トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 車体関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:101~110)


事例:S-103

クラッチマスターシリンダリザーバタンクに堆積したヘドロとフルード交換について

【整備車両】 
 CB1300DCW (SC38) X4  年式:1998年  参考走行距離:約34,400 km
【不具合の状態】 
 クラッチマスターシリンダのリザーバタンクにヘドロが堆積していました.
【点検結果】 
 この車両はお客様のご依頼により,継続検査(車検)および24か月法定定期点検整備をメガスピードにて承ったものです.車検の有効期限が切れて1年程度経過する為,再び公道を走行するにあたり,保安基準に適合しているだけでなく,より一層安全に運転できるように整備を実施しました.ブレーキレバー先端が折れていたり ※1ストップランプスイッチが破損していた ※2 り,様々な不具合がありましたが,今回の事例では,著しく汚れていたクラッチマスターシリンダリザーバタンクについて取り上げます.

図1.1 フタを開けると漏れ出したクラッチフルード
 図1.1はクラッチマスターシリンダのリザーバタンクのフタを開けた様子です.外観から液が満タンに入っていると推測された為,予めウエスで液漏れに対処してからフタを開けました.すると予測通りダイヤフラムの上に溜まっていたクラッチフルードが漏れ出してきました.
 クラッチに使われている液はDOT4のブレーキフルードと同じものですが,分かりやすく区別する為,この事例ではすべてクラッチフルードと記載します.

図1.2 ヘドロの堆積しているクラッチマスターシリンダリザーバタンク
 図1.2はダイヤフラムを取り外して確認した内部の様子です.底にヘドロが堆積している上,色からフルードは劣化している可能性がありました.車検が切れて1年間のブランクがある為,他店で実施された前回の車検整備から3年経過していますが,3年程度ではここまで状態が悪くなるとは考えにくいと言えます.したがって,
➀ 前回の車検ではクラッチフルードが交換されなかった
② クラッチフルードは交換したが,リザーバタンク内部の汚れについては何も対処しなかった
という2つの状況が考えられます.


【整備内容】
 このままではクラッチフルードをレリーズシリンダから抜き取る際にヘドロが舞ってポートの中に入り,詰まってしまい最悪の場合,液圧が解除されなくなるという事態に陥る可能性がある為,まずはこのヘドロを除去することから整備を開始しました.

図2.1 リザーバタンクから吸い上げたヘドロ
 図2.1は注射器を使用してリザーバタンクから古いクラッチフルードとともにヘドロを吸い上げた様子です.一度では取り切れない為,新しい液を入れながら慎重に何度も繰り返して完全に取り切るまで作業を繰り返しました.

図2.2 劣化したクラッチフルードとヘドロ
 図2.2は一番初めに吸い上げたヘドロを吐き出した様子です.フルードが変質しただけでなく,周囲の水分やゴミと混ざって固形化したものであると考えられます.リターンポートの直径が1mmにも満たないことから,極力不要なゴミは除去する必要があります.

図2.3 洗浄,フルード交換されたリザーバタンク内部
 図2.3は堆積していたヘドロを除去し,透明の新しいクラッチフルードを入れたリザーバタンク内部の様子です.液が透き通っている為,入っているのかいないのか分からないくらいクリアで非常に美しく清潔感があります.この状態と比較すれば図1.2がいかに汚染されていたかが分かると思います.図の様にリザーバタンクが洗浄されたことにより,ヘドロのつまりをはじめとする不具合を回避することが可能になりました.
 リザーバタンク内部の洗浄は,マスターシリンダをオーバーホールする場合は部品を取り外せるので比較的容易ですが,そうではなく,エアが入らないようにクラッチラインの液体を保ったままの洗浄するのは大変です.しかし,もしヘドロを取らなければ,透明な液体の底にドス黒いヘドロがより強調されて存在し続けます.それでは結局不安材料を内在したままになる為,整備は不十分であると言わざるを得ません.それ以上に,あのヘドロがそのままでは精神衛生上良くありません.

図2.4 整備の完了したクラッチマスターシリンダ
 図2.4は適量のクラッチフルードを入れ,整備の完了したクラッチマスターシリンダの様子です.リザーバタンクが鋳造一体型の場合,多くのモデルで点検窓が設けられていますが,液体を入れ過ぎた場合,窓がすべて埋まってしまい,液が入っているのか,それとも窓が汚れているのか分からないケースが少なくありません.したがって,液を上限まであふれんばかりに入れるのではなく,ハンドルを左右に振った場合に空気が点検窓に見える程度に調整しておくことが,外部からのモニタリングを容易にさせる要であると言えます.


【考察】 
 継続検査(車検)を受験する前には法定24か月定期点検の実施が強く求められます.メガスピードは認証工場として車検前整備を実施しております.そしてその際には可能な限りブレーキフルードおよびクラッチフルードの交換を推奨しています.それはフルードに吸湿性があり経年により性能が低下するだけでなく,気泡が生じれば液圧のかかりが悪くなったり,汚れが堆積してくれば,リターンポートに詰まって液圧が解除されなくなる恐れがあるからです.ですから継続検査という2年に1回のサイクルに合わせて液体を新品に入れ替えておくことが大切です.
 今回の事例ではクラッチリザーバタンク内部に堆積したヘドロの除去およびクラッチフルードの交換をテーマにしましたが,液体だけ交換して 『ハイ終わり』 というのでは,何の意味もありません.やはりその入れ物にゴミがたまっているのであれば,同時に綺麗にしておく必要があり,例え手間がかかっても,そこまでやる必要があるのです.


※1 ブレーキレバー端部の折れと継続検査(車検)について
※2 無理に補修されたスイッチの故障によるフロントブレーキストップランプの点灯不良について





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.