事例:S‐36
ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのブレーキフルード漏れについて |
【整備車両】
RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型 推定年式:1983年 参考走行距離:約18,600km |
【不具合の状態】
左フロントフォークANDFからブレーキフルードが漏れ出していました. |
【点検結果】
この車両はお客様が個人売買で入手されたものですが,各所に不具合が発生していた為に,
メガスピードにて点検整備を承ったものです.
外観の点検で左側のANDFからブレーキフルードが漏れているのを確認しました.
図1.1 ANDFから漏れ出しているブレーキフルード |
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図1.1はANDFから漏れ出しているブレーキフルードの様子です.
赤い四角で囲んだ部分に漏れたブレーキフルードが付着していますが,
ブレーキホースとANDFの付け根からも漏れが発生していました.
ANDFには上部のブレーキホースとの接続部からブレーキフルードが,
下部のフロントフォークとの接続部からフォークオイルがそれぞれ内部に流入しています.
今回の液漏れは色と漏れ出し部分からブレーキフルードであると判断しました.
このままではフォークのサスペンション性能が低下するばかりでなく,
ブレーキフルードが漏れ続けているので,マスターシリンダ内部のブレーキフルードがなくなれば,
ブレーキラインにエアが混入し,全くブレーキが利かなくなるおそれがあります.
図1.2はANDFをブレーキフルード側とフォークオイル側に分割した様子です.
Aにはブレーキフルードが入り,Bにはフォークオイルが入ります.
黄色い四角で囲んだaとbはインジケータホールで,
ブレーキフルードを密封するオイルシールが衰損した場合はaから,
フォークオイルを密封するオイルシールが衰損した場合にはbから,
それぞれのオイルが外部に漏れ出し,内部の密封性が失われていることを示します.
今回の事例ではブレーキフルードの密封性能が損なわれ,aから漏れ出していました.
すなわちAの内部のシールの機能が低下していたものであるといえます.
これとは別にメガスピードで整備を承った別の車両ではbからフォークオイルが漏れ出していました ※1 .
図1.3はANDFを分解した様子です.
AとBはそれぞれ図2のAとBを分解した中身です.
ブレーキフルードが入っているのはAであり,それを密封する機能はCのシリンダASSYで構成された部品です.
その中の①と②がブレーキフルードを密封する部品であり,①が軸と内周を密封するオイルシール,
②が外周との接触部を密封するOリングです.
そして①と②を含めたCを組み立てたものが図4です.
図1.4は図1.3のシリンダASSYのCを組み立てた様子です.
①のオイルシールはピストンとシリンダASSYをを密封する機能があり,
②のOリングはシリンダASSYとANDF内部密封する機能があります.
今回の事例①及び②のいずれかが衰損していた為にANDF外部にブレーキフルードが漏れ出したものでした. |
【整備内容】
ANDFはASSY扱いであり、すでに純正部品が絶版になっています.
中古のANDFを使用するという選択肢も考えられますが,
すでにその中古部品も製造から30年近くの経年があり,
この車両の様にいつ液漏れが発生してもおかしくはなく、むしろ当然であり、信頼性の観点から使用しませんでした.
内部の各シールは入手困難であり,またそれを金型を含め新規に設計製造した場合,
投資に見合う利益はおろか,投資額の回収もまず不可能であると見込まれることから,
今回はブレーキホースからANDFに接続しているブレーキフルードの流入経路を断ち,
液漏れを防止する方法をとりました.
図2.1は新規に設計製作されたアルミニウム合金のプレートです.
純正のOリングを使用することでシール機能に信頼性を確保しました.
図2.2はプレートをフォークのANDF取り付け部に装着した様子です.
今回の事例ではブレーキフルードが漏れていたのは左側のみでしたが,
近い将来右側も同様な症状に至ると予測される為,合わせて右側も整備を行いました.
ブレーキラインはメガスピードに入庫された段階で,
プロト【PLOT】製のスウェッジライン【SWAGE-LINE】が使用されていたので,
ANDFに接続されていたホースを取り外し,分岐をなくしてスウェッジライン【SWAGE-LINE】を直接キャリパに接続し,
ブレーキ系統とオイル系統の関連性を独立させました.
ほとんどの中古のGJ21Aは,ANDFを分解すれば明らかですが,
30年分のブレーキフルードの固着物が内部で固着していて、まったく機能が発揮されていないことが分かります.
しかし,ANDFを取り外したことには変わりないので,フォークのセッティングを見直し,
ANDFがなくても今までと変わらず違和感のないライディングフィールを得ることに成功しています.
またANDFの動作に必要なブレーキフルードがなくなったことにより,
キャリパピストンにマスターシリンダからの圧送されたブレーキフルードがすべてかかる為,
ブレーキフィールがダイレクトになりました.
それと同時にフロント廻りの煩わしい配管がなくなり,全体的にさっぱりした外観になりました.
そして厳密にいえば,ANDF及びブレーキキャリパとANDF間のブレーキホースの代替として,
アルミプレートが使用されたことにより足廻りが軽量化され,
ブレーキラインの一本化されたキャリパと合わせて尚一層運動性能が向上しました. |
【考察】
ANDFはブレーキの入力に応じて減衰力や伸張力を調整する機能をそなえています.
しかしそれも発売から30年近く経た車両ではほとんどのものが機能していないのが実情です.
しかも今回の事例の様に,オイル漏れを発生させるには十分な程内部の経年劣化が進んでいるといえ,
フォークオイルやブレーキフルードが漏れ出している車両も少なくありません.
内部のオイルシールがメーカーの純正部品ではASSY扱いで存在せず,そのASSYもすでに絶版になっています.
したがって,今回は信頼性の低い中古を使用することを避け,
専用のアルミプレートをNC旋盤で作成し組み付けました.
またそれに応じてブレーキラインはダイレクトにキャリパに接続し、フォークとブレーキの連動は切り離すことにしました.
機能の独立により周囲の取り回しがスッキリするばかりでなく,
それぞれを新品で組み付けたので、耐久性にも信頼がおけ、安心して乗ることができるようになりました.
またANDF動作に必要なブレーキフルードのロスがなくなり,油圧のかかりが早くなり,
ブレーキフィーリングが向上しました.
この事例ではブレーキフルードが漏れ続けていて,
いつフロントブレーキの油圧がかからなくなってもおかしくない状況でした.
やはりブレーキは安全装置の最たるものであり,可能な限り迅速に正確に修理されなければなりません.
発売当時のオリジナルの形状にこだわるのであればシール類を新規に設計製作する為に大きな投資が必要になります.
しかしそうではなく,見た目は変化しながらも性能が回復すれば良い,更に信頼性が高まれば良い,ということであれば,
今回の事例の様な対応が可能になります.
メガスピードではRG250Γ(GJ21A)初期ガンマをはじめ各Γシリーズのお客様に対して,
安心して乗っていただける様日々技術向上に努めてまいります.
※1 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのフォークオイル漏れについて”
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