トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:141~150)


事例:E-144

エンジンオーバーホール【overhaul】について(原動機の型式:J202)【1】


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 シフトシャフトの曲がりの他には表立った目に見える故障等は確認できないものの,

 実際に分解すると様々な不具合を内在していました.


【点検結果】

 このエンジンは中古で入手された車両を公道でを走行する前に一通り確認しておきたいというお客様のご依頼により,

メガスピードにてオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施したものです.

入手されて一度も乗らずに不動になってしまったということなので,

走行距離がメーター表示上では約3,900kmという情報の他はエンジンの程度が皆目分からない状態でした.

不動になってしまった直接の原因は,キャブレータのパイロット及び始動系統が詰まっていた
※1 ことによるものですが,

ここではエンジンの分解整備で確認したことを包括的に記載します.

各部の不具合に対する詳細はリンク先の個別の事例をご覧下さい.



図1.1 専用のエンジン台に設置されたエンジン

 図1.1はRG250Γ (GJ21B) 専用に用意したエンジン台にエンジンを設置した様子です.


エンジンを正しく固定しクリーンな環境で分解整備することにより,より精密な点検の実施を可能にしました.




図1.2 曲がりの発生しているシフトシャフト

 図1.2はエンジンを降ろす前のシフトシャフトの様子です.

転倒によると見られる損傷により,車体後方に曲がりが発生していました
※2



図1.3 縦傷の発生している2番シリンダピストン

 図1.3は取り外した2番シリンダピストンの様子です.

周囲に縦傷が発生していて,特に吸気側に著しい傷が見られた為
※3

接触するシリンダ側にも損傷があることが推測されます.



図1.4 縦傷の発生している2番シリンダ排気側

 図1.4は取り外した2番シリンダの様子です.

表面をわずかにホーニングし,深い縦傷を鮮明に表示しました.

指で触っても明らかに溝が深いことが分かるレベルで傷が発生している上,

特に排気側に多数の縦傷が発生していました.

例え走行距離が4,000km未満のエンジンであっても,

この様にシリンダに深い縦傷が無数に発生しているようでは何の価値もありません.

つまり,走行距離はあくまで目安であり,本当に必要な情報はエンジン内部に隠されていることを意味しています.

これは中古車両のエンジンは常に分解整備の実施が要求されると換言することができます.




図1.5 オイルシール接触部の摩耗しているインペラシャフト

 図1.5は取り外したウォータポンプインペラシャフトの様子です.

オイルシールとの接触面が摩耗して減っている為,近い将来オイル漏れを発生する可能性が否定できません.



【整備内容】

 ここでは特に目立つ不具合を記載しましたが,それ以外にも多少の手直しが必要である部位を含めて,

可能な限り性能を取り戻せるように整備を実施しました.

大きな整備の流れはギャラリーのRG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型 【2】
※4 をご覧下さい.



図2.1 分解整備の完了したミッション廻り

 図2.1はクランクケース内部の点検整備を完了した様子です.

各部の金属部品の状態は良好であったため,この部位に関しては走行距離との整合性がとれると判断することができます.



図2.2 新品のピストン

 図2.2は新品のピストンの様子です.

ピストンリングも新品に交換することにより,状態の良くなったシリンダとの密封性能の向上を見込むことができます.

同じRG250ΓでもGJ21A型すなわちエンジンJ201型と,GJ21B型のエンジンJ202型では,

一見同じ様に見えるピストンでも,リングのストッパピンの位置設計が異なります.




図2.3 状態の良い中古シリンダ排気側

 図2.3はお客様に用意していただいた良質の中古シリンダの様子です.

わずかに浅い縦傷が発生している箇所があるものの,全周にわたり状態が良く,錆もない為,

良好な結果を得ることが期待されます.

リードバルブや排気バルブの分解整備を含め,各部の状態を詳細に点検し問題ないことを確認して使用しました.




図2.4 修正研磨されたインペラシャフト

 図2.4は摩耗していたシャフトを修正研磨した様子です.

表面をμm単位でわずかに研磨することによりシールリップ部の当たり面を平滑にし,

オイル漏れの発生を防止しました.



図2.5 真っすぐなものと交換されたシフトシャフト

 図2.5はエンジンに取り付けられた真っすぐなシフトシャフトの様子です.

すでに部品は絶版でしたが,お客様に用意していただいたエンジンから取り外して使用しました.

シールから外に露出している部分には若干の腐食による変色が見られるものの,

オイルシール部の摩耗や腐食もないことから,長期間安定的に使用できることが見込まれます.




図2.6 オーバーホール【overhaul】の完了したエンジン(型式:J202)

 図2.6は不具合をすべて修正して組み立てたエンジンの様子です.

すべての点において問題ないことを確認し,オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を完了しました.

実際に車体に搭載し,試運転においても非常に楽しく2サイクル並列二気筒らしい走りを堪能することができました.



考察】

 このエンジンは走行距離がメーターの表示上では約4,000km程度でしたが,

実際に内部を確認すると,修正すべき点が多々ありました.

車体の各部の摩耗具合等から判断すれば,おそらく走行距離は間違いないのではないかと推測できますが,

各部の不具合の発生を考えると,中古車両のエンジンを評価する上で,走行距離はあくまで目安のひとつに過ぎず,

発売から20年も経過しているものの中身は実際に開けてみなければ分からないということを示しています.


 “2サイクルエンジンは消耗品だ”とよく言われますが,それはその当時の風潮や手荒な乗り方,

オイル管理を含めた整備不良等が重なった結果であり,

母体数が多ければ,それに比例したある一定層において故障が多発してもおかしくはないといえ,

少なくとも市販車を公道で走行するにあたり,定期点検の実施に基づく適正なメンテナンスや,

無理のない乗り方をしていれば,長持ちすると断言できます.

そうでなければ工業製品として成立しません.


 一般論としていうのであれば,250cc未満の車両は継続検査(通称車検)がないことから,

かなりの割合で定期的に点検整備されているとは言い難い状況が現実に何十年も継続しています.

それが積み重なった結果,そして2サイクルエンジンがその特性からレプリカモデルやスポーツモデルに多く搭載され,

手荒な乗り方をされた結果と結び付き,故障した事例が多く存在すると考えることが理にかなっているといえるのは,

メガスピードの熱心で向上心のある読者であれば容易に理解ですることができるはずです.


 もう2輪の2サイクルエンジンは市販車として実用の範囲で製造販売されることはないといえ,

草刈り機やチェーンソーといった農機具までもが4サイクルエンジンに移行して久しいことを考慮すれば,

絶版の2サイクルエンジン搭載モデルを中古で購入し,しっかり整備して大切に乗り,

そのバイクライフを楽しむという生き方がある種の贅沢にあたると言っても語弊ではなく,

私はメガスピードとして,その贅沢をより質の高いものとして少しでも力添えさせていただけるよう,日々精進するのみです.





※1
 “スタータジェット及びパイロットジェットの詰まりによる始動不可について”

※2 “転倒により曲がりの発生したシフトシャフトについて”

※3 “ピストン及びシリンダの縦傷によるエンジン出力低下について”

※4 “RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型 【2】”






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