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事例:E-207

スロットルストップスクリュのOリングがエアスクリュに誤使用された影響について

【整備車両】 
 RG400EW-2W (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約23,500km
【不具合の状態】 
 1番,3番シリンダの燃焼不良により加速状態が悪化している状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで不具合の整備を承る直前に他店で整備されたものですが,SIPCホースが最後まで取り付けられていなかったり
※1 ,各部に不具合が見られた為,それぞれについて整備し直しました.ここではスロットルストップスクリュにあるはずのOリングがなく,エアスクリュにないはずのOリングが誤って取り付けられていた事例について記載します.

図1.1 エアスクリュの下にある異物
 図1.1はキャブレータをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)するためにエアスクリュを取り外した様子です.赤丸で囲んだ部分がエアスクリュ設置部位ですが,本来あるはずのない,Oリングとスプリングシートが挟まっていることを確認しました.また数十年の汚れによりスロットルバルブガイドのガスケットが黒く汚染されていることが分かります.

図1.2 エアスクリュ取付部から取り出されたOリングおよびワッシャ
 図1.2は内部に挟まっていたOリングとシートワッシャをピックで取り外した様子です.通常VM28にはエアスクリュにOリングとシートワッシャは設定されていないため,誤って取り付けられていることが推測できます.そして問題はそれがどこから来たかということです.部品の中でOリングとシートワッシャが使用されているのはスロットルストップスクリュのみなので,その部位の部品の可能性が非常に高いことが考えられます.そしてその懸念通り,スロットルストップスクリュには,Oリングとシートワッシャが入ってませんでした.これは二次エア吸いの直接の原因になりエンジン調整に不調をきたします.


【整備内容】
 キャブレータをスロットルバルブガイドの細部まで分解洗浄し,誤って組み付けられていた部品をすべて正しい位置に組み直しました.

図2.1 新品のエアスクリュとスプリング
 図2.1は点検洗浄の完了したキャブレータに新品のエアスクリュおよび緩み止めのスプリングを取り付けている様子です.VM28ではOリングやシートワッシャの部品設定はない状態が標準です.


図2.2 新品のスロットルストップスクリュ
 図2.2の上の画像は新品のスロットルストップスクリュおよび緩み止めのスプリング,スプリングシート,そしてOリングで,下の画像はそれらを組み立てた様子です.この部位はOリングで密封しないと二次エアを吸い込む原因となる為,必ずと言えるほどOリングの部品設定があります.

図2.3 点検洗浄されたキャブレータとスロットルストップスクリュ設置部
 図2.3は点検洗浄されたキャブレータボデーの様子です.Oリングの入っていなかったハウジングも同時に確実に洗浄し,亀裂や損傷の有無を確認しました.

図2.4 キャブレータに取り付けられたスロットルストップスクリュ
 図2.4はOリングおよびシートワッシャの取り付けられたスロットルストップスクリュをキャブレータに取り付けた様子です.これにより二次エア吸い等の不具合から解消されました.


【考察】 
 この車両は1番と3番シリンダの燃焼不具合により加速が悪い状態でした.この事例ではOリングの付け間違えをとり上げましたが,それ自体はアイドリングが異常上昇する等の不具合につながる要因であり,今回の加速不良の直接の原因ではないと推測されます.しかし他店で業者がオーバーホールしたというキャブレータがこの様な状態になっているのは非常に憂慮すべき事柄であり,いかにオーバーホールという語句に対してその精度が作業者によるかを明確に示した事例であると言えます.
 4サイクルエンジンのキャブレータではパイロットスクリュにOリングとシートワッシャが設定されることが多いと言えますが,2サイクルエンジンのキャブレータのエアスクリュにはそれらがないことが少なくありません.そして必ずと言っていいほど,二次エア吸い防止の為スロットルストップスクリュにはOリングが設定されています.
つまり今回の事例における人為的整備ミスは,まず2サイクルエンジンにおけるキャブレータの予備知識があれば防ぐことができた可能性が高いと言えます.しかし例えそれらの知識が無かったとしても,パーツリストをしっかり確認すればOリングの有無や設置場所は明らかです.今回のミスは4気筒すべてで同様に発生していた為,単なるミスではなく,知識の無さと部品設定の確認不足が重複して発生したものと推測されます.
 ミスをしない人間はいません.しかしそれは必ずしもミスを許容することにはなりません.なぜならば,パーツリストを何度も確認するといった徹底した確認作業があれば回避できるミスが存在するからです.そしてこの様な事態を避ける為にも,キャブレータの整備は正確な知識と技術を有した者が実施しなければならないのです.


※1 差し込みの不適切なSIPCホースについて





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