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事例:E-219

空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15.200km
【不具合の状態】 
 リザーバタンクに冷却水が全く入っておらず,ラジエータ内部も口元まで冷却水が入っていませんでした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした.これではオーバーヒートに陥る危険性があります.
 ピストンリングを交換する為にはシリンダを外さなければならず,シリンダを外すには冷却水を抜かなければならない為,リザーバタンクに全く冷却水が入っていないのは,直前に整備した他店の作業者が整備中に一度抜いた冷却水を入れ忘れたものであると判断することができます.

図1.1 外観が汚れているリザーバタンク
 図1.1はリザーバタンクの様子です.外観が汚れている上,樹脂が曇っている為に内部が良く分からない状態でした.この状態が災いして,他店の作業者が冷却水を入れ忘れた,あるいは入れたと勘違いした可能性は否定できません.

図1.2 冷却水が完全に抜けているリザーバタンク内部
 図1.2はリザーバタンクのキャップを取り外して内部を確認した様子です.驚いたことに,1滴も冷却水が入っておらず,あたかも干ばつにより作物の収穫できなくなった畑の様になっていました.

図1.3 冷却水が口元まで入っていないラジエータ
 図1.3はラジエータ内部を確認する為にキャップを取り外した様子です.これまた驚くべきことに,口元からは内部に冷却水が確認できない状態でした.この状態では容易にオーバーヒートしてエンジン内部の焼き付きにつながります.
 またリザーバタンクからラジエータまでのホースにクリップが付いていない状態でした.確かにラジエータキャップ側の付け根はホース内径に対してパイプがかなり太い為,クリップがなくてもまずホースが外れるということはないと言えます.しかしホースの口にはクリップが付き物ですし,純正で指定されているのであれば,何か理由がなければそれに従うべきであると言えます.

図1.4 取り外した冷却水リザーバタンク
 図1.4は取り外したリザーバタンクの汚れ具合を検証している様子です.青矢印で示した水垢は車両が長期間メンテナンススタンド等で水平状態にあったことを示しています.というのも,R1-Zのリザーバタンクはサイドスタンドを使用して車両を右側に傾斜させた状態でインジケータと冷却水面が水平になる様に設計されているからです.


【整備内容】
 
冷却水リザーバタンクは完全に洗浄しても樹脂そのものが劣化して茶色くなっている場合が少なくなく,その状態ではリザーバタンク内部の状態が分かりにくいと言えます.古い車両でタンクそのものが絶版になっている場合は再使用もやむを得ませんが,今回はまだ新品の部品供給があった為,キャップやホース類とあわせて新品に交換しました.
図2.1 新品の冷却水リザーバタンクと周辺部品
 図2.1は新品の冷却水リザーバタンクの様子です.キャップおよびホース,クリップを新品にしてリフレッシュを図りました.新品のタンクはこの様に純白であり,内部の状態が非常に分かり易くなっています.したがって,これにより一層冷却系統の点検が確実になります.

図2.2 車体に取り付けられた新品のリザーバタンク
 図2.2は車体に取り付けた新品の冷却水リザーバタンクの様子です.予めサイドスタンドを使用して左に傾斜させた状態でリザーバタンクの点検ラインが水平になる様に設計されている為,この様にメンテナンススタンドを使用して車両を垂直にした状態では,リザーバタンクはやや右下がりになっています.

図2.3 車体が水平状態のリザーバタンク内部
 図2.3はリザーバタンク内部に冷却水を入れた様子です.メンテナンススタンドを使用して車両を水平にしている為,タンク内部の冷却水はFULLとLOWの表示に対して斜めになっている様に見えますが,実際は水面が水平を保っています.

図2.4 サイドスタンドを立てた状態のリザーバタンク内部
 図2.4はサイドスタンドを立てて車両を斜めに駐車した状態でのリザーバタンク内部の様子です.通常この様に車両を停車させる為,この状態においてリザーバタンクのFULLとLOWの表示が水平になる様に設計されています.これはユーザーにとって点検しやすい様に工夫した設計者の意図が読み取れます.

図2.5 冷却水が正常に入っているラジエータキャップ内部
 図2.5は50km程度試運転を実施した後に確認したラジエータキャップ付近の様子です.エア抜きを確実に実施してから試運転に臨んだ為,50km走行してもこの様に口元まで冷却水で満たされています.この状態で初めて十分なウォータポンプの性能が発揮されエンジンの冷却ができるのです.


【考察】 
 古い車両はリザーバタンクが変色していて外側から内部を確認することが困難なケースが少なくありません.しかしその場合でもキャップを開けて目視できちんと中身を確認すれば冷却水の状態は分かることであり,本当に自分の目で確かめたのか,ということが何よりも大切です.そしてその労力を惜しまなければ,今回の様な事例には至らなかったはずです.
 またラジエータ内部がきちんと冷却水で満たされているという状況は,一見単純で当たり前の事の様に見えますが,実際はエア抜きが不十分な車両が少なくありません.特に中古で車両を入手した場合は冷却系統の包括的な点検整備を実施しておくことが望ましいと言えます.なぜなら古い車両は十分な点検をせずに走行してオーバーヒートさせて焼き付きを起こした場合,シリンダやピストンがすでに絶版になっていて修理するのが困難であるという,本当にどうしようもない状況が待っているからです.







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