事例:E-189
クラッチセンタナットの緩みとクラッチ操作の違和感について |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型 推定年式:1983年 参考実走行距離:約9,200km |
【不具合の状態】
クラッチの操作具合に違和感がありました. |
【点検結果】
この車両はお客様のご依頼により,エンジンの吹け上がりに引っ掛かりのある回転数が存在する ※1 ということで,
メガスピードにて修理を承ったものです.
その他の各部の点検においてクラッチの操作に違和感が認められました.
クラッチケーブルの破損 ※2 やクラッチスプリングの衰損 ※3 をはじめとする部品の不具合や,
部品の組み間違え等の人的ミスを含む不具合が複合的に発生していました.
今回の事例では緩んでいたセンタナットについて記載します.
図1.1は緩んでいたクラッチセンタナットの様子です.
本来は回り止めのワッシャ爪折部がナットに接触していなければなりませんが,少しすき間がある状態でした.
また全体的に油汚れが著しく,局部的にミッションオイルが半固形化してへばりついていました.
図1.2は緩んでいたセンタナットを指で動かした様子です.
完全に緩んでいた為指先で容易に回転してしまう状態でした.
黄色の楕円で囲んだ部分のすき間が動く範囲であり,完全に回り止めの爪から離れていることが分かります.
これでは使用による衝撃で段階的にナットが緩み最悪の場合は脱落する可能性が排除できません. |
【整備内容】
ロックワッシャ及びセンタナットを新品に交換し,各部分解整備の完了したクラッチを組み立てました.
図2.1は分解整備したクラッチ廻りを組み立て,
新品のワッシャ及びセンタナットを使用して規定トルクで締め付けた様子です.
最終的に試運転を行い違和感が解消されクラッチの断接もスムーズになったことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
クラッチセンタナットはどの車両でも概ね50N程度で締め付けられていて,容易に緩むものではありません.
しかも通常はロックワッシャが使用されていて,緩み止めの対処がなされています.
それが何らかの理由で緩んでいた,なぜか.
その他のクラッチの不具合でケーブルのエンジン側のアジャスタ調整やレリーズ調整が不適切だったり,
プッシュロッドとボールの順番が逆に取り付けられていたことを考慮すれば,
トルクレンチを使用せずに勘でセンタナットを締め付けるという素人整備をされてしまった可能性を否定することができません.
しかしそれは推測に過ぎず,メガスピードにて正確に整備され性能が戻ったのであれば,それ以上言及する価値はなく,
重要なのは同じ様な過ちを犯さないことに尽きます.
二輪はその車重の軽さや動力の断続をレバーを介して手で行うことから,
質量の重い四輪のクラッチを足で操作するよりも,フィーリングをダイレクトに感じる場合が少なくありませんし,
それは一定の範囲において物理的にもっともらしく,かつ正しい評価であると,
実際に色々な車両を乗り比べた結果論として,私は支持します.
無論ここでは二輪と四輪の優位性を示す意味のない議論が目的でないのは明確ですが,
それにしてもバイクの操作感,特にクラッチ操作は左右の二大レバー操作,
すなわちブレーキ操作とクラッチ操作のひとつであり,
そのフィーリングは可能な限り良いものでなければならず,
その為には違和感を感じた場合には適切な整備が施される必要があります.
今回の整備車両はクラッチ廻りに複合的に不具合が発生していた為,
操作の違和感はセンタナットの緩みだけでなく,様々な要因が重なって発生したものです.
しかしセンタナットの緩みが脱落につながれば,破壊的な破損に至る可能性があり,
やはりクラッチ本体を締め付ける大元であるセンタナットは,
確実に正確なトルク管理のもとで締め付けされる必要があるといえます.
※1 吹け上がりの引っ掛かりと空燃比の狂いについて
※2 誤った取り回しによるクラッチケーブルの破損と重くなったクラッチ操作について
※3 衰損したクラッチスプリングとクラッチ操作の違和感について
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