トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:81~90)


事例:E‐88

転倒によるクラッチカバーの破損がもたらすミッションオイル漏れについて


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅰ型  推定年式:1983年  参考走行距離:約19,000km


【不具合の状態】

エンジンをかけて走行すると,クラッチカバー中間部からミッションオイルが漏れ出す状態でした.


【点検結果】

 この車両はお客様が自賠責が切れてから数年間乗らずに保管されていたもので,

今回再び乗られる為にメガスピードにて各所整備を承ったものです.

キャブレータのオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)やオイル廻りの整備一式,

前後ブレーキ廻りの整備等を行い走行できる状態にして試運転を行ったところ,

クラッチカバーや
キックペダルの付け根からからミッションオイルが漏れ出している ※1 のを確認しました.

ここではクラッチカバーからのオイル漏れの修理事例を記載します.



図1.1 ミッションオイルの漏れ出しているクラッチカバー

 図1.1はクラッチカバーからミッションオイルが漏れ出している様子です.

5km程走行した段階で,オイルがエンジン下部に達するくらい漏れ出してきました.

クラッチカバーの塗装の剥がれ具合や,細かいもので削ったような痕があること,

また
ウォータポンプカバーも同一線上に削れが見られる ※2 ことから,

転倒によるものが原因であると判断できます.



図1.2 カバー表面に見られる亀裂

 図1.2はクラッチカバー表面のオイル漏れが発生している部分の様子です.

それぞれ黄色い四角A,B,Cで囲んだ部分に亀裂が確認でき,そこからミッションオイルが漏れ出していることが分かります.

エンジン停止状態では漏れが発生しなかったことから,

エンジン稼働時にはSUZUKIのロゴ上部までクラッチによりオイルが掻きあげられていると判断できます.



図1.3 亀裂や損傷の見られるクラッチカバー内側

 図1.3は取り外したクラッチカバー内側の様子です.

黄色い四角Bには円状に内側から削られたような傷が見られ,

A及びCで囲んだ部分には筋状に亀裂が入っていることが確認でき,

それぞれBの円状の傷を中心に拡散していることが分かります.

これは転倒した際,クラッチカバーが地面に押され,黄色の四角Bの部分にクラッチレリーズが接触して削り,

その衝撃でAとBに筋状の亀裂が入ったのではないかと推測されます.



図1.4 クラッチ廻り

 図1.4はクラッチカバーを取り外したエンジンの様子です.

黒い四角Aで囲んだ部分がレリーズであり,この部分に転倒による外部からの力を受けたクラッチカバーが接触し,

破損に至ったと考えられます.

材質からアルミ合金のクラッチカバー側が損傷することにより,

レリーズには細かい傷も含めて特に問題は見られませんでした.


【整備内容】

 クラッチカバーがアルミ合金であることから,アルゴン溶接やパテ埋めといった,

部品そのものを生かす方法も考えられますが,破損が内部に達していることや,

漏れという現象を考えると,それ解消する最良の方法であるとはいえず,

信頼性を確保する為にはクラッチカバーそのものの交換が必要であるといえます.

J201型エンジンの場合,すでに絶版である為新品を使用するのが難しいといえますが,

今回の事例ではお客様がたまたま新品を入手されたということで,

それを使用することになりました.



図2.1 エンジンに組み付けられた新品のクラッチカバー

 図2.1は新品のクラッチカバーをエンジンに取り付けた様子です.

試運転を行い各部からオイル漏れがないことを確認して整備を完了しました.


【考察】

 二輪自動車はその構造上単体では自立することができず,スタンドを使用しない状態においては,

人間が保持・制御しなければ,必ず転倒する乗り物であるといえます.

この車両はお客様が個人売買で入手されたものであり,それ以前にすでに転倒傷が発生していたことから,

過去のいずれかの段階で右側に転倒したものであるといえ,

そのときの衝撃によりクラッチカバー及びウォータポンプカバーとコネクタが大きく傷ついたものであると考えられます.

人間が完全でない限り,必ず二輪自動車は転倒する確率を保持し続け,

それが完全になりようがない生物であることを考慮すれば,

転倒を避けることのみならず,転倒後にいかに車両の状態を復元するかが問われます.



 今回の事例では偶然お客様が新品のクラッチカバーを入手され,

それを提供していただいたことにより100%に近い信頼で症状が改善されました.

しかし毎回その様に都合良く事が運ぶはずがなく,

むしろ代替として中古部品を検品した上で使用するケースが少なくありません.

やはり古い車両であれば,転倒により傷つきそうな位置にある新品部品が入手できる環境,偶然性に遭遇した場合は,

可能であればストックしておくことが,万が一のときに非常に有効性を帯びてくる場合があるといえます.





※1 “オイルシールの衰損及びシャフトの摩耗によるキックペダル付け根からのオイル漏れについて”

※2 “転倒によるウォータポンプカバー及びコネクタの削れがもたらす接続部Oリングの歪みについて”






Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.