事例:140
始動不能な車両のプラグのかぶりとキャブレータ整備後の評価手段について |
【整備車両】
RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 推定年式:1986年 参考走行距離:約3,900km |
【不具合の状態】
長期保管によりエンジンがかからなくなっていました. |
【点検結果】
この車両はお客様が長期保管している間にエンジンがかからなくなったものです.
エンジンの圧縮等を測定し,結果的にキャブレータのスタータ及びパイロット系統が詰まっていた ※1
のが原因であると判断することができますが,
取り外したスパークプラグの状態から,プラグの絶縁不良もエンジン始動不能の原因であると推測されます.
また発売から数十年経過したモデルは,
例えば同じRG250Γでいえば点火系統の不具合の為に始動不能 ※2 であることも少なくない為,
何が原因で始動不能なのかを正確に突き止める必要があります.
図1.1 ガソリンでびしょ濡れになっているプラグ電極部 |
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図1.1は取り外したスパークプラグの様子です.
カーボンと2サイクルエンジンオイルの混合物で汚染されている上,
全体的にガソリンがかぶっている状態であり,正常に放電せずにリークしていた可能性が否定できません. |
【整備内容】
この車両はエンジンのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を含めて各所分解整備を実施しました.
始動に関してはキャブレータのオーバーホールと同時にかぶっていたプラグを交換しました.
図2.1 理想的な焼け具合を示しているプラグ電極部 |
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図2.1はエンジンや車体,キャブレータを整備してから試運転を行い,取り外したプラグの様子です.
セッティングを繰り返し,実際の走行状況と焼け具合の整合性を調整しながら最良の状態にしました. |
【考察】
エンジンがかからない原因としてはキャブレータ内部の詰まりが少なくありませんが,
特に2サイクルエンジンではプラグのかぶりもそれと同じくらいの頻度で影響しているといえます.
著しくかぶった場合は二度と再始動できなくなることも稀ではなく,
エンジン内部の情報源としてスパークプラグの管理は非常に大切な要素になります.
今回の修理車両ではキャブレータの詰まりがエンジン始動不可の直接の原因でしたが,
例えキャブレータに詰まりがなくても,取り外したプラグの状態からすれば始動不可の状態に陥っていたと考えられます.
つまり大切なのはなぜプラグがかぶったのかを考慮することであり,仮にキャブレータの通路を貫通させたとしても,
その他に要因があれば,いくら新品に交換してもたちまちプラグがかぶり始動不可になります.
この車両はエンジンのオーバーホールを含めて不安な要素を一切排除した為,
整備後の試運転において理想的な焼け具合を示し,かつ良好なエンジンフィールを得ることができました.
プラグはエンジンの燃焼室を写す鏡です.
やはりエンジン各部のオーバーホール,空燃比セッティングの評価基準のひとつとして,
プラグの焼け具合からいわば“内臓”の健康状態を知ることは非常に有効であり,
逆に評価基準を設けなければ,いくらオーバーホールしたと称しても,何の価値もないといえます.
※1 “スタータジェット及びパイロットジェットの詰まりによる始動不可について”
※2 “CDIの故障における点火時期異常によるプラグのかぶりとエンジン停止について”
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