不適切な空燃比と熱価による加速不良と未燃焼オイルにまみれたサイレンサ周囲について |
【整備車両】
RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型 年式:1987年 参考走行距離:約23,500km |
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【不具合の状態】
吹け上がりが悪く,走行中に1番と3番サイレンサから黒くなったオイルが大量に噴き出す状態でした. |
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【点検結果】
この車両は他店で購入された直後にメガスピードにて不具合の修理を承ったものです.先方でキャブレータのオーバーホールを実施したということですが,状況や主要部の点検結果から不十分であると判断し,当社で細部までオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)し直しました. |
図1.1 噴き出した未燃焼オイルで汚れている3番サイレンサ周囲 |
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図1.1は自走により車両を持ち込まれたお客様からお預かりした時点のサイレンサ周囲の様子です.辛うじて走行できるものの,もっさりとした吹け上がりの悪い状態した.図からも明らかなように大量の未燃焼オイルがサイレンサから噴き出し,周囲を汚染していました.ナンバープレートに関しては全体が真っ黒になっている状態でした.またサイレンサから垂れてチャンバを伝わったオイルがフロントスプロケット手前で滴り落ちている状態でした. |
図1.2 噴き出した未燃焼オイルで汚れている1番サイレンサ周囲 |
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図1.2は1番サイレンサから噴き出した未燃焼オイルの様子です.サイレンサとその下部そしてチェーンカバーやスイングアーム等各部がドス黒いオイルで汚染されていました. |
図1.3は一番未燃焼オイルの飛散が多く,排気温度の著しく低かった3番シリンダから取り外したスパークプラグの様子です.中心電極,接地電極,碍子,その他すべてカーボンに覆われていて全体がオイルまみれになっていました.この状態では正常に燃焼できず,それにより排気温度も低く,その結果加速が悪くなったと考えられます.また熱価が不適切であることも燃焼不良につながる原因の一つであると推測されます. |
図1.4は3番シリンダの二次圧縮圧力を測定している様子です.3番だけでなく4気筒とも正常値を示していることから,エンジン本体は問題なく,今回の不具合とは切り離し可能と判断しました. |
図1.5は燃焼不良の発生していた3番キャブレータを開けた様子です.空燃比が崩れていると判断しました.特に古い車両については,物事は額面通りではないということに注意しなければなりません. |
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【整備内容】
空燃比とプラグの熱価を適切にしました. |
図2.1は点検洗浄したキャブレータに適切なメインジェットを取り付けた様子です.これにより,より良い混合気が作られることを期待できます. |
図2.2 正常に燃焼した3番シリンダスパークプラグ |
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図2.2は25km程度試運転してから取り外した3番シリンダのスパークプラグの様子です.適切な熱価のプラグを使用し,適切な空燃比にしたことにより理想的な燃焼を実現し,非常に力強い加速力を取り戻すことができました. |
図2.3は更に高速100kmを含む合計170km程度試運転を実施し,その時点で一度車体を清掃し,そこから一般道を20km程度試運転した後に撮影した3番シリンダサイレンサ周囲の様子です.整備後に試運転をしてしばらくは内部に溜まっていた未燃焼のドス黒いオイルがかなり吐き出されてきましたが,この段階では溜まっていたオイルがだいぶ排出され,ほとんどオイル汚れが確認できないほど燃焼状態が良くなっていることが分かります.以上の結果から状態が良好であることを確認して整備を完了しました. |
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【考察】
この車両は他店でキャブレータがオーバーホールと称する作業がされた際に,スロットルストップスクリュにOリングが取り付けられていなかった ※1 り,各部にする整備不良が発生していました.そして空燃比の狂いやプラグ熱価の誤選定といった大きな不具合の原因が重なって,結果として人為的に発生したものであると考えられます.
元がどのような状態かは分かりませんが,少なくともオーバーホールしたと称して逆に調子が悪くなってしまっては何の意味もないことです.したがって,オーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)という語句を使用するのであれば,正確な整備による不具合の解消という結果が求められます.
2サイクルエンジンはオイルもガソリンと同時に燃焼している為,どうしてもその構造上排気ガスに含まれるオイル分はゼロにはなりません.そして長年使用していれば排気管にそのオイルが溜まってくる場合があります.しかし燃焼状態が良ければ,例え微量ずつ排気管にオイルが溜まるとしても,ドス黒いオイルがサイレンサから一気に多量に噴き出してくることはありません.したがって,もしサイレンサから多量にドス黒いオイルが吹き出てくる場合は不完全燃焼を疑う必要があり,その場合結果として加速不良に陥っていることが少なくありません.したがって燃焼状態を良くするには何をすべきか故障診断を実施し,それに基づく整備が必要であると言えます. |
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