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事例:S‐66

漏れたフォークオイルがパッドに付着したことによるブレーキ性能の低下について


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 フロントブレーキが効きにくいと判断される状態でした.


【点検結果】

 この車両は長期保管により不動になったもので,

お客様のご依頼により安全の為に公道走行前に全体的に分解整備を承ったものです.

車両に引きずりがないことから,ブレーキ系統に液圧がかかりっ放しや,

ピストンが押し出された状態で固着しているということはないと判断できるものの,

泥や油まみれのキャリパの外観からはブレーキが効きにくいことが予想されます.




図1.1 油や泥で汚染されているフロントブレーキキャリパ廻り

 図1.1は不具合を内在していると推測されるフロントブレーキキャリパの様子です.

全体的に油と泥の混合物で汚れている他,金属部に錆が発生していました.

フロントフォークアウターチューブもかなり汚染されているといえます.

キャリパ内側には蜘蛛の巣が見受けられました.

ブレーキホースの金属部は著しい錆により,非常に汚く見苦しいといえ,

パッドカバーのDOPの文字も色がない状態でした.



図1.2 キャリパ上側に見られる泥と油の汚れ

 図1.2はパッドカバーを取り外し,キャリパ内部を確認している様子です.

全体的に油汚れが著しく,ピンやクリップ,スプリング等はすべて錆が発生していました.

また蜘蛛の様な生物の死骸が挟まっていましたが,

この蜘蛛のようなものが図1.1の巣を作ったかどうかを特定することは極めて困難であるといえ,

特定しても今回の整備には全く意味のないことであるといえます.



図1.3 全体に油汚れが発生しているキャリパ下部

 図1.3はキャリパ下側の様子ですが,全体的に泥と油汚れが堆積していて,

パッドにも付着していることが確認できます.

これだけの泥や油の混合物は,走行時に巻き上げたと説明される類のものではなく,

キャリパ外部のピストンより上に位置する部位も汚染されていることから,

漏れ出したフォークオイルが付着したと推測されます.



図1,4 摩耗したパッド面に練り込まれたオイルと泥の混合物

 図1.4は取り外したブレーキパッドの様子です.

パッド面には摩耗している傷が発生しているにもかかわらず,

漏れ出したと推測されるフロントフォークオイルとパッドの削りカスや泥等がパッド面に練り込まれている様子です.

この状態になると容易に取り除くことができず,そのまま使用すれば著しい制動力の欠如となります.



図1,5 オイル漏れの発生しているフォークダストシール

 図1.5はオイル漏れの発生している左フロントフォークの様子です.

アウターチューブ下部に垂れている状態ではありませんが,

過去にここから漏れ出したオイルがキャリパに流れ込み,パッドを汚染したと考えられます.

フォークに関してはオーバーホールを実施するとともに,P.D.F のキャンセルを同時に行い


“漏れ”という現象を極力排除する方向で調整を進めました.



図1,6 分解されたキャリパ

 図1.6はキャリパを分解した様子です.

外部の黒い汚れはパッドの削れカスや泥,フォークオイルの堆積したものであり,

シリンダ内部は固形化,劣化したブレーキフルードが堆積していました.



図1,7 固形化したブレーキフルードの堆積しているキャリパ内部

 図1.7はキャリパシリンダ内部に堆積している劣化したブレーキフルードの様子です.

経年による固形化の為,化石の様になっており,特にシールハウジングに堆積したものは,

その動きを著しく低下させていたと推測することができます.



図1,8 固形化したブレーキフルードの堆積しているダストシール及びピストンシール

 図1.8は取り外したダストシールとピストンシールの様子です.

ともに劣化したブレーキフルードが堆積していましたが,特にダストシールの方は著しく,

ピストンシールを抜けてその上までブレーキフルードが侵入していたことを示しています.



【整備内容】

 キャリパが劣化固形化したブレーキフルードにより汚染されていた為,その洗浄から整備を開始しました.



図2.1 点検洗浄,再塗装されたキャリパ

 図2.1はキャリパを分解洗浄し,精密に点検測定して再塗装した様子です.

汚染が激しい為,クリーンな状態になって初めて各部を精密に点検することができます.

外側も内側もブレーキフルードの付着,腐食により塗装がはがれて外観がみすぼらしくなっていた為,再塗装しました.




図2.2 組み立てられたキャリパ

 図2.2は新品のシールや新品のピストンを使用して組み立てられたキャリパの様子です.

機能もさることながら,再塗装された美しい外観は,より一層整備されているという意識を高めます.

また機能の点から新品に交換されたピストンの,性能だけでなくそのメッキによる光沢の美しさも見逃すことはできません.



図2.3 新品の純正ブレーキパッド

 図2.3は新品の純正ブレーキパッドの様子です.

材質が平滑且つ脱脂されている為,取り外した油で汚染されているブレーキパッドに比べて,

格段に制動力が上がり,安全に走行できることが期待されます.



図2.4 洗浄・脱脂されたブレーキディスク

 図2.4は油分を除去し洗浄したブレーキディスクの様子です.

パッドに練り込まれていたのと同様にディスクの表面や穴にも油とほこりの混合物が堆積していた為,

必要かつ十分に洗浄・脱脂を行いました.

ディスクそのものに段付き摩耗等は発生していない為,新品のパッドと相まって確かな制動力が得られる様になりました.



図2.5 オーバーホールの完了したキャリパ廻り

 図2.5はオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)の完了したキャリパ廻りの様子です.

ブレーキホースは発売当時のものが使用されていた為,

すべてプロト【PLOT】のスウェッジライン【SWAGE-LINE】に交換しました.

同時にホイールベアリングやタイヤを新品に交換し,

P.D.F キャンセラを装着した分解整備されたフォークによる走行性能の向上のみならず,

再塗装されたホイールやディスク,新品のパッドカバーといった外観の美しさにより所有する楽しみも確実に増加しました.

図1.1のお預かりした当初の状態と比較すれば,いかに美しく蘇ったかを理解することができます.



【考察】

 フロントブレーキの効きすなわち制動力が著しく悪化する代表的な原因のひとつとして,

漏れ出したフォークオイルがパッドに付着するということが挙げられます.

この事例においても,フォークオイルとパッドの削れカスが混ざったものがパッド面に練り込まれていて,

非常に摩擦係数が小さい状態に陥っていました.

これではどんなに液圧をかけてパッドで挟み込んだとしてもディスクの回転を弱めることはできません.

パッドは油脂を取り除いて再使用することは極力さけるべきであると考えるのは,

長期保管されていた場合,漏れ出したオイルが浸み込んでいて,

実際にかなり表面を削っても本来の摩擦力を得ることが難しい為です.


 今回の整備ではキャリパ内部の腐食はもちろんのこと,外観も塗装がはげて見苦しくなっていた為,

再塗装することにより美しさを取り戻しました.

また4輪と違い,2輪のブレーキキャリパは外側から丸ごと見えることから,

オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を実施した際は,

同時に塗装し直しておくことが所有する満足度を向上させるだけでなく,材質の保護の点からも好ましいといえます.





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