トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:71~80)



ガスケットの欠落とボルトの不適切な締め付けによるシリンダカバーからの排気漏れについて


【整備車両】

RGV250M (VJ22A) RGV250(ガンマ)  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,500km


【不具合の状態】

シリンダカバーいわゆる排気バルブ機構のカバーのボルトから排気漏れが発生していました.


【点検結果】

この車両は他店でお客様が購入された直後に不具合を発生させた為,

メガスピードにて整備を承ったものです.

下廻りを点検していると2番シリンダの排気バルブ機構のカバーから排気漏れしていることを確認しました.



図1 排気漏れしている2番シリンダカバー

図1は排気漏れしている2番シリンダのカバーの様子です.

重力の影響から下部の漏れが著しいといえますが,

ボルトの頭も漏れた排気で汚染されている為,

単純なすき間からの漏れに加えてボルトの締め付けに不具合があると推測できます.



図2 ボルトの締め付けトルクの測定

図2は
検査用トルクレンチを使用し,ボルトの締め付けトルクを測定している様子です.

ボルトの頭から漏れが発生していた為,ボルトの締め付け状態を把握することが必要であると判断しました.



図3 測定された右下ボルトの締め付け状態

図3は測定された右下ボルトの締め付けトルクが約5,2N-mであることを示しています.

締め付けトルクの検査は戻しトルク法で行った為,

概略の補正値をとると,およそ締め付けトルクは6,50N-mとなります.

その他の3つのボルトを含め,4か所のボルトの締め付けトルクをすべて検査し,表1にまとめました.



a 左側 右側
上側 10,25N-m 10,0N-m
下側 10,75N-m 6,50N-m
表1 シリンダカバー取り付けボルトの締め付けトルク


表1はシリンダカバーすなわち排気バルブ機構カバーの取り付けボルトの締め付けトルクを測定した結果です.

取り付けボルトの径が5mmであることから,標準締め付けトルクは3,0N-mであり,

すべてのボルトがオーバートルクで締め付けられていたことが分かります.

また注目しなければならないのは,ボルトからの排気漏れが一番ひどかった右下の締め付けトルクのみ,

5,2N-mと,他のボルトに比べて約半分であることです.

これは右下部に歪みが発生していたことが否定できません.

今回の排気漏れの原因の一つに,歪みによって生じたすき間が影響していたといえます.

また相対的にボルトの締め付けに差異がある為,

できたすき間からボルトのねじ溝を伝って外部に排気が漏れたと推測できます.



図4 カバーを取り外した排気バルブ機構

図4はカバーを取り外した排気バルブ機構の様子です.

排気が外部に漏れ出す程度の汚れは状況から推測できますが,やはり内部は粘度の高い排気により汚染されていました.



図5 取り外したシリンダカバー内側

図5は取り外したシリンダカバー内側の様子です.

本来あるはずのガスケットがどこにも見つかりませんでした.

つまりガスケットが省略されていたことが排気漏れの主要な原因であると判断できます.



図6 側面に付着した液体ガスケットの残りかす

図6はカバーに付着していた液体ガスケットの残りかすの様子です.

これは本来の純正ガスケットを使用せずに,何らかの理由により液体ガスケットを代用したことを示していますが,

結果的にシール性能が及ばず排気漏れが発生していたと考えられます.


【整備内容】

抜かれていたガスケットを補充すること及び,ボルトを適正なトルクで締め付けることを柱とし整備を開始しました.

図7 新品のボルト,ガスケット及び洗浄研磨されたシリンダカバー

図7は新品の取り付けボルト及び新品のガスケット,そして洗浄し,合わせ面を研磨したシリンダカバーの様子です.

ボルトは疲労や錆等の状態を踏まえて新品に交換することにより,正確な締め付けトルクが得られることを期待しました.

カバーの合わせ面はほとんど荒れておらず,洗浄のみでも使用可能であるものの,

排気漏れが発生していたことを考慮し,修正研磨しました.



図8 合わせ面を修正研磨されたシリンダ排気バルブ機構ハウジング

図8は排気バルブ機構が収まるシリンダのハウジングの様子です.

内部のオイル汚れは可能な限り除去し,カバーとの合わせ面は修正研磨を行いました.



図9 排気漏れが改善された2番シリンダカバー

図9はハウジングにシリンダカバーを規定トルクで締め付けた様子です.

試運転を行い排気漏れが改善されたことを確認して整備を完了しました.


【考察】

エンジン部品の合わせ面にはほとんどの箇所で通常ガスケットが使用されていますが,

この事例では見当たりませんでした.

結果的にそのことが一番の排気漏れの原因であり,

ボルトの不適切な締め付けが加わり,排気漏れが発生したと判断できます.

ガスケットが使用されない原因は,素人による未熟な整備の結果や,

業者がコストダウンの為に故意に省略した等が考えられますが,

液体ガスケットが薄く塗布されていたことから,

純正部品がなく,それを使用するかわりにその場しのぎで組み付けられたものである可能性が極めて高いといえます.

基本的にガスケットの部品設定がメーカーで指定されている箇所は,きちんと使用されなければなりません.

ボルトの締め付けの点から考えれば,

標準締め付けトルクの2倍以上で締め付けられている上,右下の締め付けトルクがその他の半分であることを考えると,

トルクレンチ等適正な工具が使用されず,手の勘で締められたということが分かります.

確かに2サイクルエンジン搭載モデルはその振動によりボルトが緩むケースがないとはいい切ることができません.

しかしこの事例では4つあるボルトの内1つだけが,それらの締め付けトルクの半分であることから,

振動による緩みではなく,初めからバラつきがあったと判断するのが自然です.

もし振動による緩みが発生していたとしても,4つのボルトの取り付け位置が近い為,結果が環境に影響されるとはいえず,

おそらく均等に緩むことが推測されることから,今回の締め付け不良は人為的なものであると結論付けられます.

やはりエンジン部品は場所に応じたトルクで正確に測定工具なりを使用して締め付ける必要があり,

それが排気漏れを含むいわゆる“漏れ”を防ぐ手段になり,また各機関が正確に稼働する必要条件でもあります.



この車両はキャブレータが不適切である(※1)ことを始め,

業者やそれ以前の所有者にぐちゃぐちゃにされてしまった経緯があり,それを考えれば今回の事例の様に,

ボルトの締め付けが極めて不適切であったり,

排気バルブ機構のカバーにあるべきガスケットが抜かれてしまっていても,驚きはしません.

確かにバイクは趣味性の高い乗り物であり,自己満足の象徴的所有物の最たるものであることは否定できません.

しかし,少なくとも動力機関すなわち一般的にはエンジンが取り付けられ,

出力の制御を誤れば他者をも巻き込む様な,

人命にかかわる大惨事を引き起こす可能性が極めて高いものであることを考えれば,

それは好き勝手にめちゃくちゃにされて良いはずがありません.

自宅に飾っておくのであれば,ぐちゃぐちゃでも問題ありませんが,

他者の存在する公道を走行する場合は保安基準を十分にクリアし,且つ安全に走行できる状態に維持されていることが,

自身の安全はもとより他の交通に迷惑をかけない為にも,最低限求められる必須条件であるといえます.

やはりその為には正しい知識や技術のある整備技術者が点検整備を行うことが求められます.





(※1)スロットルストップスクリュの整備事例は,

“アジャストスクリュの取り付け不良と不安定なアイドリングについて”

をご覧下さい.





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