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事例:E-224

繰り返されるタンクの脱着により損傷した燃料コックパイプ部について

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,200km
【不具合の状態】 
 燃料コックから燃料パイプが外れてしまう状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした ※1 これではオーバーヒートに陥る危険性があります.その他各部に異常が見られましたが,今回の事例では,燃料コックパイプ部の破損について記載します.

図1.1 パイプの傾いている燃料コック
 図1.1はお預かりした段階での状態を把握する為に各部の状態を確認した様子です.燃料コックを裏側から見た様子ですが,燃料パイプが車体内側に曲がっていました.本来鉛直下方に燃料の出口がある為,これは異常事態であると考えなければなりません.

図1.2 わずかな力で抜けた燃料パイプ
 図1.2は極わずかな力をかけた段階でパイプがグラグラ動き,容易に抜けた様子です.メガスピードでお預かりした際にすでに車体内側にパイプが傾いていましたが,辛うじて保持されていただけで,実際には抜ける寸前だったと言わざるを得ません.
 この状態は非常に危険です.コックの位置がプライマリでなくとも,エンジンがかかっていれば負圧により燃料が出続ける為,キャブレータ内部の燃料が無くなるまでは燃料コックから大量に燃料が出続ける事態になります.万が一高速で走行しているときに燃料パイプが脱落すれば,例え高速道路でなくとも,国道を法定速度まで出していれば,走行音で燃料パイプの脱落には気づかず,大惨事になり兼ねません.

図1.3 外れた燃料パイプ
 図1.3は外れた燃料パイプの様子です.圧入構造になっている為,ストッパーやカエリ,その他抜け止めは見られず,強いて言えばパイプ中間部にある周方向のわずかな突起があるだけの構造です.

図1.4 燃料コック本体側
 図1.4は燃料コック本体側の様子です.燃料パイプ圧入口にも特に大がかりな抜け止め等は無い為,一度圧入して終わりという設計になっていると考えられます.その場合,仮に緩んだりしたものは,そのままの状態で再使用することができないのは圧入部品の常識であり,圧入部品を再使用すれば容易に抜ける可能性があります.例えばメガスピードではRG400γのオイルチェックバルブを再使用せず,新品のオーバーサイズのニップルを使用する ※2 のもこの為です.


【整備内容】
 
  今回は燃料コックの部品供給がまだあったことから,新品に交換しました.しかしもし絶版であれば,やはりオーバーサイズの燃料パイプの調達あるいは製作を考えるところから始めなければなりません.

図2.1 新品の燃料コック
 図2.1は新品の燃料コックASSYの様子です.燃料フィルタも付属していることから,今回の整備で同時に錆やゴミへの対策も兼ねることができました.

図2.2 新品の燃料パイプ付近
 図2.2は新品の燃料パイプの様子です.新品では燃料コックから水平方向に出た後,90°向きを変え,鉛直下方にパイプの出口が向いています.

図2.3 新品のクイックガスジョイント
 図2.3は社外の新品のクイックガスジョイントの様子です.今回の不具合の元凶は,燃料ホースの脱着をコック部分で繰り返されたことによるものであると判断できることから,その対策としてジョイントを使用しました.これでタンクを脱着する際にはコック部分で燃料ホースを抜かなくてすむ為,コックの燃料パイプ部に負荷がかからず,破損を避けることが可能になります.

図2.4 ジョイントにより連結されたコック側とキャブレータ側の燃料ホース
 図2.4はジョイントを使用してコック側とキャブレータ側の燃料ホースを連結した様子です.この部位でタンクとキャブレータ間の燃料ホースの縁が切れる為,燃料コックには触れずに済みます.

図2.5 コックに接続された燃料ホースとメス側ガスジョイント
 図2.5は新品の燃料コックに新品の燃料ホースおよびジョイントのメス側を接続した様子です.コック側は図の様にパイプ部はクリップで保持された燃料ホースを差し込んだままにすることにより一切力を加えることなく,ジョイント部で燃料ホースを分離することが可能です.これにより無理な力をパイプにかけず,パイプが曲がったり抜けたりすることが回避されます.

図2.6 燃料コックの負圧パイプ部
 図2.6は燃料コックを裏側から見た様子です.赤の楕円で囲んだ部分はキャブレータからの負圧がダイヤフラムに作用し燃料の流れをONにするパイプです.図の様にこのパイプはコック本体と一体形成されており,多少の力が加わっても抜けたり曲がったりする可能性は低いと言えます.またパイプの径も燃料に比べて大幅に小さいことから,この部分で負圧ホースを脱着してもあまり影響はないと判断して,負圧ホースに対してはそのままの仕様で使うことにしました.

図2.7 整備の完了した燃料コック廻り
 図2.7はパイプの損傷を防ぐ対策を実施し,各部整備の完了した燃料コック廻りの様子です.実際に試運転を行い,各部に異常がないことを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 燃料パイプが破損した直接の原因は,燃料タンク脱着の際にパイプの根元をおさえずに燃料ホースを無理に引き抜いたり押し込めたりするうちに曲がったものであると推測されます.コック本体は比較的状態が良く見た目も光沢があることから,コックそのものは比較的新しいものではないかと考えられます.しかし新しかろうが古かろうが,ホースを無理にパイプに突っ込もうとすれば結局は相手に無理がかかり破損につながります.
 今回の事例ではまだ部品供給があった為,新品に交換することができました.しかし近い将来必ず来るであろう絶版に備えて少なくとも交換した新品は大切に使わなければなりません.その対策としてジョイントを設置することにより,コックに直接影響しないで燃料タンクを脱着できるようにしました.それにより燃料コックへのダメージの回避だけでなく,タンクの脱着作業がスムーズになるという目的外のメリットの大きさも見逃すことはできません.


※1 空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について
※2 オイルチェックバルブの衰損によるエンジン始動不能について





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