トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:221~230)


事例:E-221

エンジン側アジャスタの固定不良により毎回遊びの変化するクラッチワイヤについて

【整備車両】 
 R1-Z (3XC) 3XC1  推定年式:1991年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 クラッチの操作感にザラツキがある他,遊びが毎回変化する状態でした.
【点検結果】 
 この車両はメガスピードで整備を承る前に他店でヘッドガスケットおよびピストンリングを交換したとされるものです.当社で点検したところリザーバタンクには全く冷却水が入っておらず,ラジエータにもキャップ口元付近は冷却水が無い状態でした ※1 .これではオーバーヒートに陥る危険性があります.この車両は他店で中古で購入されたお客様から,不具合の改善を承るべくメガスピードで整備を承ったものです.リザーバタンクに冷却水が全く入っていないという不具合を始め各部に異常が見られましたが,今回の事例では,毎回クラッチの遊びが変化するという状態について記載します.

 クラッチの遊び等はユーザーが自身の好みに合わせて調整するものですが,それが毎回異なる様では楽しく運転することはできず,逆にそれがストレスになりバイクから遠ざかる原因になり兼ねません.特にクラッチの遊びはユーザが行う最も重要な位置合わせの1つであることからも,それが正確にできるように機関を整備しておく必要があります.

図1.1 不適切なエンジン側クラッチケーブルアジャスタ部
 図1.1はエンジン側のクラッチアジャスト部分の様子です.本来はナットが左右にあり,それにより固定される構造ですが,取り付けられていたものは固定する部品がなく,クラッチ操作を行う度に動いて位置がズレる為,毎回遊びが変化してしまう状態でした.これでは変化するたびにレバー側でアジャストし直さなければならず,満足のいくライディングは不可能です.

図1.2 レバー側の破損しているクラッチワイヤ
 図1.2は不適切なクラッチケーブルを外す為にレバー側のワイヤを外す際に確認した被覆の破れの様子です.ケーブルの一部がめくれあがっていました.

図1.3 レバー側の破損しているクラッチワイヤ
 図1.3は取り外したクラッチワイヤのタイコ部の様子です.何らかの原因でめくれ上がった被覆が絡まっていました.少なくともこの状態を見れば,この様なワイヤは使用したくないというのが普通の感覚であると言えます.
 取り付けられていたクラッチワイヤが他車種のものであることは明らかですが,タイコ部といい,エンジン側といい,一体なぜこの様なクラッチワイヤが使用されたのか理解に苦しむ限りです.

【整備内容】
 
 損傷していたクラッチケーブルASSYを新品に交換し,エンジン側のアジャスタを適切な位置に調整しました.

図2.1 新品のクラッチワイヤレバー側
 図2.1は新品のクラッチワイヤのレバー側の様子です.純正部品は図の様にワイヤに被覆はなく剥き出しの状態です.

図2.2 新品のクラッチワイヤレバー側
 図2.2は新品のクラッチワイヤの取り付けられたレバー側の様子です.赤色の楕円で囲んだ部分がクラッチワイヤですが,エンジン側が確実に取り付けられたことにより,正確な操作およびアジャストの保持が可能になりました.また先端の削れていたレバーも同時に新品に交換しました.

図2.3 整備の完了したエンジン側クラッチケーブルアジャスタ廻り
 図2.3は取り付けた新品のクラッチケーブルエンジン側のアジャスタを適切に調整した様子です.実際に整備後の試運転において,毎回アジャストがずれることなく正確なクラッチ操作ができるようになりました.これでライダーは毎回信号待ちの度にアジャスト調整をすることなく,運転に集中できるようになりました.

【考察】 
 お客様は当該整備車両を他店で中古で購入されたということですが,中古車は過去の経緯が分からず,未熟な作業者によりこの様にその場しのぎの部品が使用されているケースが少なくない為,購入後は一度包括的に整備技術者により点検整備されることが大切です.
 今回の事例では,クラッチワイヤが不適切な部品でした.しかし中には実際に分解して初めて気づく様な箇所で不適切な部品が使われているケースも少なくありません.特に発売から20年以上も経過している車両であれば,その間に様々な所有者の入れ替わりがあり,各々において勝手気ままにいじくられてしまったものもあります.特に軽二輪は車検制度がない為か,その傾向が非常に強い印象を受けます.そしてその中でも2ストモデルは尚一層それが顕著であると言っても決して過言ではありません.しかし,だからと言って中古車の購入を恐れる必要はどこにもありません.正しい整備が施されれば,性能は維持できるのです.その為にメガスピードは持てる知識と技術を駆使して最大限お客様のご希望にお応えできるよう日々精進してまいります.


※1 空になったリザーバタンクとラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性について





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