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事例:E-200

燃料コックOFFの状態で発生するキャブレータからのガソリン漏れについて

【整備車両】 
 RG500EW-2W (HM31A) RG500Γ(ガンマ) 2型  年式:1987年  参考走行距離:約15,200km
【不具合の状態】 
 燃料コックOFFの状態で保管中にガソリンがキャブレータからオーバーフローする状態でした.
【点検結果】 
 この車両はキャブレータから排出されているオーバーフローパイプから燃料が漏れるということで,メガスピードにて整備を承ったものです.実際に弊社に入庫された次の日にはガソリンがかなりの量漏れ出しているのが確認できました.燃料コックをOFFにして保管していたことから,漏れの原因はキャブレータ本体と燃料コックにあると判断しました.燃料の供給源である燃料コックが正しく機能していれば一定量漏れたとしても,それ以上は漏れることはない為,今回の不具合は燃料コックそのものがまず第一に機能していないと言えます.

図1.1 燃料の漏れ出している燃料ホース
 図1.1は4番キャブレータに供給される燃料のホースです.一旦取り外して燃料を排出したあと,正確な漏れの量を測定しました.

図1.2 18時間で漏れ出した燃料の量
 図1.2は燃料コックOFFの状態で18時間放置し,漏れ出したガソリンの量を測定した様子です.11.5mlと小さい皿の底面が満たされる程度の量が漏れ出していました.これでは例えお客様がご家族からバイクがガソリン臭いと言われたとしても無理はありません.早急な対策が必要であると判断しました.


【整備内容】
 
 1980年代中盤から後半にかけて製造された車両の部品を注文した場合,継続生産されていなければ,新品といえども,どの段階で製造された部品が入荷するか誰にも分かりません.金属部品等は当時製造されたものの場合,例え袋が未開封の状態でも錆びていることが多々あります.新品なのに錆びているという残念な経験を多く積むと,新品といえども製造時期が非常に大切であることが分かります.
 この車両の不具合を発生させている燃料コックASSYも実際には当社で2年前に新品に交換したものでした.すなわち2年で新品がダメになったと結論付けられますが,そもそも新品を取り付けても,その新品がいつ作られたか分からなければ,中古と変わらないと言っても過言ではないのです.したがって,今回は再び SUZUKI 純正新品を注文して取り付けるのではなく,元来のコックはそのまま保存し,キャブレータの直前に追加で別会社の現行カタログにある燃料コックを取り付けることで対応しました.

図2.1 新品の燃料コック
 図2.1は新品の燃料コック、キジマ(Kijima) ガソリンコック ホース内径9.5mm用の様子です。つまみを90度回転させることによりONとOFFを切り替える構造で非常に安易に取り扱うことができます.純正のコックより機械的構造が単純でシンプルな分高い信頼性が期待できます.RG500Γのメイン燃料ホースの内径は公称φ9.0ですが,実際にはそれより大きく,形状が適合した燃料コックが限られている為,その選定が非常に重要になります.

図2.2 3番キャブレータの直前に取り付けられた新品の燃料コック
 図2.2は3番キャブレータの直前に燃料コックを新設した様子です.ホースとコックの間からの燃料漏れを確実に防止する為,締め付けはバンドにより行いました.これにより,走行後の保管時にキャブレータ内部のガソリンを空にしたい場合,エンジンをかけたまま燃料を消費させてエンジン停止させる時間が大幅に短縮することができました.
 またコック左側に見えるのは新設したオイルチェックバルブの様子です.RG500/400Γはキャブレータ内蔵のオイルチェックバルブが衰損する為,当社ではその内部をストレート加工し,オイルチェックバルブをキャブレータ直前に新設することで対応しています
※1
 車両外観からも明らかなように,位置的に手動でON,OFFの切り替えが容易に実施しやすいばかりでなく,キャブレータの直前に配置することにより,キャブレータ内部の燃料が空になった状態からの燃料供給も迅速になりエンジン始動が素早くなる等の利点がもたらされました.またコック本体がコンパクトであり車両の外観を損ねることなく設置することができました.コック取り付け後は24時間放置で一滴も燃料が排出されていないことを確認し整備を完了しました.


【考察】 
 本来は燃料コックの位置がONであれOFFであれ,フロートバルブで燃料が停止していなければなりません.しかしRG500/400Γの場合,フロートバルブASSYを新品に交換しても,燃料がバルブで完全に止まらない場合があります.もちろんその場合でも燃料コックが正確に作動していれば,燃料コックからキャブレータまでの燃料が出きってしまえばそれ以上燃料が外部に漏れ出すことはありません.しかし今回の事例では燃料コックそのものが不具合を発生させていた為,常にガソリンが燃料タンクから落下している状態でした.

 根本的にはキャブレータ本体で燃料を停止させなければなりません.しかしその場合,
ⅰ) フロートバルブに欠陥がないと仮定すれば,油面の高さを変更するか,フロートを変更して浮力を増加させるか,あるいはオーバーフローパイプを延長して油面を上げて増加させた浮力でバルブの密着力を高めるか,といった内部的な問題になり,
ⅱ) フロートバルブに欠陥があるとすれば,構造的に代替を見つける等の対応が必要であり,
どの道容易に解決することができません.したがって今回はエンジン停止時に燃料コックをOFFにするという条件のもとで燃料漏れが解消したと判断しました.

 燃料漏れは確かに悪臭の発生原因になりますが,それは主成分の炭化水素に脱硫等で除去しきれなかった硫黄分等の不純物,そして人工的な添加剤等によるものであり,車両火災を防止する上で漏れの認知に非常に役立ちます.そして最も大切なのは車両火災を防ぐことであり,燃料漏れが発生した場合は何らかの形で対策しなければなりません.そして例えキャブレータ本体で完全に停止させることができないとしても,その上流でしっかりせき止めることが安全につながると言えます.


※1 オイルチェックバルブの衰損により短期間で2サイクルオイルで満たされたフロートチャンバについて





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