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事例:E-277

セッティング不良による空燃比の狂いがもたらす低速トルク不足と加速不良について

【整備車両】 
 RG250EW-2C (GJ21A) RG250Γ(ガンマ)2型 推定年式:1984年 走行距離:約22,000 km
【不具合の状態】 
 力不足で発進しづらい、パワー感がない、という状態でした。
【点検結果】 
 この車両は力不足で発進しづらい、またパワー感がないということでメガスピードにて整備を承ったものです。お客様に自走してお越しいただけたものの、かなり調子の悪い状態でした。パワーが無い原因で一番に切り分けしなければならないのはやはりエンジンです。したがってエンジンが無事かどうか測定することから整備を開始しました。

図1.1 1番シリンダ二次圧縮の測定
 図1.1 はまず1番シリンダの二次圧縮を測定した様子です。約1,100kPaと非常に良好な数値を示していることが分かります。2番シリンダも同様でした。これだけ圧縮があればエンジン本体としては非常に強力な加速が期待できます。続いて点火系統も問題ないと判断し、最終的にガソリンエンジンの3要素である良い圧縮、良い火花、良い燃料の『良い燃料』を詳細に調べることにしました。

図1.2 取り外されたキャブレータ
 図1.2 はオーバーホール(分解洗浄・精密検査・再組立て)を実施する為に取り外したキャブレータの様子です。外観は汚れが著しく、ホースのスプリングやその他の部品は当時ものである可能性があります。

図1.3 汚染されているフロートチャンバ外観
 図1.3 は2番キャブレータのフロートチャンバ外観の様子です。汚れは徐々に漏れたガソリンが変色して染みついたものであると考えられます。

図1.4 経年劣化しているキャブレータ内部
 図1.4 はかなりの年月を経過したことが推測されるキャブレータ内部の様子です。フロートバルブシートのストッパプレートスクリュは頭が錆びていました。またメインジェットおよびシートは変色して茶色になっていました。真鍮は長持ちしますが、年代物のキャブレータを分解すると、特にシートが割れていることがあります。

図1.5 ゴミの堆積しているフロートバルブシートハウジング
 図1.5 はフロートバルブシートを取り外した様子です。ハウジングに茶黒いゴミが堆積していました。これらは燃料漏れの原因になる為可能な限り洗浄します。

図1.6 汚染されているキャブレータボデー
 図1.6 は1番キャブレータのスロットルバルブガイドを取り外した様子です。かなりの汚れが見られます。ここまで分解してキャブレータのセッティングが誤っていると判断し、正しく調整し直すことにしました。


【整備内容】
 外観の汚れを可能な限り洗浄し、空燃比を調整する為にセッティングを見直しました。

図2.1 洗浄されたキャブレータボデー
 図2.1 は細部まで洗浄したキャブレータボデーの様子です。アルミ合金の美しさが蘇りました。また真鍮も研磨し金色の美しさを取り戻しています。隅に詰まっていた汚染物質も可能な限り洗浄・除去しました。


図2.2 洗浄・点検されたフロートチャンバ
 図2.2 は洗浄し、表面を出してから細部まで点検したフロートチャンバの様子です。スタータジェットも貫通していることを確認しました。

図2.3 スロットルバルブガイド(左)を取り付けたボデー
 図2.3 はボデー内部にスロットルバルブガイド(左)を取り付けた様子です。この部品はこの段階まで分解しないと洗浄・点検することができません。もちろん組み立てる時はねじロックやトルクスを使用します。ガイドは非売品なので摩耗が懸念されますが、このキャブレータは問題ないレベルであり、洗浄・点検して再使用しています。またメインエアやパイロットエアの通路も確認し、すべてのポートが貫通していることもおさえています。

図2.4 洗浄されたスロットルバルブカバーとボデーおよび新品のガスケット
 図2.4 は左右のガイドを取り付けたボデーとカバー、当社特性の新品のガスケットの様子です。今回お客様にインターネットで入手されたというガスケットをお持ち込みいただきましたが、当社のものと比べて薄く、素性が良く分からないことから使用を見合わせました。したがって今回も実際に何年も運用実績のある当社のガスケットを使用しました。

図2.5 正確に組み立てられたキャブレータボデー
 図2.5 は正確に組み立てたキャブレータボデーの様子です。確かにガスケットがあれば誰でも分解することは可能ですが、このキャブレータに精通した整備士が作業するか否かで雲泥の差が出るところです。キャブレータは性能だけでなく見た目の美しさにもこだわりたい部位です。

図2.6 部品取り付けの完了したキャブレータ
 図2.6 はフロートバルブやピン、プレート、そのスクリュ、フロート本体、メインジェットやパイロットジェット、シート等を新品に交換した様子です。

図2.7 オーバーホールの完了したキャブレータ
 図2.7 はオーバーホールの完了したキャブレータの様子です。2型のキャブレータは1型と変更点がありますが、そこに留意してこそ良好な結果が得られる鍵のありかが分かります。

図2.8 エンジンに取り付けられたキャブレータ
 図2.8 はエンジンにキャブレータを取り付けた様子です。最終的にエンジンをかけて確認・調整を行い、試運転に備えました。

図2.9 理想的な焼け具合を示すプラグ
 図2.9 は一般道60km、高速30km程度試運転してから取り外したプラグの様子です。非常に理想的に焼けていることが分かります。走りそのものも低速トルクから高回転まで非常に力強く2ストらしい走りを楽しむことができました。そして各部点検し、問題がないことを確認して整備を完了しました。


【考察】
 この車両は排気バルブや各電子デバイスの無い、いわゆる小細工抜きの2ストです。排気バルブありに比べれば低速トルクは劣りますが、その分高回転でのパワーバンドに入った時の加速度が大きいので非常に2ストらしい味を楽しむことができます。今回ご依頼されたのはお客様は他に大型バイクも所有されているので強烈な加速感には慣れているハズです。それでも納車時に試乗していただいた際には、2スト250ってこんなに速いんだ! と笑顔でおっしゃっていたのが印象的でした。私もやりがいを感じました。

 もう発売から何十年も経過したモデルですが、一度2ストに乗ってみたいということで入手されたものでした。しかし、いくら2ストを入手しても吹け上がりが悪いバイクでは2ストが何たるものかも理解できずに終わってしまいます。やはり2ストに乗ったんだという実感を得るには最適に整備された車両に乗らなければ何も語ることはできません。

 今回の不調の一番の原因はセッティング不良でした。そしてそれは額面通りではないと言うのは他の同様の事例で述べている通りです。何十台もGJ21Aを整備していると、それが見えてきます。そしてメガスピードとしてそのデータを駆使して今後も同様の不調で困っているお客様方の力になることができれば幸いです。








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