トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:111~120)


事例:120

バルブに堆積したカーボンの除去とバルブシートカットについて


【整備車両】

 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

 
燃焼室及びバルブフェースにカーボンが山盛りに堆積していました.

 またバルブシートも傷等が発生していて気密性が損なわれている可能性がありました.


【点検結果】

 この車両は走行距離が20,000kmを超えていた為,

メガスピードにてエンジンオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を含め,各所点検整備を実施したものです.

内部の圧縮圧力は十分にあり,走行するには大きな問題はないとされる状態でしたが,

燃焼室やバルブにカーボンが堆積していると判断した為,オーバーホールを実施しました.

実際にエンジンを分解して見るとオイルパイプ取り付けボルトが脱落しかけていたという重大な不具合が発生していました
※1

今回の事例ではシリンダヘッド,その中でもバルブとバルブシートに関して記載します.



図1.1 カーボンの堆積している燃焼室

 図1.1は1番から4番シリンダまでの燃焼室の様子です.すべて同様にカーボンが堆積していることが分かります.

カーボンはプレイグニションやデトネーション等の異常燃焼の誘発原因になる為,可能な限り除去される必要があります.



図1.2 バルブヘッドに堆積したカーボン

 図1.2はバルブヘッドの燃焼室形成面に堆積したカーボンの様子です.

シリンダヘッドの燃焼室天井部と同様に,バルブ部にも著しくカーボンが堆積しているのが分かります.



図1.3 フェース部に堆積したカーボン

 図1.3はバルブフェースに堆積したカーボンの様子です.

インテーク側は混合気の通路になる為,特にカーボンの堆積が著しいといえます.

エキゾースト側の堆積物は燃焼生成物であり,インテーク側のカーボンよりも硬いことが分かります.



図1.4 カーボンの堆積しているインテークバルブフェース

 図1.4はバルブフェースを拡大した様子です.

インテーク側のカーボンの堆積が著しく,20,000kmの走行においてこの量のカーボンが蓄積されています.

バルブは高速で往復運動をする為,堆積したカーボンが数グラムであっても,相当の悪影響を及ぼすといえます.

またシートとの接触面に凹凸が見れれる事が分かります.

これはエンジンの圧縮をリークさせる原因になり,出力低下につながります.



図1.5 バルブシート表面に見られる凹凸

 図1.5はバルブシートの様子です.

特に45°のバルブフェースとの接触面の状態が重要になりますが,

変色している部分があり,そこに細かな凹凸が発生していることが分かります.

これはフェースとの密封性能を損なうものであり,

バルブと同様に圧縮抜けの原因になり,エンジン性能の低下という悪影響を及ぼします.



【整備内容】

 カーボンの堆積していたバルブを各部点検する為にもまずカーボンを完全に除去し,

バルブシートはフェースとの接触面の荒れを修正する為にシートカットを行いました.

またシリンダヘッド側の燃焼室や各ポートに堆積したカーボンも除去しました.




図2.1 カーボン等の除去されたバルブヘッド

 図2.1はバルブヘッドに堆積していたカーボン及び燃焼生成物を除去した様子です.

特にエキゾースト側の燃焼生成物は硬い為に除去するのが大変ですが,

これを実施するかしないかで性能に影響を及ぼす極めて重要な箇所であるといえます.

整備が施されたことにより,燃焼における異常燃焼の発生原因を極力抑えることが可能になりました.



図2.2 カーボン等を除去し点検されたバルブ

 図2.2はバルブフェース側のカーボン及び燃焼生成物を除去した様子です.

これにより特にカーボンが山盛りになっていたインテーク側の混合気がスムーズな流れになることが期待され,

混合気の気密と合わせてエンジン出力性能の回復が見込まれます.



図2.3 バルブシートカットの実施

 図2.3はインテークバルブシートをカットしている様子です.

シートリングにわずかな傷が発生している程度であればバルブの擦り合わせにより除去することが可能ですが,

今回の事例では面が予想以上に荒れていた為,シートカットを含めた整備を実施しました.



図2.4 正確にカットされたエキゾーストバルブシート

 図2.4はシートカットの完了したエキゾーストバルブシートの様子です.

45°の部位がバルブフェースと接触する部分ですが,

シート幅を正確に合わせる為,15°及び60°も同様にカットし,修正しました.



図2.5 擦り合わせたバルブとシートリング

 図2.5はカットしたバルブシートとバルブフェースを擦り合わせ,当たりを確認している様子です.

インテーク側,エキゾースト側の合わせて16箇所の擦り合わせを正確に行いました.



図2.6 擦り合わせたバルブとシートの気密の点検

 図2.6はバルブの擦り合わせを行い,実際にバルブをシリンダヘッドに取り付けてからガソリンを給油し,

バルブとバルブシートにすき間がないか気密の点検を行っている様子です.

すべての箇所で漏れが発生していないことを確認して整備を完了しました.



図2.7 慣らし運転後のエンジンの圧縮圧力

 図2.7は慣らし運転を実施し,エンジンの圧縮圧力を測定した様子です.

エンジン一式すべての部位をオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)した為,

圧力測定結果にはシリンダヘッドの整備のみならず,シリンダやピストン廻りを整備した結果も含まれます.

約1,350kPaと非常に良好であり,走行時におけるまさに力強い加速の体感を裏付けるものとなりました.



考察】

 4サイクルエンジンにとってシリンダヘッドは最重要機関であり,

バルブ性能がエンジン性能を左右するといっても過言ではありません.

したがって,特にバルブ廻りの状態は常に気にかけることが大切であり,必要に応じて分解整備することが求められます.


 今回の事例ではバルブシートに傷が確認できたことからシートカットを実施し,

バルブシートが上がる分バルブの取り付け位置も上がる為,バルブクリアランスの再調整を行いました.

しかし余程でない限りはほとんどのケースにおいてバルブの擦り合わせで十分に気密を確保することが可能です.


 エンジンがかかり走行できるか否かを問わず,

20,000km走行した中古車のエンジン内部は,実際には大体この様な状態になっています.

シリンダヘッド燃焼室にはカーボンが溜まり,バルブの傘は盛り上がっています.

混合気の流れがこれだけ盛り上がったカーボンでふさがれていれば,

出力がカタログよりかなり落ちていると考えて良いといえます.

また燃焼室に堆積したカーボンは異常燃焼の原因になる為可能な限り除去されなければなりません.


 300km/hオーバーの実力を秘めた極めて趣味性の強いバイクであれば,

そのエンジン性能を維持する為にも,定期的にオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)しておきたいものです.

私は自分の所有している車両に関しては常に万全の態勢で楽しみたい為,

使用に応じて出力低下や不具合が発生する前に分解整備を実施します.

バルブにカーボンが山盛りになっていると分かっているエンジンに乗るのは気分が悪いものです.


 この事例のエンジンに関しては,すべての箇所に手を入れたので,

例えフルカバードの外装で何もかも隠れてしまっても,気持ち良く乗ることができます.

それは私自身がオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)したことを知っているからです.

そしてお客様も同様に,中身が全く分からないものを乗るよりは,

メガスピードにて実際に整備したということを知っていれば,それだけで安心して気分良く乗ることができるのです.

何も見ていないエンジンであれば,万が一このエンジンの様に 『もしカムシャフトのオイルパイプが脱落していたら・・・』

と考えると夜も眠れなくなるのは無理もないのです.


 今回の事例では20,000kmを目安に分解整備しました.

20,000kmというのは2輪自動車にとっては1つの目安になります.

『走行距離20,000km !! まだまだこれからの車両です !』 という様な販売業者の謳い文句を良く目にしますが,

確かにそれは間違っていませんし,実際に走行する分には全く問題がないレベルの車両も数多く存在します.

しかし,厳密にいえば20,000km走行すればエンジン出力は確実に低下しているといえ,

少なくともインテークバルブに関して言えば,20,000kmも走ればカーボン山盛りになっています.

それはこの事例のカーボンの堆積したバルブの様子をご覧いただければ容易に分かるはずです.

また圧縮圧力が十分でも,このエンジンの様にカムシャフトのオイルパイプが脱落しかけているという,

イレギュラーな事態が発生している可能性も否定することはできません.

これらを総合すれば,20,000kmという走行距離はひとつの指針であると言わざるを得ないことが理解できると思います.


 とにかく単に走れば良いというのであれば,20,000kmという走行距離は何も意味を成しません.

なぜなら乗り潰すつもりでロクな手入れもせずに10万km走る車両も中には存在するからです.

しかし,本当に自分の大切な車両であれば,

例え10万km走ったとしても,10万km分のカーボンと一緒に旅をしていたとすれば,気持ちの良いものではありません.

やはりエンジン内部はきれいなもの,きれいにしたもの,きれいだと確実に分かっているものに乗りたいものです.



参考】

 エンジンを分解しなくても,バルブの状態は外部から確認することができます.

したがって,ある程度は様子を把握することができるものの,内部は暗く,またバルブヘッド側は見えない為,

実際には見た目以上にカーボンが山盛りになっていると考えて良いといえます.



図3.1 インテークマニホールドから見たインテークバルブ

 図3.1はこの事例のエンジンを分解する前にスロットルバルブを取り外して,

インテークマニホールド側から撮影したインテークバルブの様子です.

左右ともかなりカーボンが堆積していることを確認することができます.

実際には図1.4の様に,バルブの傘の部分に盛り上がる様に堆積していました.

これでは混合気の流れが妨げられるのも当然です.

同様にエキゾースト側もマフラーを外せば確認することができますが,

目視できるのはバルブの一部に過ぎないことからあくまで参考程度に留めるべきであり,

やはり実際に分解整備して不具合を解消することが求められます.





※1 “オイルパイプ取り付けボルトの緩みとカムシャフト廻りの焼き付きの可能性について”






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