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事例:S‐67

フロントフォークのオイル漏れとPDF (Positive Damping Fork) について


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 左フロントフォークからオイル漏れが発生していました.


【点検結果】

 この車両はお客様のご依頼を承り,メガスピードにて各所分解整備を実施したものです.

今回の事例では左側フロントフォークのオイル漏れとPDF (Positive Damping Fork) について取り上げます.




図1.1 オイル漏れの発生しているフォーク摺動部

 図1.1はオイル漏れの発生しいている左側フォーク摺動部の様子です.

長期保管の不動車であった為,入庫した時点ではインナーチューブにオイルが付着している程度でしたが,

実際には過去にアウターチューブを伝わってキャリパのパッド面にまで達していた
※1 ものであると考えられます.



図1.2 フォーク下部周辺とPDF

 図1.2はフォーク下部キャリパ廻りの様子です.

周囲を汚染しているのは保管による埃の堆積だけでなく,粘性等から推測すれば,

明らかに漏れ出したフォークオイルが付着したものであると判断することができます.



図1.3 サスペンションから取り外したPDF

 図1.3はPDF (Positive Damping Fork) をサスペンションから取り外した様子です.

取り外したままの状態では油まみれになっていて,あまりの見苦しさから撮影前に洗浄して外観を綺麗にしました.

PDF本体からのオイル漏れの発生はありませんでしたが,

発売が1986年頃であることを考慮すると,いつ内部のシール衰損によるオイル漏れが発生してもおかしくない為,

専用に設計したプレートによりキャンセルすることで対応しました.




図1.4 PDFの構成部品

 図1.4は参考にPDFを分解した様子です.

図の青い四角で囲んだ部分が内部のオイルを密封するシリンダ機構であり,a及びbがそれぞれのシールになります.



図1.5 PDFシリンダ

 図1.5は図1.3の青い四角で囲んだ部分を組み立てたもので,

プランジャに対するシリンダの役目と同時にPDF内部のオイルを密封する役割を担っています.

aで示したものはシリンダとPDFボデーとの間を密封するOリングであり,

bで示したものは,プランジャピストンとシリンダを密封するオイルシールです.



【整備内容】

 この車両のPDFの中身は比較的状態が良いと判断することができますが,

やはり数十年経過している部品を再使用するのはナンセンスであるといえる為


キャンセルしてオイル漏れの心配無用という方針を選択しました.

フォークに関しては通常のオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施し,

PDFのキャンセルに合わせたセッティングに変更しました.



図2.1 Oリングの取り付けられたPDFキャンセラとフォーク取り付け部

 図2.1は専用に設計製造されたPDFキャンセラにOリングを取り付けた様子です.

フォーク側の接触部を修正研磨することにより,極力オイル漏れの発生する要素を排除しました.



図2.2 整備の完了したPDFキャンセラ廻り

 図2.2はPDFキャンセラを取り付けたフォークを車体に組み付けた様子です.

今回の整備ではホイールの再塗装やキャリパのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査),再塗装を実施した為,

足廻りが非常に美しく蘇っていることが分かります.

図1.2の汚い足廻りと比較すれば,機能上の修正だけでなく,外観の美しさも兼ね備えていなければならないことが,

一目瞭然で理解できるはずです.



【考察】

 ANDF (Anti Nose Dive Fork) と同じ様にPDF (Positive Damping Fork) もすでに絶版であり,

それ以前にともにASSY扱いであることから,

正規のルートでは内部のシール類を入手することはできません.

ANDFからのオイル漏れ
※2 ブレーキフルード漏れ ※3 の事例と同様に,

PDFにおいても仮にオイルシールを金型から設計製作しても需要が少ない為採算割れになることは明白であり,

PDFの設計そのものもすでに数十年前のものであることから,

わざわざ当時を再現する価値があるかどうかが,非常に難しい判断の分かれ目であることは間違いありません.

これらの点から,メガスピードではモジュールに対してはキャンセルして,

フォークのセッティング変更にて対応する方針をとっています.


 もし完全に当時の外観等を再現しなければならないという非常に限られた選択肢しかないのであれば,

今回の整備の様な手法を行使することはできませんが,

オイル漏れの心配から解放され,かつ多少外観が変化しても良いというご依頼の条件であれば,

必要かつ十分に対応させていただくことが可能です.


 RG250Γという車両も発売から数十年を経過した現在の市場ではゴミ屑の様な個体ばかりになりました.

しかし優れた整備技術者が正しく整備すれば乗り続けることは問題なく可能です.

その為にも,メガスピードはあらゆる手段的可能性を排除せず,

お客様のご依頼にお応えすることができる様日々研鑚を積んでまいります.





※1 “漏れたフォークオイルがパッドに付着したことによるブレーキ性能の低下について”

※2 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのフォークオイル漏れについて”

※3 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのブレーキフルード漏れについて”






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