【整備内容】

 古いニップルは再使用しないという方向で加工を承ったものですが,

どのみち斜めに曲がってしまったものを再使用することは不可能である為,まずは抜き取りから実施しました.



図2.1 抜き取ったニップル,スプリング,ボール

 図2.1は曲がっているニップルを抜き取った様子です.

ニップルの破損は持ち込まれる前にお客様により損傷させられたものであり,

当社で抜き取りを実施した際に傷つけたものではありません.

内部のスプリングやボールも取り出し,ストレート化を実施しました.



図2.2 新品のオーバーサイズのニップルとストレート加工されたハウジング

 図2.2は新品のオーバーサイズのニップルと,取り外したキャブレータ側のバルブハウジングの様子です.

幸い内部に目立つ歪み等が発生していない為,作業を問題なく進めることができると判断しました.



図2.3 正確に圧入されたオーバーサイズのニップル

 図2.3は新品のオーバーサイズのニップルをハウジングに圧入した様子です.

ニップル周囲のキャブレータ本体に一切傷を付けずに抜き取り,圧入を実施しました.

画像からも無傷であることを確認することができます.

取り外したニップルを再使用することはナンセンスであるといえ,

正しい知識があればオーバーサイズのニップルを使用しなければならないのは当然のことです.

もしインターネット等の何らかの情報源にて再使用している事例があるとすれば,

それは決して真似をしてはいけない素人整備であることは,

このホームページの熱心な読者であれば理解することができるはずです.


 今回の整備ではキャブレータはお客様がご自身で装着されるということから,

新品のオイルホースと割り込ませる形で使用する新品のオイルチェックバルブ,それに抜け止めのクリップをセットで発送し,

すべての作業工程を完了しました.



考察】

 ブログ等の質の低い未熟な素人整備を参考にするかどうかは確かに個人の自由ですが,

所詮素人整備はその域内の結果でしかありません.

特に貴重な部品を扱う部分であれば尚更ミスは許されないわけですから,

自分でやってみるのか,あるいは技術のあるプロフェッショナルに依頼するのか,

どうすれば一番良い結果を生むことができるかを真剣に検討しなければなりません.


 この事例でいうならば,例え自分でうまく古いニップルを抜き取ることができたとしても,

仮にそれを再使用するという選択肢を選んでしまっては愚かであると言わざるを得ず,

いつ抜けるかわからないという不安は決して解消されることはありません.

私だったらその様な状態ではとてもライディングを楽しめませんし,

自分の大切な車両がその様な状況であったら絶対に嫌です.

一般的に圧入されているものを取り外した場合はオーバーサイズで組み直すのが常識です.


 いまだに “オイルチェックバルブの抜き取り方法を教えて下さい” といった愚問を受けることがありますが,

少なくともその答えのひとつとして,

例えばキャブレータ200個すなわち車両50台分のオイルチェックバルブを全部抜き取ってみて,

その過程においてどの様にしたら良いかを研究したらどうでしょうか,ということを提案したいと思います.

人に聞く前に最低でもその程度の努力をしたらいかがですか,ということです.

そうすれば,もしかしたら何か答えにつながる手がかりが,ぼんやりと見えてくるかもしれません.

しかし,それは少なくとも金属に関する材料的な知識や工具に対する知識,

整備に関する豊富な経験等を持ち合わせていることが前提であることはいうまでもありません.

そのレベルに至らない未熟さであれば,まずはそこにたどり着くまでに血のにじむような努力が必要です.

また当然のごとく,抜き取りのあとは圧入があるので,ニップルを無傷で圧入する方法も会得しなければなりません.



 私がオイルチェックバルブを一瞬にして無傷で抜き取る技術を獲得するまでに,

どれほどの努力と時間とお金を投資したか,一歩立ち止まって考えていただければ,

少なくとも“教えて下さい”などという愚問は恥ずかしくてできないはずです.

すべての現象にはお金がかかっているのです.

私が身につけてきた様々な技術や知識もすべて膨大な投資と絶え間ない努力の上に成り立っているのです.

それゆえ,
“整備に関する知識や技術的な質問は一切ご遠慮下さい”と赤字で明記しているのです.


 もし車両に不具合が発生していた場合は,きちんと正式に仕事としてご依頼いただければそれで良いのです.

可能な限りメガスピードにて修理・整備させていただきたいと思います.

たまたま素人がやってみたら偶然ひとつできた,というのではお話にもなりません.

プロフェッショナルは,100個やれば100個同じものができる信頼性や正確さが求められます.

それほどプロフェッショナルと素人は次元が違うのです.


 この事例のお客様はご自身でチャレンジしてみて,やはり抜き取りが難しいということで,当社にご依頼をいただきました.

私はそれは非常に賢明な判断であると思います.

なぜなら抜き取ったところでオーバーサイズのニップルは持ち合わせていないだろうし,

ましてや破損したニップルを再使用するわけにはいかないからです.

お客様には整備技術の高さに比例した料金でご了承いただき,お互いに良い気持ちで仕事を遂行することができました.

非常に感謝しておりますし,今後も可能な限りサポートさせていただきたいと考えております.

不具合の発生しているキャブレータを取り外して当社に持ち込む程度の能力があることから,

多少なりとも整備の心得があるといえますが,

やはりお客様にとってキャパシティオーバー(ここでは正確には量ではなく質になりますが)の事案であれば,

プロフェッショナルを活用することは,その後のバイクライフにおいて非常に有益であると私は考えます.


 私も単なる人間です.そして人間には必ず人間関係が存在します.

そうであれば,私はお客様を大切にし,私もお客様から大切にされたい,

そしてお互いが納得して気持ち良く事を進めたいと願うのは至って自然であると思います.

その中で流れとして例え技術的なことに関しても,必要であれば私から色々お話することもありますし,

逆にお客様からの問いかけにも熱心にお応えする場合もあります.

それを見ず知らずの人間からいきなり “教えて” と来たら,拒絶反応が出るのも無理はなく,

社会常識では有り得ないといえます.

例えば非常に有効な新薬ができたとしても,“薬の作り方を教えてくれ” と言われて,おいそれと教える企業がありますか.

もしそうだとしたら私がとっくの昔に実践しています.

企業秘密あるいは企業機密は最も経済活動で重要なことであり,それがただでもらえるはずがありません.

皆どこも自社に付加価値をつける為に血のにじむ努力をしているのです.


 少々熱くなってきたので,ここで話を元に戻したいと思います.

整備技術者たるもの,何があっても動じず,常にクールでなければなりません.


 RG500Γという今では貴重な車両のオーナーであれば,やはり万全を期した対策を実施しておきたいものです.

その為にはメガスピードは技術を惜しみません.

可能な限りお客様のご要望に応じたサービスを実施させていただけるよう日々研鑚を積んでおります.


 このホームページにたどり着く前にもし自分でやってみてグチャグチャになってしまっている方がいても,

決して嘆くことはありません.まだ大丈夫です.私がいます.

当社にご依頼いただくという選択肢がある限り,希望はなくならないのです.





※1 “オイルチェックバルブの不具合に起因するロータリーバルブカバーからのオイル漏れについて”

※2 “2サイクルエンジンのオイルポンプ吐出量の測定について(原動機の型式:M301)”






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