事例:E-194
生産工程で発生したと推測される頭のなめたウォータポンプ取り付けスクリュについて |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1988年 参考走行距離:約58,000km |
【不具合の状態】
長期保管により始動不能に陥っていました. |
【点検結果】
この車両はエンジンの始動が不能になったということで,お客様のご依頼によりメガスピードで修理を承ったものです.
結果的にオイルチェックバルブの衰損 ※1 が原因でしたが,
ここではその他の点検の際に気になったウォータポンプ取り付けスクリュについて記載します.
図1.1 取り外されたオイルパンに付属したウォータポンプ |
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図1.1は水廻り点検整備一式を実施する際に取り外したオイルパンと,
それに取り付けられているウォータポンプの様子です.
赤の四角Aで囲んだスクリュの頭がなめていました.
図1.2 なめているウォータポンプ取り付けスクリュ |
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図1.2は頭のなめているスクリュの様子です.
白矢印Bはスクリュをなめた際に金属がめくれ上がった部位を示しています.
メクレ具合から締め付け方向でスクリュの頭をなめたと考えられます.
この車両はお客様が新車で購入されたワンオーナー車であり,
且つ一度もウォータポンプを取り外したことがないというお話から,
消去法的に言えば,生産時の締め付け工程でなめたことになります.
なるほど確かになめた方向が締め付け側であることから整合性が取れます.
しかしいつ破損させたかは,もはや重要ではなく,大切なのは今これからメガスピードで正しく整備され,
良好な状態で納められるということをお客様と私が共有することです.
特に外から見えない部位に関しては,内部の情報を互いに共有するというのはこの上なく大切なことなのです.
図1.3は頭のなめたスクリュを横から見た様子です.
赤矢印で示した部位が破損したねじ山であり,上から見ただけでは破損の具合が良く分かりませんが,
横から見れば,いかに頭のなめた部位が上にめくれ上がってしまっているかが理解できます.
図1.4は頭のなめていたスクリュを取り外した様子です.
ウォータポンプをオイルパンに固定するこのスクリュは総じて硬く締め付けられていることが多い為,
頭がなめているスクリュは特に取り外しが困難になる傾向が強いと言え,
可能な限りスクリュの頭をなめてはなりません. |
【整備内容】
スクリュはすでに修正不能な域に入っていることや車両の発売が1980年代中盤から後半であること,
そして走行距離が実走で6万キロ近いことから疲労等を考慮して新品に交換しました.
図2.1は新品のウォータポンプ取り付けスクリュの様子です.
使用部位がオイルパン内部という常にミッションオイルに浸かっている箇所であることから,
取り外した頭のなめたスクリュに錆等は発生しておらず,比較的綺麗でしたが,
やはり新品のそれは光沢が違います.
もちろんボルトの強度も元に戻り,頭の形状も新品であることから正しく力を加えられ,
規定トルクで正確に締め付けることができます.
図2.2 オーバーホールの完了したウォータポンプとその取り付けスクリュ |
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図2.2はオーバーホールの完了したウォータポンプをオイルパンに取り付けた様子です.
オイルパンそのものも点検洗浄した為,アルミの光沢が新品のボルトの頭とともに美しく輝いていることが分かります.
機能的にも最終的に試運転を行い,問題ないことを確認して整備を完了しました. |
【考察】
一般にエンジン内部の6mmナベ型のスクリュは締め付けが固く,
あるいは固くなっており,緩めるのに苦労する場合が少なくありません.
その為一度分解された部位に関しては過去に作業者がなめてそのまま再使用しているケースがあります.
しかし今回の事例では締め付け方向になめていたことや,
新車で購入してから一度もオイルパンを外していないということから,
生産工程でなめたまま出荷された可能性が否定できません.
多くの修理や整備を実施していると,まれに生産工程で発生したとしか考えられない破損に遭遇することがあります.
オイルパンの取り付けスクリュの場合,確かに頭がなめたままの状態でも機能的には何も支障がないかもしれません.
しかし,もし自分のバイクのエンジン内部がこの様な状態であったら私は嫌です.
そして嫌なことは是正するのが筋であり,お客様の車両にも同様な心掛けで日々取り組んでいる次第です.
※1 オイルチェックバルブの衰損により短期間で2サイクルオイルで満たされたフロートチャンバについて
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