トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:131~140)


事例:135

スタータジェット及びパイロットジェットの詰まりによる始動不可について


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 エンジンがかからない状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が乗らずに2年程度保管している間にエンジンがかからなくなってしまった,

ということでメガスピードにて整備を承ったものです.

圧縮圧力や点火系統に異常が見られないことから,

燃料系統の不具合と判断し,キャブレータのオーバーホール【overhayul】(分解整備・精密検査)を実施しました.



図1.1 始動できないエンジンのキャブレータ

 図1.1は取り外したキャブレータの様子です.

外観の腐食や汚れ,ねじの錆び具合から判断すると,保管状態は比較的良好であることが分かります.



図1.2 各ジェットの詰まっているキャブレータ内部

 図1.2は内部の状態を確認する為1番シリンダキャブレータのフロートチャンバを取り外した様子です.

腐敗臭はしたものの黒くガム質化したガソリン等の付着は見られず,大きな汚染のない状態でした.

しかしメインジェットの穴が水飴の様なもので埋まっている上,

パイロットジェットの頭に緑色の物質が堆積していました.



図1.3 変色している上完全に詰まっているパイロットジェット

 図1.3は取り外したパイロットジェットの様子です.

頭部は緑色に変色した物質で覆われていて,通路内部も完全に詰まっている状態でした.

これはエンジンがかからない原因の一つであると判断することができます.



図1.4 通路の完全に詰まっているスタータジェット

 図1.4は取り外したフロートチャンバの様子です.

ガム質化した変色したガソリンの付着や著しい錆等は見られませんでしたが,

スタータジェットが完全に詰まっている状態でした.

これがエンジンを始動することができなかった2つ目の大きな不具合の原因であると判断することができます.



図1.5 ドレンプラグに詰まっていた腐敗したガソリンの固形物

 図1.5はドレンプラグを取り外した様子です.

内部から一見錆と見られる汚染物が出てきましたが,検査の結果腐敗したガソリンの堆積物であることが分かりました.

この状態から判断すれば,2年前にお客様が入手された時はギリギリエンジンがかかる状態であり,

すでにその時にかなりのガソリンによる堆積物が発生していた可能性が否定できません.



【整備内容】

 始動系統及びパイロット系統の燃料通路を完全にクリーンな状態にすることから開始しました.



図2.1 通路を開通させ磨き上げられたスタータジェット

 図2.1は完全に詰まっていたスタータジェットの穴を正規の径に貫通させ,

且つジェットを含めて周囲を洗浄研磨した様子です.

特に20年以上経過した真鍮部品は光沢がなくなるばかりでなく劣化等で亀裂や損傷が発生しやすくなりますが,

それを確認する為にも,表面を研磨して材質の状態を確かめる必要があります.

特にスタータジェットはフロートチャンバ内部に圧入されている為に交換が難しい部位であるといえますが,

オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)という語句を使用する以上,

メガスピードでは最低限このレベルまで手入れをするのは当然であると考えています.

もちろん修正不能であれば,ジェットの取り外しと圧入を実施しなければなりません.



図2.2 内部の洗浄されたドレンプラグ取り付け部

 図2.2は腐敗したガソリンの堆積していたフローチャンバドレン通路を洗浄した様子です.

ドレン通路はパイロットジェットの位置から離れていますが,

汚染物が剥がれてフロートチャンバ内部を彷徨う可能性がある為,極力清潔にしておかなければなりません.



図2.3 新品のパイロットジェット

 図2.3は新品のパイロットジェットの様子です.

内部の穴が精密に加工されているのは当然ですが,取り付けられていた変色したものと交換することにより,

通路の貫通のみならず,劣化した真鍮素材の初期化及び表面の流量抵抗の軽減といった効果が得られました.



図2.4 キャブレータボデーに取り付けられた新品のメインジェット及びパイロットジェット

 図2.4は洗浄されたキャブレータボデーに新品のメインジェット及びパイロットジェットを取り付けた様子です.

メーンジェットシートワッシャも同時に新品に交換することにより,保持の安定を図りました.

また内面の荒れていたフロートバルブハウジングを洗浄研磨することにより,燃料の密封性能を向上させました.



図2.5 組み立てられたキャブレータ

 図2.5はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータの様子です.

錆びていたスクリュやプレート,クリップ等をすべて新品に交換し,同時に燃料ホースも新品に交換することにより,

安全面でも信頼性を高めました.

細部まで分解整備を実施したことにより,非常に美しい外観であることが分かります.



図2.6 エンジンに組み付けられたキャブレータ

 図2.6はオーバーホールの完了したキャブレータをエンジンに組み付けた様子です.

燃調を最適にセッティングすることにより,優れた吹け上がりを実現しました.



考察】

 長期間保管された車両のキャブレータは燃料が抜き取られていない場合,ガム質化したそれにより,

ジェット類を始め,燃料経路が詰まってしまうことが少なくありません.

この事例ではフロートチャンバ及びキャブレータボデーはほとんど汚染されていなかったので,

それ程悪化した状態ではありませんでした.

しかし各ジェット類は完全に詰まっており,このままでは到底始動することは無理です.

特にスタータジェットはフロートチャンバに圧入されている為,

内部が詰まっている場合は完全に洗浄するのが難しいといえますが,

例えその様な状態に陥ってしまっても恐れることはありません.

メガスピードでは通路内径の復元及び表面の研磨を実施することにより,

部品の状態を確認しながら最良の状態に再生させることで対応が可能です.

またもし再生不可能であれば,新品に交換する必要があり,そこまで実施しなければなりません.


 一番良いのは定期的に車両に乗り,ガソリンの流れを停滞させることなくキャブレータを使用し続けることですが,

それが難しくなった場合は,

やはり少なくともキャブレータ内部のガソリンを完全に排出した上での保管が望ましいといえます.





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