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事例:127

スロットルケーブル内部に発生した錆により重くなったスロットル操作について


【整備車両】

 GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250  推定年式:1987年  参考走行距離:約14,000km


【不具合の状態】

 スロットルの引きが重く,戻りも渋い為エンジンフィールが低下した状態でした.


【点検結果】

 この車両はエンジン始動困難に陥っていた為,メガスピードにて整備を実施したものです.

前オーナーが乗らなくなって一時抹消してから2年間倉庫に保管していたということですが,

発売が1987年頃であることから,各所整備が必要な状態でした.

これは,“旧所有者が実際に走行していた”という前提条件は中古車を購入する上では意味を持たないことを示しています.

今回の事例では,重くなっていたスロットル操作について記載します.



図1.1 絶縁テープの巻かれているスロットルワイヤケーブル

 図1.1は重くなっていたスロットル操作の不具合解消における点検で取り外したスロットルワイヤケーブルの様子です.

青い矢印で示した部分2箇所に絶縁テープが巻かれている状態でした.

またタイコ付近のワイヤが無負荷で曲がったままになっていることから,長期間使用されていたことが分かります.



図1.2 テープ被覆部分の拡大

 図1.2は絶縁テープが巻かれている部分を拡大した様子です.

AとBのそれぞれが同じ向きで巻かれている上,テープ接着剤の溶けだし具合や樹脂材質の劣化具合から,

同時に巻かれたものであると推測されます.

テープが巻かれているということは,その時にテープを巻く必要があったということであり,

その必要性の根源を突き止める為,それぞれ剥がして内部を確認しました.



図1.3 被覆外側の損傷が見られるケーブル

 図1.3は図1.2のAの部分のビニールテープを剥がした様子です.

内部には達していないものの,ケーブル最外側の樹脂が完全に削れている状態でした.



図1.4 錆が発生しているケーブル

 図1.4は図1.2のBの部分の絶縁テープを剥がした様子です.

破損は内部金属部に達して錆を発生させていることから,この部分だけでなく,周囲も含めて発生した錆により,

ワイヤ動作の抵抗になっていると推測されます.


【整備内容】

 状態から判断してグリスアップといった小手先の手当では十分な性能回復が見込めないことから,

スロットルケーブルを新品に交換しました.



図2.1 新品のスロットルケーブル

 図2.1は新品のスロットルケーブルを車体に取り付けた様子です.

整備したキャブレータリターンスプリングと相まって,非常に鋭いレスポンスを得ることができるようになりました.



図2.2 新品のスロットルケーブルと整備されたリターンスプリング

 図2.2はキャブレータ側の新品のスロットルワイヤケーブルと整備されたリターンスプリングの様子です.

スロットル操作には必ず戻しの機能を担っているスプリングが必要であり,

スロットルワイヤが損傷している場合,スプリング等も経年等により錆びていることが少なくありません
※1

やはりケーブルのみ新品にするのでは操作フィーリングの回復は不十分であり,

併せてリターンスプリングも整備される必要があります.


考察】

 この事例のスロットルケーブルはその場しのぎでケーブル破損部に絶縁テープが巻かれていたものであると考えられます.

確かに一時の応急的な処置であれば事足りるといえますが,内部の錆は広がり続ける為,

時間とともにスロットル操作が重くなることは避けられません.

したがって快適に乗るのであれば,スロットルワイヤを含めケーブル部にも破損が見られる場合はすみやかに新品に交換し,

同時にキャブレータのリターンスプリングも点検整備しておく必要があります.


 もっと突き詰めていえば,絶縁テープで補修する暇があるのなら,迅速に新品に交換すべきであるといえます

なぜならスロットルワイヤの値段は新品に交換されたことによる効果から割り出せば,

非常に安価であり,費用に対する効果がとても大きいということができるからです.

それを考えれば,少なくとも私には躊躇する事情も迷う要素も存在しません.

それ程に2輪自動車にとってスロットルの操作感覚は重要なのです.


 スロットル操作において動きの悪くなっている車両に乗るのは大変ストレスが溜まるものです.

その様な状況では満足したバイクライフを送れるはずがなく,心身の健康にも悪影響を及ぼします.


 スロットル操作は一番直感的かつ操作機関として一番大切な部位であると言っても過言ではありません.

というのも,ブレーキその他の操作に先んじて,何事にもまずスロットルを捻らなければ始まらないからです.

特に発売から20年以上経過した車両であれば,一見問題なく見えるケーブルも,

大気中の水分による錆や使用による摩耗等で,必ず内部抵抗が増えています.

やはり楽しく乗るのであれば,古い車両は一度チョークやクラッチも含めて,

ワイヤ類は新品に交換しておくことが望ましいとえいます.





※1 “2バレル2キャブレータ式スロットルバルブ廻りのオーバーホールについて(気化器の型式:BSW27)”






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