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事例:E-270

オイルアウトレットの裂けによる2サイクルエンジンオイル全量の漏れについて

【整備車両】 
 RG500EW-2W (HM31A) RG500Γ(ガンマ)  2型  年式:1986年  参考走行距離: 19,000 km
【不具合の状態】 
 車体下部へ2サイクルエンジンオイルが全量漏れるという事態に陥っていました.
【点検結果】 
 この車両は2サイクルエンジンオイルらしきものが漏れているということでメガスピードにて整備のご依頼を承ったものです.自走不能だったためお客様の保管場所まで引き取りにお伺いしました.漏れ始めてから2週間,その後急激に漏れ出してから3日程度で完全にオイルタンクが空になった状態でした.

図1.1 緑色に染まっているオイルアウトレットの断熱シールド
 図1.1 はオイルタンク下部に位置するオイルアウトレットの様子です.断熱シールドが緑になっていることから,この周囲から2サイクルエンジンオイルが漏れ出している可能性があります.

図1.2 ジョイント部上部の裂けているオイルアウトレット
 図1.2 は詳しく点検する為にオイルタンクを取り外した様子です.何とオイルアウトレットの口の上側が裂けていることが分かりました.これにより内部のパイプからあふれたオイルが裂け目を通って車体下部に落下したものであると判断できます.

図1.3 裂けているジョイント部
 図1.3 は断熱シールドを取り外して更に良く状態を確認した様子です.赤の楕円で囲んだ部位が裂け目ですが,口の入り口から付け根までほぼ完全に割れていることが分かりました.なるほど数十年前の当時ものであればこの様な事態に陥ったとしても何ら不思議なことではありません.しかしここで考慮しなければならないのは,このアウトレットは5年前に新品に交換されていて,同時期に交換したその先のオイルホースは全く亀裂や損傷が発生していないということです.
 材質の状態からオイルアウトレットは生産し続けられていて,注文した場合に当時ものではなく,新しく作られたものが入荷していると考えられます.したがって,当時ものと材質が変化しているのか,品質が低下しているのか,あるいはハズレの製品を使用してしまったのか,のいづれかに該当します.そしてどの場合でも,少なくとも5年以内,車検を目安にするのであれば4年ごと,すなわち車検2回に1回の割合で新品に交換しておけば,この様な事態に陥らずに済むことになります.

図1.4 クリップ取り付け部のみ亀裂がないオイルアウトレット
 図1.4 はオイルアウトレットの口の部分ですが,黄色の楕円で囲んだ部位はクリップが取り付けられていた部分です.ここだけ亀裂が入らずに,そこを避けるようにして後方からまた亀裂が発生していました.このことはクリップの締め付け力は非常に弱いものの,それがあることにより亀裂を防ぐことが可能であることを示しています.


【整備内容】
 オイルアウトレットを始め,オイルポンプ付け根までの樹脂部品や断熱シールドをすべて新品に交換しました.


図2.1 新品のオイルアウトレット
 図2.1 は新品のオイルアウトレットの様子です.今回新品に交換されたものが5年程度で亀裂が発生するという事態に陥ったことから,例え新品でも少なくとも4年を目途に不具合が発生する前に新品に交換することが望ましいという方針をお客様に助言致しました.

図2.2 新品のアウトレットジョイント部と新品のジョイント
 図2.2 は新品のオイルアウトレットと,そこに挿入される新品の真鍮のジョイントの様子です.確かにオイルアウトレットにジョイントを差し込む際にかなりの抵抗を感じますが,重要部位であり,そのくらいしっかり挿入しないと外れる危険があり,その場合走行中であればエンジンの焼き付きを誘発します.したがってやむを得ない挿入固さであると判断できます.しかしもう少し緩ければ,オイルアウトレットに負担をかけず,亀裂の発生等のリスクが減らせるのではないかと考えられます.そのあたりはトレードオフの関係であり,設計者が考えたものを受け入れざるを得ず,整備により対処する他はありません.逆に言えば,整備する頻度を適切にすれば何の心配もないことになります.

図2.3 オイルアウトレットに接続されたオイルホース
 図2.3 はオイルアウトレットにジョイントを挿入し,そこに新品のオイルホースを接続した様子です.クリップはほとんど意味をなさず,挿入固さだけでまず抜けることはありません.抜ける前にゴムが破損するくらい固く入っています.したがって,取り付け時にはゴムにダメージを与えぬよう慎重にジョイントを挿入する必要があります.

図2.4 オイル漏れの解消したオイルアウトレット
 図2.4 はオイルアウトレットをオイルタンクに取り付け,断熱シールドを巻いてからを車体に取り付けた様子です.数日間漏れがなく,また試運転においてもリヤタイヤが鋭利な金属が突き刺さってパンクした ※1 というイレギュラーな事態を除いて異常がないことを確認してオイル廻りの整備を完了しました.そしてパンクしたリヤタイヤの新品交換を実施しました.


【考察】 
 2サイクルエンジンにおいて2サイクルエンジンオイルは命とも言えますが,今回の事例ではそれが丸ごともっていかれる様な状況でした.もちろん一瞬でオイルタンクが空になるわけではなく,オイルが車体下部に溜まることから異常に気付くことは可能ですが,そもそも論として,オイルタンクが勝手に空になるのは許されないことです.

 今回の不具合の原因はオイルアウトレットの口の部分が裂けたことであり,その結果として接続部内部のパイプに行くはずのオイルが外側からすべて漏れ出したことです.問題はオイルアウトレットが5年程度前に新品に交換されていることであり,新品の信頼性を著しく損なう結果が現実として目の前にあると言うことです.これに対処するにはより高頻度で入念に点検するしかありません.しかし今回の事態を踏まえれば4年に一度は必ず交換しておけば不具合を回避できる可能性が極めて高くなるということです.もはやゴムは消耗品と考えて,車検ごとに交換するのであれば更にGOODであると言えます.車検の有効期間の2年は大丈夫であろうとするのは私の勝手な見込みに過ぎないので,その間も年に一度は良く点検しておきたいものです.

 修理を終え試運転をすれば,そこには何ともないいつもの500が待っていました.床がオイルまみれになったのが嘘のように,調子良く走っています.たった一か所の不具合ですべてが台無しになる,それは良くあることです.発売から数十年経過した個体などはその塊のようなものです.ですが,その塊を少しでも柔らかく解せる様に,メガスピードでは発生する個々の事例に対して前向きに取り組んで参る所存です.


※1 試運転時において鋭利な金属が刺さったことによるリヤタイヤのパンクについて





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