【考察】
樹脂部品というものは,新品であれば粘りがありますが,20年も経過すれば硬化すると同時に脆くなり,触っただけで破損する場合すらあります.この事例の様に,グリップ側からのワイヤの軸受けになって負荷を受けている部分が樹脂であれば,むしろ破損していて当然と考えなければなりません.その場合,極端にスロットル操作感が悪化している為,新品供給がある場合は速やかに交換しておくことが望ましいと言えます.なぜならいくら吹け上がりが良い状態だったとしても,それを操作する部位でロスが生じていては,エンジンの本来の性能を味わい切れないからです.スロットルケーブルは交換すれば操作を含めレスポンスが良くなるので実感しやすい部位でもあり,特に車と違い手で操作するデリケートな部分ですから,やはり最良の状態にしておく必要があります.
この車両はYSPで納車整備されたというものですが,状態から判断するとすでにYSPに入荷した時点でスロットルケーブルは破損していたと推測できます.素人でも容易に分かるくらいスロットルの戻りが悪化していたことを考えると,おそらくYSPでも気づいていたはずですが,利益を考えればスロットルケーブルを交換するのが難しかったのかもしれません.しかしその条件でお客様が購入されたかどうかは分かりません.『スロットルワイヤは破損していてフィーリングが悪化しているけれども,交換しないという条件で販売します』ということで両者が納得して売買されていれば何も問題ないことです.
そして私の仕事はその様な不完全な車両を可能な限り完全に近づけることです.他でやれなくてもメガスピードでやれば良い,難しそうな修理でもメガスピードなら何とかしてくれる,そう言っていただけるよう日々精進してまいります.実際にとんでもない車両のお預かり修理も多く,頭を抱えながら取り組んでいますが,私の目指す理想的な技術力にはまだまだ到達していません.最近は工学的なことばかりでなく,特に基礎的な自然科学の重要性を再認識しています.勉強しても勉強しても,どんどんメーカーは新技術で逃げて行ってしまうので,整備という範疇でさえ中々追いつきません.それこそ死ぬまで勉強です.そしてそれをやるエネルギーが沸々と湧いてくるのは,自己実現だとか何だとか,そんな難しい概念ではなく,ただお客様の喜ぶ顔が見たい.それだけです.案外,人間は単純なものなのです.
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