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事例:E-212

反転して取り付けられたオイルホースクリップについて

【整備車両】 
 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約23,500 km
【不具合の状態】 
 クリップの割れ目が外側を向いて取り付けられている為,外観の美しさを損ねる状態でした.
【点検結果】 
 この車両は他店で購入された直後にメガスピードにて不具合の修理を承ったものです.先方でキャブレータのオーバーホールを実施したということですが,車両は1番と3番シリンダの不完全燃焼により加速の悪い状態
※1 であり,状況や主要部の点検結果から不十分であると判断し,当社で細部までオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)し直しました.今回の事例ではオイルホースのクリップについて記載します.

図1.1 切れ目の見えるオイルポンプ側のオイルホースクリップ
 図1.1はオイルポンプに取り付けられているオイルホース付け根の部分の様子です.4気筒なので4本のホースがポンプに接続されていますが,黄色の楕円で囲んだ部分のクリップは切れ目がこちらを向いていることが分かります.取り付け性能としては何ら問題ないとしても,クリップの切れ目が1つだけこちらを向いて反転しているのは見ていて非常に気持ちの悪いものです.

図1.2 切れ目の見えるキャブレータ側のオイルホースクリップ
 図1.2は3番キャブレータに接続されているオイルホースの様子です.赤色楕円で囲んだ部分がオイルホースの付け根ですが,クリップの切れ目がこちらを向いてしまっていることが分かります.


【整備内容】
 
 クリップの切れ目がどこを向いていようが性能には関係ありませんが,外観を大きく左右します.見た目から得られる機能美は人の心に作用するといえ,機械側の立場では何ら問題ないことでも,人間側に立てば見苦しい外観はストレスになる場合がすくなくありません.したがって,クリップは美しく取り付けられる必要があります.

図2.1 切れ目の見えない様に取り付けられたクリップ
 図2.1は切れ目が外から見えない様に取り付けられたクリップの様子です.銀色に光り輝くクリップは非常に美しく,その他の部品も新品に交換され銀色に輝いていることが分かります.意識的な整備によりここまでモノが美しくなります.そしてそのモノを見て美しいのか醜いのかを感じるセンスは非常に大切です.

図2.2 整然と取り付けられたオイルホースクリップ
 図2.2はオイルポンプから出ているオイルホースに整然とクリップを取り付けた様子です.モノが美しく見える1つの要素に規則性がありますが,当然4つクリップがあれば,4つとも同じ向きかつ切れ目が見えない様に取り付けられるべきであると私は考えます.そしてこのクリップは一度装着すれば余程の事が無い限り向きを変えません.したがって,一度した作業が末永く残る為,可能な限り美しく仕上げなければならないのです.


【考察】 
 クリップが取り付け時に広がる構造であれば必ず切れ目すなわち合わせ目が存在します.そしてその合わせ目がどの方向を向いていたとしても,実際には性能に影響はないと言えます.しかし,一般的には切れ目や合わせ目,割れ目,つなぎ目,その他 は,外側から見えない様に美しく配置するのが基本です.
 今回の事例ではランダムに切れ目が表を向いている箇所がありました.作業者は何も考えないで取り付けた結果であると推測できます.何も考えなかったのか,何も考えられなかったのか,それは分かりませんが,この様な状況を避ける為の1つの大きな手掛かりは,お客様のバイクを自分のバイクと同一視できるかどうかであると私は考えます.つまり自分のものは大切であるということを前提として,お客様の車両を自分のものと同じ様に整備できるか否か.それが非常に重要になります.そしてそれは“資質”です.知識や技術の前に,その資質の有無が出来栄えのカギになります.もしそれがないとすると,残念ながら結局はやっつけ仕事という域から脱することは不可能であり,そしてそのことに気づくこともできず,この事例の様に最後は車両がそれを静かに物語ります.

 私がモノの外観にこだわる理由は大きくわけて2つあります.
1つ目は,例えば今回の事例の様にクリップが複数使われるような場合,規則正しく取り付けられていれば,万が一脱落していたりすると,すぐにその状態に気づくことができるからです.つまり正常な状態が予めインプットされていて,それを基準に見た瞬間に異常の有無を判断することができる為です.
そして2つ目は,モノそのものの性能に影響しなくても,それを見る人の心に影響を与えるからです.乱雑になっているところより,理路整然としていた方が,人は美しいと感じる傾向があります.

 “自然は美しい”,あるいは“美しい自然”といったフレーズによく出くわす機会があります.確かにそれはもっともな文句ですが,私は人が努力して作り上げた科学技術により生み出された製品こそ美しいと思います.空を飛ぶ飛行機,高くそびえる高層ビル,LSI集積回路等,人工物にこそ美しさが見出されると常々感じるのです.そして車やバイクも同じです.

 整備や修理といった自動車に関する職業は,ともすると機械が対象のように思われがちですが,それは違います.機械はただの人と人を結ぶ媒質であり,私とお客様をつなぐ1つの事象,端的に言えばツールに過ぎません.機械でも何でも,モノは人に使われてこそ存在する意味があり,どのような仕事も最後は人が相手なのです.そしてその人により良く満足していただけるかどうか,そこが究極の目的です.
今回の事例でいえば,クリップの切れ目がどこにあっても,400Γのオイル供給性能は変わらないでしょう.しかし,人に着目すれば,クリップの切れ目が見えるのと見えないのでは,感じ方が全く異なるはずです.一番大事なのは,モノを通して人がどう感じるかなのです.


※1 不適切な空燃比と熱価による加速不良と未燃焼オイルにまみれたサイレンサ周囲について





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