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事例:E‐99

フランジを利用したその場しのぎで固定された排気チャンバからの排気漏れについて


【整備車両】

RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) Ⅰ型  年式:1985年  (参考)走行距離:約12,600km


【不具合の状態】

2番シリンダ排気チャンバの付け根から排気漏れが発生していました.


【点検結果】

 この車両は他店の業者から現状販売で購入されたお客様のご依頼により,

メガスピードにて各所点検整備を行ったものです.

エンジン廻りを見ると,2番シリンダが排気漏れを起こしていました.



図1.1 フランジにより無理やり固定されている2番シリンダ排気チャンバ

 図1.1はエンジン下側の1番及び2番シリンダの排気チャンバの様子です.

まず驚くべきことに,1番シリンダの右側のフランジボルト(黄色い四角B)にフランジが共締めされていました.

黄色の四角Aで囲んだ部分にボルトがないことから,

2番シリンダの排気チャンバのフランジは固定されていないことが分かりますが,

Bのボルトに共締めされたフランジにより,2番シリンダ排気チャンバのフランジが脱落を免れています.

しかし取り付けが不十分であることは明確であり,その結果排気漏れが発生していました.

そもそも共締めに使用されたフランジ自体が排気チャンバからは抜きとれない構造になっている為,

少なくとも部品として抽出する為にどこかで排気チャンバが1本壊されている可能性があります.

この共締めの状況はまさに驚愕以外の何物でもなく,

多々ある整備事例の中でも,特筆すべき程の特異で異常且つ異様な状況であるといえます.

素人整備というよりはむしろ業者のその場しのぎの施策であるといえ,

ここまで滑稽な状態にさせられた車両も珍しく,見ているだけで可哀想になり胸が痛みました.


【整備内容】

 排気漏れの発生している2番シリンダ排気チャンバを確実に固定する為にも,

まず共締めされているフランジを取り外すことから整備を開始しました.

その結果,図1.1の黄色い四角Aで囲んだ部分は内部にボルトが折れ込んでいることが分かりました.

それにより排気チャンバフランジの取り付けボルトを使用することができず,

1番シリンダの排気チャンバ取り付けボルトにフランジを共締めして,

2番シリンダ排気チャンバのフランジを固定しようとしていたものであると判断しました.



図2.1 2番シリンダに折れ込んだボルトの抜き取り

 図2.1は折れ込んでいた2番シリンダ排気チャンバ固定ボルトを抜き取っている様子です.

折れ込みに際しねじ溝が傷んでいた為,万全を期してヘリサート加工を施しました
※1



図2.2 正常に取り付けられた2番シリンダ排気チャンバ

 図2.2はヘリサート加工の行われたねじ溝に確実に取り付けられた2番シリンダ排気チャンバの様子です.

取り付け後に試運転を行い,不具合や排気漏れがないことを確認して整備を完了しました.


考察】

 この事例では2番シリンダに排気チャンバ取り付けボルトが折れ込んでいたことにより,

正規の取り付けができず,1番シリンダのボルトに共締めするかたちでフランジが取り付けられており,

それによって辛うじて2番シリンダ排気チャンバが脱落しない状態でした.

状況から一般の方が素人整備してこの様な状態になったとは考えにくいといえ,

凝った作りから業者がその場しのぎで行った結果の産物である可能性が高いといえます.

私はこれを見た瞬間,驚愕しました.

排気チャンバのフランジが近接して3つ並んでいるという極めて異様な光景に脳が拒否反応を示したからです.


 現状販売という言葉を正確に解釈して法的な売買契約が成立すれば,

購入者はそれ以上のことを主張する権利はありませんし,契約が成立し購入後にクレームをつければ,

それは明らかな契約違反であり,業種を問わず,どの業界からも嫌われるタイプの客であるといえます.

このケースでいえば,まさにこのフランジが3つ並んだ状態がまぎれもない“現状”なのです.


 確かに機能的に問題なければ,多少のことは目をつぶる場合があるとしても,

実際に排気漏れが発生している上,2番シリンダ排気チャンバがぐらついている様では,

到底満足できるバイクライフを送れる見込みはありません.


 今回の事例が示していることは,優れた整備技術者である為には,知識や技術云々以前に,

コンプライアンスや企業に求められる水準以上のモラルが必要であり,

最後は人間性に左右されるということに他なりません.

どのような人種がこのフランジを利用したその場しのぎの固定作業を行ったかは分かりませんが,

折れ込んだボルトを抜き取らない限りは,排気チャンバを確実にシリンダに接続することができず,

排気漏れが発生するのは容易に判断できることであり,

それを承知で作業したのであれば,所詮はそれだけの器量であったということです.

抜本的な解決にはシリンダから折れ込んだボルトを抜き取る必要があるのは明白であり,

本来は,そして実際にそこまでやらなければならないのです.

各分野でモラル崩壊が問題になっていますが,まさしくこの分野においてこの事例が示している通り,

危機感をもって憂慮しなければならないレベルに到達しているといえます.



 メガスピードでは他店から購入された直後の車両や,他店で修理を断られた車両,

個人売買で入手された直後の車両が不具合を発生させた結果,持ち込まれることが少なくありません.

もちろんその様な車両は大歓迎ですし,そうであれば尚更修理・整備しなければなりません.

その役割が当社の存在意義でもあると考えております.

もし他店や個人売買等で入手されたものが思い描いていた様な状態の車両でなかったとしても,案ずることはありません.

当社にて納得のいくレベルまで修理を承ります.

一筋縄ではいかない修理や整備のご依頼が少なくないのは,

掲載している他の事例をご覧いただければお分かりいただけると思います.

どのようなものでも,可能な限りメガスピードにて整備,修理して最良の状態でお渡しできるよう日々精進してまいります.






※1 “排気チャンバー取り付け部雌ねじのねじ山破損に対するヘリサート加工による修理について”






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