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エンジン内部への雨水の侵入によるエンジンオイルの乳白化について


【整備車両】

VTZ250H (MC15)  推定年式:1987年  参考走行距離:約44,000km


【不具合の症状】

エンジンオイルが白濁化していました。


【点検結果】

この車両は2カ月程度雨ざらしに保管された影響でエンジンがかからなくなっていました。

キャブレータを分解整備した際に、キャブレータ内部に水が侵入していて、

各ジェットやポートにガソリンと水の混ざったゲル状のものが詰まっていた為に、

エンジン始動不可能な状態になっていることが確認できました。


この事例では“エンジン内部への雨水の侵入によるエンジンオイルの乳白化について”という題で記載するので、

キャブレータの分解整備によるエンジン始動については上記のリンクをご覧下さい。



エアクリーナエレメントの浸水やキャブレータ内部への浸水、その量から考えて、

バルブ廻りに薄い錆の層が見られたことから、浸水した水は、吸気バルブからエンジン燃焼室、シリンダに落下し、

ピストンを伝わり、ピストンリングとシリンダの間から落下し、オイルパン内に堆積している可能性があると判断しました。

図1はエンジンオイルレベル点検窓の様子です。


図1、白い物質で覆われ内部の様子が分からないエンジンオイルレベル点検窓

キャブレータ分解整備にてエンジンが始動する状態に整備したものの、

エンジンオイルレベル点検窓をのぞくと、内部は白濁化していて、オイルの量が把握できない状態でした。

入庫される数週間前にお客様が何とかエンジンがかかる状態だったと言われていたことを考えると、

すでにエンジン内部に侵入していた水はオイルと撹拌されていた可能性があります。




図2、半固形化、白濁化したエンジンオイル

図2はオイルフィラーキャップからエンジン内部を点検した様子です。

内部はスタータのピニオンギヤ等が見える程度しか把握できませんが、

エンジンオイルは真っ白の半固形物になり、内部に付着していました。

このような状態なので、エンジンオイルを抜き取り、その状態の点検を行いました。




図3、乳白化したエンジンオイル

図3は乳白化したエンジンオイルです。

オイルの受け皿の底が見えないほど白く濁っていました。

これはエンジンオイルに水分が混入して撹拌された結果、オイルが乳白化したものと判断できます。

この様な状態でエンジンを使用し続ければ水の混入により粘度変化や劣化したオイルによる潤滑不良で、

金属同士の焼き付き等様々な不具合を引き起こす可能性があります。

水の侵入経路としては、エンジン内部の冷却水がエンジンオイル潤滑系統に流れ込んだか、

エンジン外部から水が侵入したかの2つの可能性が考えられます。

ラジエータキャップを取り外し、口から冷却水の状態を確認したところ、

冷却水はオイルの混じった形跡もなく、まった量も減っていないので、

冷却水がエンジンオイル潤滑系統に混入した可能性は低いと判断できます。

またメカニカルシールやシリンダヘッド部、冷却水の各ホースにも異常が見られず、

冷却水を抜き取り点検を行っても、おかしな点が見られないことから、

水はエンジン外部から侵入したと判断しました。



エンジン外部から侵入した場合、エンジンと外部のつながっているところは、

吸入排気のバルブかスパークプラグしかありません。

この事例ではスパークプラグは完全に規定トルクで締め付けられていたので、

そこからの水の侵入は排除できます。

残るは吸気、排気バルブですが、排気バルブ側はエキゾーストマフラーにより完全に外部と遮断されており、

マフラーの付け根の状態も良好だったので、吸気バルブから水が侵入したと考えられます。

この消去法から導き出された推測と、実際の現象として吸入通路から大量に雨水が流れ込んでいたことが結びつくので、

この事例では吸入空気経路から雨水が侵入し、エアクリーナ、キャブレータ、インテークマニホールドを通り、

吸気バルブ、燃焼室、シリンダ、クランク室、オイルパンへと落下堆積したものっだと判断できます。


【整備内容】

エンジン内部はエンジンを分解整備しないと手が入らないので、

この事例ではエンジンオイルの洗浄作用を利用し、オイル交換を重ねて内部をフラッシングしました。

エンジンオイル交換後に20km程走行試運転し、オイルを入れ替えるという作業を繰り返しました。



図4はエンジンオイルの交換によりエンジン内部が洗浄されていく様子を、

エンジンオイルを媒体として把握している様子です。


図4、交換されたエンジンオイルの変遷

エンジンの内部は目視で確認することができません。

ですので、エンジンオイルの色や粘度の移り変わりをエンジン内部の状態と仮定して把握しました。

①は2回目のオイル交換の際に排出したエンジンオイルの様子です。

まだ全体的に白く、水分を含んだオイルが排出されたことが分かります。

②は3回目のオイル交換の際に排出したエンジンオイルの様子です。

筋状の少し茶色い本来のエンジンオイルの色が混じった部分があるのが確認できます。

③は4回目のオイル交換の際に排出したエンジンオイルの様子です。

白と茶の割合が逆転して、本来のエンジンオイルの色の割合がかなり多くなったことが確認できます。

④は5回目のオイル交換の際に排出したエンジンオイルの様子です。

ほぼ完全に通常のエンジンオイルの色になり、水分を含んだエンジンオイルを排出できたと判断しました。




図5、洗浄完了後、内部状態が良く分かるエンジンオイルレベル点検窓

図5はエンジン内部の洗浄が完了し、透明になったオイルレベル点検窓からオイルの量を見た様子です。

整備後に200km程度走行試運転しましたが、オイルは透明のまま良好な状態を保っていることを確認しました。




図6、洗浄後に内部の様子が分かるようになったフィラーキャップ取り付け口

図6はエンジンオイル交換整備完了後のオイルフィラーキャップ取り付け口からエンジン内部を見た様子です。

白い固形物は完全に除去されていることが確認できます。


【考察】

この事例ではエンジンオイルに侵入した水の経路は吸入空気通路でした。

経緯をまとめると、台風の中で雨ざらしにしていた車両のエアクリーナ開口部から横殴りの風雨が侵入し、

キャブレータ、インテークマニホールド、吸気バルブ、燃焼室、シリンダを経て、

最終的にピストンリングとシリンダのすき間から落下し、オイルパンに混入したものと考えられます。

水と油が混ざると乳白色になり、粘度が指定されたものから変化したり、オイルが劣化する場合があります。

それはエンジンオイルの基本的性能である金属同士の摩擦防止能力を引き下げ、

エンジン内部の摩耗を発生させ、各部に不具合を引き起こす原因となります。

この事例の原因は水がエンジン内部に侵入したことが原因であると考えられますが、

やはり車両を屋外に保管する場合は、最低限バイク専用のシートを被せておくことが望ましいといえます。





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