【点検結果】
この車両は個人売買で入手されたお客様のご依頼を承りメガスピードにて点検整備されたものです.
フォークのストローク機能に違和感を覚えたという症状から,ANDFを含めた包括的なセッティング調整等を実施しました.
ここではサスペンションの性能不良を起こしていた原因について記載します.
ANDFは取り外して当社にて専用に設計製作されたプレートを使用する運びになりましたが,
交換する為に取り外したところ,驚愕の事実が判明しました.
フォークを取り外す際にスタビライザの固定ボルトが完全にナメていた ※1 ことや,
フロントアクスルの固定ボルトに対するワッシャとスプリングワッシャの組み付け順序が逆になっていた ※2 ことから,
過去に素人整備されてしまった経緯があるという予測はつき,
おそらくフロントフォーク内部の状態も同様である可能性は否定できないと推測していましたが,
残念ながら中身はその通りになっていました.
図1.1 ねじれたリーフスプリングや逆接続されたオイルロックピース |
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図1.1はANDFを取り外した左側フロントフォークの様子です.
赤い四角A及びBの穴はANDFとアウターチューブを接続するオイル通路ですが,
そこから見える内部の状況はまさに驚愕であり,衝撃的でした.
まず赤い四角Aの穴からは,ねじれて歪んでいるリーフスプリングが確認できます.
このリーフスプリングはシリンダボルトにシリンダが組み付けられている為,本来外れることはありません.
また赤い四角Bの穴からは,逆さまにシリンダに組み付けられているオイルロックピースが確認できます.
そして極め付けがリーフスプリングとオイルロックピースの取り付け順番が逆であることです.
これは完全に滅茶苦茶であり,人に例えれば,左右逆にした靴を両手にはめて,逆立ちして歩いているのと同じくらい,
極めて滑稽であり異常な事態であるといえます.
図1.2は図1.1の黄色い四角BにあたるANDFの穴を拡大した様子です.
線状にいくつかの打痕が見られることから,おそらくこれを組み付けた者が,取り外そうとした時に傷つけたものであり,
結局外せずにそのままにされてしまったと推測されます.
このことから,逆さまに組み付けられたオイルロックピースは内部でカジリを生じている可能性があります.
右側のフォークも同様になっていましたが,取り外そうとした打痕が確認できないことから,
左側にならい,ためらいなく誤った組み付けを行ったものであると推測されます.
図1.3は内部から取り外したオイルロックピースはの様子です.
取り外し時にかなりの抵抗があったことから,アルミ合金であるオイルロックピースは破損していると推測しました.
実際に取り外してみると,アウターチューブにめり込んでいた部分,
すなわちカジリを発生させていたところがラジアル方向に傷になっていることが分かります.
図1.4 メクレや傷の発生しているオイルロックピース内側 |
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図1.4はオイルロックピース内側の様子です.
最内側の角にメクレが発生していることや,側面に傷が多数確認できます.
正しく取り付けられていれば,内側側面はシリンダと接触しない為,
傷のほとんどは無理やり組み付けられた時に発生したものであると考えれられます.
図1.5はインナーピストンとアウターチューブの間に挟まれて歪んでしまったリーフスプリングの様子です.
本来正常に組み立てられていれば,まずこの様な状態にはなり得ません.
誤った段取りで無理やりアウターチューブ内部に入れられてしまい,行き場をなくしているにもかかわらず,
シリンダやオイルロックピースをねじ込んで組み立ててしまった為,
結果的に図1.1の様にANDFの穴からリーフスプリングがはみ出してしまったものであると考えられます.
図1.6 滅茶苦茶に組み立てられていたシリンダ廻りの再現 |
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図1.6は完全に滅茶苦茶に組み立てられていたシリンダ廻りを再現した様子です.
赤い線で囲んだ部分は組み付けた状態におけるアウターチューブを表しています.
シリンダボルトはシリンダと結合されている為,ボルトを千切らないとリーフスプリングは外部に出ることができません.
ボルトはほとんど締め付けられていなかったことから,トルクレンチを使用せずに手で勘で締め付けられていたといえます.
しかし破損していないことから,リーフスプリングがこの様にシリンダから脱落していたとすれば,
最初から外れていた,すなわち適当にリーフスプリングがアウターチューブ下部にねじ込まれていたといえます.
またオイルロックピースが逆さまに取り付けられており,それがアウターチューブとのカジリを発生させていました.
ここまで検証してもはや致命的であるといえるのが,
リーフスプリングとオイルロックピースの取り付け順序が逆であることです.
本来リーフスプリング2枚でワッシャを挟み,シリンダに組み付けてからオイルロックピースを取り付け,
更にシリンダボルトでシリンダを固定されなければなりません.
それが逆であるばかりか,リーフスプリングが外部に押しのけられてしまい,ANDFの穴から顔を出していたのでは,
全くサスペンションとしての機能が発揮されていないのも無理はありません.
どのような経緯でこうなってしまったのかは断定できませんが,
概して専門知識がなく,部品の構造や構成,その使用目的等がまるで分からない極めて未熟な素人が,
自分で勝手に分解して組み立ててしまった産物であると考えられます.
そして残念ながらその様なものをオーバーホールと称された車両が,
何食わぬ顔で市場に出回っていることは本当に危惧すべき事柄であり,
実際にメガスピードにこの様な衝撃的且つ刺激的な車両が次々に入庫してくる現実からは,
決して目をそらすことができません.
インターネットの普及により,個人ブログ等で公開されている素人整備の数々や,
素人が素人を指南してしまうといった懸念すべき過程により生じた性能や安全性の著しく低下した車両は極めて危険であり,
その様な車両を製造してしまっていることへの確たる自覚がないことが,
過大な影響を受ける周囲環境にとって,もはや絶望的であるといえるのは,この事例を持ち出すまでもなく,
整備不良が実際に死亡事故を引き起こしている現実からも明らかです. |