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事例:S‐50

誤って組み立てられたシリンダ廻りとANDFの動作不良によるフォークの底着きについて


【整備車両】

 RG250EW‐2 (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 2型  推定年式:1984年  参考走行距離:約22,300km


【不具合の状態】

 走行時にフロントフォークがぐにゃぐにゃして,フルボトムいわゆる底着きする状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が個人売買で入手されたものですが,

フロントフォークに節度がないことからメガスピードにて整備を承りました.




図1.1 RG250Γ (GJ21B) 2型のANDF

 図1.1は不具合を発生させていると推測されるANDF (Anti Nose Dive Fork) の様子です.

外観は塗装の剥がれが少なく比較的良好であるといえますが,


上部からのブレーキフルード漏れ
※1 や,下部からのフォークオイル漏れ ※2
は見られないものの,

フォークがぐにゃぐにゃしている症状や,メガスピードで修理を承る車両のほぼすべての割合でANDFが固着していること,

そして発売が1984年頃であることからも,この車両のANDFも全く機能していない可能性が高いと推測されます.

この車両の整備を承る際に,すでにお客様が当社HPの修理事例にて,

ANDFを取り外してフォークのセッティングをし直すという,

独自の対処法をご覧いただいており,
今回もその方向で進めることになりました.



図1.2 ANDF本体外観

 図1.2は取り外したANDF本体の様子です.

同じ型式のGJ21A型でも,Ⅰ型はANDF横にブレーキホース取り付けが設計されているのに対して,

Ⅱ型は上部にそれが位置し,さらにANDFそのものが大型化されています.

また主軸にEリングが設計されているほか,ボトムスプリングや抜け止めのリング等の形状が変更されています.



図1.3 分解点検されているANDF

 図1.3は症状の発生原因を把握する為に分解されたANDFの様子です.

プランジャ【plunger】とシリンダ【cylinder】が完全に固着していた為,ANDFは機能を果たしていなかったと判断されます.


【整備内容】

 今回の事例では予めANDFを取り外した整備の方向で進める打ち合わせをしていた為,

最初の段取りとしてプレートの設計製作から開始しました.



図2.1 新規に制作されたⅡ型専用プレート

 図2.1は新規に設計製作されたRG250Γ (GJ21A) Ⅱ型アルミニウム合金のプレートです.

純正のOリングを使用することでシール機能に信頼性を確保しました.


Ⅱ型はⅠ型に比べてANDF本体や,アウターチューブからANDFへの油路の穴が大きい為,

プレートもⅠ型とは別の専用設計になります.

また極めて未熟な素人整備により
誤った組み立てをされていたインナシリンダ廻り ※3

を正しく組み立て直し機能の回復を図りました.



図2.2 フォークに取り付けられた専用プレート

 図2.2はプレートをフォークのANDF取り付け部に装着した様子です.

右側も同様にプレートを取り付け,左右セットで設定変更することにより万全を期しました.



図2.3 整備の完了した足廻り

 図2.3は整備の完了したサスペンション廻りの様子です.

ブレーキラインはANDFに接続されていたホースを取り外し,

分岐をなくしてプロト【PLOT】のスウェッジラインSWAGE-LINE】を直接キャリパに接続し,

ブレーキ系統とオイル系統の関連性を独立させました.

 ほとんどの中古のGJ21Aは,ANDFを分解すれば明らかですが,

30年分のブレーキフルードの固着物が内部で固着していて、まったく機能が発揮されていないことが分かります.

しかし,ANDFを取り外したことには変わりないので,フォークのセッティングを見直し,

ANDFがなくても今までと変わらず違和感のないライディングフィールを得ることに成功しています.

 またANDFの動作に必要なブレーキフルードがなくなったことにより,

キャリパピストンにマスターシリンダからの圧送されたブレーキフルードがすべてかかる為,

ブレーキフィールがダイレクトになりました.

それと同時にフロント廻りの煩わしい配管がなくなり,全体的にさっぱりした外観になりました.


【考察】

 ANDF (Anti Nose Dive Fork) はブレーキの入力に応じて減衰力や伸張力を調整する機能をそなえています.

しかしそれも発売から30年近く経た車両ではほとんどのものが機能していないのが実情です.

その様な部品を分解整備する為に必要な内部のオイルシールがメーカーの純正部品ではASSY扱いで存在せず,

そのASSYもすでに絶版になっています.

したがって,今回は信頼性の低い中古を使用することを避け,

NC旋盤で設計製作された専用のアルミプレートを組み付けました.

またそれに応じてブレーキラインはダイレクトにキャリパに接続し,フォークとブレーキの連動は切り離すことにしました.

機能の独立により周囲の取り回しがスッキリするばかりでなく,

それぞれを新品で組み付けたので,耐久性にも信頼がおけ,安心して乗ることができるようになりました.

更にANDF動作に必要なブレーキフルードのロスがなくなり,液圧のかかりが早くなり,

ブレーキフィーリングが向上しました.


 発売当時のオリジナルの形状にこだわるのであればシール類を新規に設計製作する為に大きな投資が必要になります.

しかしそうではなく,見た目は変化しながらも性能が回復すれば良い,更に信頼性が高まれば良い,ということであれば,

今回の事例の様な対応が可能になります.

メガスピードではこの事例のRG250Γ(GJ21A) 2型はもちろんのこと,

各RG‐Γシリーズに乗られるのお客様に対して,安心して乗っていただける様日々技術向上に努めてまいります.






※1 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのブレーキフルード漏れについて”


※2 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのフォークオイル漏れについて”


※3 “逆接続されたオイルロックピースと摺動部に挟まれたリーフスプリングによるダンパ不良について”






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