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事例:S‐49

逆接続されたオイルロックピースと摺動部に挟まれたリーフスプリングによるダンパ不良について


【整備車両】

 RG250EW‐2 (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 2型  推定年式:1984年  参考走行距離:約22.300km


【不具合の状態】

 フロントフォークのサスペンション機能に違和感が発生していました.


【点検結果】

 この車両は個人売買で入手されたお客様のご依頼を承りメガスピードにて点検整備されたものです.

フォークのストローク機能に違和感を覚えたという症状から,ANDFを含めた包括的なセッティング調整等を実施しました.

ここではサスペンションの性能不良を起こしていた原因について記載します.

ANDFは取り外して当社にて専用に設計製作されたプレートを使用する運びになりましたが,

交換する為に取り外したところ,驚愕の事実が判明しました.

フォークを取り外す際に
スタビライザの固定ボルトが完全にナメていた ※1 ことや,

フロントアクスルの固定ボルトに対するワッシャとスプリングワッシャの組み付け順序が逆になっていた
※2 ことから,

過去に素人整備されてしまった経緯があるという予測はつき,

おそらくフロントフォーク内部の状態も同様である可能性は否定できないと推測していましたが,

残念ながら中身はその通りになっていました.



図1.1 ねじれたリーフスプリングや逆接続されたオイルロックピース

 図1.1はANDFを取り外した左側フロントフォークの様子です.

赤い四角A及びBの穴はANDFとアウターチューブを接続するオイル通路ですが,

そこから見える内部の状況はまさに驚愕であり,衝撃的でした.

まず赤い四角Aの穴からは,ねじれて歪んでいるリーフスプリングが確認できます.

このリーフスプリングはシリンダボルトにシリンダが組み付けられている為,本来外れることはありません.

また赤い四角Bの穴からは,逆さまにシリンダに組み付けられているオイルロックピースが確認できます.

そして極め付けがリーフスプリングとオイルロックピースの取り付け順番が逆であることです.

これは完全に滅茶苦茶であり,人に例えれば,左右逆にした靴を両手にはめて,逆立ちして歩いているのと同じくらい,

極めて滑稽であり異常な事態であるといえます.




図1.2 打痕の見られるオイルロックピース

 図1.2は図1.1の黄色い四角BにあたるANDFの穴を拡大した様子です.

線状にいくつかの打痕が見られることから,おそらくこれを組み付けた者が,取り外そうとした時に傷つけたものであり,

結局外せずにそのままにされてしまったと推測されます.

このことから,逆さまに組み付けられたオイルロックピースは内部でカジリを生じている可能性があります.

右側のフォークも同様になっていましたが,取り外そうとした打痕が確認できないことから,

左側にならい,ためらいなく誤った組み付けを行ったものであると推測されます.



図1.3 カジリの生じていたオイルロックピース

 図1.3は内部から取り外したオイルロックピースはの様子です.

取り外し時にかなりの抵抗があったことから,アルミ合金であるオイルロックピースは破損していると推測しました.

実際に取り外してみると,アウターチューブにめり込んでいた部分,

すなわちカジリを発生させていたところがラジアル方向に傷になっていることが分かります.



図1.4 メクレや傷の発生しているオイルロックピース内側

 図1.4はオイルロックピース内側の様子です.

最内側の角にメクレが発生していることや,側面に傷が多数確認できます.

正しく取り付けられていれば,内側側面はシリンダと接触しない為,

傷のほとんどは無理やり組み付けられた時に発生したものであると考えれられます.



図1.5 挟まれて変形しているリーフスプリング

 図1.5はインナーピストンとアウターチューブの間に挟まれて歪んでしまったリーフスプリングの様子です.

本来正常に組み立てられていれば,まずこの様な状態にはなり得ません.

誤った段取りで無理やりアウターチューブ内部に入れられてしまい,行き場をなくしているにもかかわらず,

シリンダやオイルロックピースをねじ込んで組み立ててしまった為,

結果的に図1.1の様にANDFの穴からリーフスプリングがはみ出してしまったものであると考えられます.



図1.6 滅茶苦茶に組み立てられていたシリンダ廻りの再現

 図1.6は完全に滅茶苦茶に組み立てられていたシリンダ廻りを再現した様子です.

赤い線で囲んだ部分は組み付けた状態におけるアウターチューブを表しています.

シリンダボルトはシリンダと結合されている為,ボルトを千切らないとリーフスプリングは外部に出ることができません.

ボルトはほとんど締め付けられていなかったことから,トルクレンチを使用せずに手で勘で締め付けられていたといえます.

しかし破損していないことから,リーフスプリングがこの様にシリンダから脱落していたとすれば,

最初から外れていた,すなわち適当にリーフスプリングがアウターチューブ下部にねじ込まれていたといえます.

またオイルロックピースが逆さまに取り付けられており,それがアウターチューブとのカジリを発生させていました.

ここまで検証してもはや致命的であるといえるのが,

リーフスプリングとオイルロックピースの取り付け順序が逆であることです.

本来リーフスプリング2枚でワッシャを挟み,シリンダに組み付けてからオイルロックピースを取り付け,

更にシリンダボルトでシリンダを固定されなければなりません.

それが逆であるばかりか,リーフスプリングが外部に押しのけられてしまい,ANDFの穴から顔を出していたのでは,

全くサスペンションとしての機能が発揮されていないのも無理はありません.



 どのような経緯でこうなってしまったのかは断定できませんが,

概して専門知識がなく,部品の構造や構成,その使用目的等がまるで分からない極めて未熟な素人が,

自分で勝手に分解して組み立ててしまった産物であると考えられます.

そして残念ながらその様なものをオーバーホールと称された車両が,

何食わぬ顔で市場に出回っていることは本当に危惧すべき事柄であり,

実際にメガスピードにこの様な衝撃的且つ刺激的な車両が次々に入庫してくる現実からは,

決して目をそらすことができません.


 インターネットの普及により,個人ブログ等で公開されている素人整備の数々や,

素人が素人を指南してしまうといった懸念すべき過程により生じた性能や安全性の著しく低下した車両は極めて危険であり,

その様な車両を製造してしまっていることへの確たる自覚がないことが,

過大な影響を受ける周囲環境にとって,もはや絶望的であるといえるのは,この事例を持ち出すまでもなく,

整備不良が実際に死亡事故を引き起こしている現実からも明らかです.


【整備内容】

 組み付け不良を発生させていたオイルロックピース廻りの整備を行う必要がありましたが,

逆接され破損していたオイルロックピースや,

挟まれて曲がってしまったリーフスプリングは新品に交換することで対応しました.




図2.1 新品のリーフスプリング,ワッシャ,オイルロックピース

 図2.1は新品のリーフスプリング,ワッシャ,オイルロックピースの様子です.

図1.5ではそれぞれが曲がっていたり破損,退色していた為,同じように見えますが,

実際にはリーフスプリングはダンパの役目を担うべく波打っていて,

表面の光沢も新品では青みがかっていることが分かります.

これに対してワッシャは通常の平坦な形状であり,色もいわゆる通常のワッシャと同じ銀になっています.

オイルロックピースはアルミニウム合金であり,新品は当然傷もなく,材質そのものも美しく輝いています.



図2.2 シリンダに正しく組み立てられたオイルロックピース廻りの様子

 図2.2は新品のオイルロックピース,リーフスプリング,ワッシャをシリンダに正しく組み付けた様子です.

赤のラインは組み立てた場合におけるアウターチューブの想定線ですが,シリンダボルトによりシリンダが固定される為,

シリンダに組み付けられた部品が外部に脱落するはずがないことは構造から明らかです.

図1.6と比較して,オイルロックピースの向きが逆であり,リーフスプリングとワッシャの取り付け位置も,

オイルロックピースよりも右側すなわち車体に組み付けた状態で上側に位置しています.



図2.3 アウターチューブに正確に組み付けられたオイルロックピース廻り

 図2.3はアウターチューブにインナーチューブ及びシリンダを組み付けた様子です.

ANDFとの接触面は汚れや荒れが発生していた為,Oリングの接触面を含め,面全体を均一に修正研磨しました.

またアウターチューブそのものも洗浄して清潔な状態を取り戻しました.

 ANDFの二つある穴のうち,左側に見えるのはシリンダのみであり,右側にオイルロックピース及びワッシャ,

リーフスプリングが確認できます.正しい組み付けが行われればこの様になり,

リーフスプリングにワッシャが挟まれ,その外側にオイルロックピースが位置します.

この様子と図1.1と比較すれば,当社に入庫された段階でいかにメチャクチャな組み付けが行われていたかが分かります.


ここから先は,
RG250ΓⅡ型 (GJ21A) のANDF関連の整備事例 ※3 に統合する為,そちらをご覧下さい.


【考察】

 この車両はANDFの穴から内部を確認することができた為,

そこから見た範囲という少ない情報ながらも不具合を推測することができました.

しかし一般的には内部を見ることができず,

実際にはインナーチューブを取り外さなければ何が発生しているかを把握することは難しいといえます.


 この事例ではいわゆる素人整備の結果,グチャグチャに組み立てられたサスペンションが機能を果たしていませんでした.

しかし,もしこれがブレーキ廻りであったら,もしホイール廻りであったら,

不具合は死亡事故を引き起こしていた可能性も否定できません.

なぜなら事故が発生した場合の訴訟において,

リコールに見られる生産段階での責任の有無のみならず,

メーカー側の主張として整備不良が事故の原因として取り上げられる場合も少なくないからです.

その場合,この様な素人整備を行った者が明確である場合はいうまでもなく,

素人整備が行われた欠陥を内在している車両を中古で購入してしまったが為に,

思わぬ事態に遭遇する危険性を認識しておく必要があります.

万が一の事態が発生した場合,“中古で購入したから知りませんでした”では済まされません.

車両を公道で走行させた場合には必ず使用者に責任が発生します.

したがって,業者からの購入であれ個人売買であれ,素性の分からない車両を入手したら必ず点検整備を行い,

内在している素人整備を是正する必要があります.

その時に素人が自己点検したところで当然同じことの繰り返しになる為,

知識と技術を持ち合わせた整備技術者により,正しい整備が行われる必要があり,

そうすれば余計な不安や危険性に精神を擦り減らすことなく,楽しくバイクライフが送れるはずです.

私がこの事例の様な車両を整備するとき,いつもその様に思わざるを得ません.

当社の事例にて不具合を列挙する大きな目的の1つとして,事故防止の啓発をあげざるを得ないのは,

この様な実態が鮮明になっているからであり,可能な限り万が一の事態を避ける必要がある為です.


 メガスピードにはこの様な車両が随時持ち込まれます.

確かにこの現状は極めて遺憾であり,非常に憂慮しなければならないといえます.

しかしその様な車両を進んで整備してこそ企業として社会に貢献する存在価値があり,

私自身も素人整備の結果や,カスタムと称してグチャグチャにされてしまった哀れな車両を元の姿に戻してやることに,

大いなる“やりがい”を覚えます.

もしあなたが不運にもこの事例の様なグチャグチャになっている車両を購入してしまったとしても,嘆くことはありません.

大丈夫です.ご安心下さい.何ら恐れることはありません.

メガスピードにて整備をご依頼いただければ,私が理論に基づいた整備を施し,

楽しく乗っていただける様に再生させる手助けをさせていただきます.





※1 
“完全にナメたスタビライザ取り付けボルトによるフロントフォークの脱着不能について”


※2 “取り付け順番が逆にされたワッシャ及びスプリングワッシャから読み取るべき別の不具合について”


※3 “誤って組み立てられたシリンダ廻りとANDFの動作不良によるフォークの底着きについて”






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