トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:241~250)


事例:E-250

フロートバルブの固着やスロージェットの詰まり等によるエンジン始動不能について

【整備車両】 
 DT230 (4TP) 4TP2 ランツァ  年式:1998年  参考走行距離:― km
【不具合の状態】 
 エンジンがかからない状態でした.
【点検結果】 
 この車両は長期保管中にエンジンがかからなくなったと言うことでお客様から整備のご依頼を承ったものです.バッテリもダメになっていたため新品に交換したり ※1 ,車体全体をリフレッシュしましたが,今回の事例ではエンジンがかからなくなった根源であるキャブレータの不具合について記載します。

図1.1 エンジン圧縮圧力の測定
 図1.1はエンジンの圧縮圧力を測定している様子です.950kPaと良好な数値が測定された為,力強い加速が期待でき,整備を進めることに決めました.
 エンジンがかからない場合,その根源である圧縮圧力を把握しておく必要があります.というのは,エンジンの圧縮がなければ
  ➀ エンジンを修理する
  ② エンジンを載せ替える
  ③ 別のバイクに乗り換える
という選択肢を迫られ,そのどれもが費用が多くかかるからです.それをあいまいなままキャブだろうと邪推して作業を進めた場合,もし悪の根源がエンジンであればいっこうに症状は改善されず,作業そのものが無意味になるからです.それは心臓手術が必要な患者を誤診して脳を切開するのと同じくらい愚かなことです.したがってメガスピードでは不動車再生のご依頼で素性の分からないものに対しては必ず圧縮圧力を測定しています.
 もっとも,②のエンジンを載せ替える,にしても③の別のバイクに乗り換える,にしても,それぞれ新品あるいは新車でない限りは点検が必要になり,それを怠れば同じことの繰り返しになることは明らかです.

図1.2 腐敗臭のするキャブレータ
 図1.2は腐敗臭のするキャブレータの様子です.このガソリンの腐った臭いがしている場合は,内部の状態がかなり悪いことを覚悟しておかなければなりません.お客様がフロートチャンバのドレンボルトを外すところまで点検されましたが,何も出てこないことから内部の状態が懸念されます.

図1.3 汚染されているエアジェット周囲
 図1.3は腐敗臭のするキャブレータを取り外した様子です.ニードルジェットホルダの周りやエアジェット付近にガソリンが腐敗して固着した形跡が見られます.この段階で内部の状態も同じようにガソリンが固着している可能性が強く疑われます.

図1.4 汚染されているスタータ廻り
 図1.4はスタータ廻りの様子です.やはり腐敗臭が漂い,動くべきところが固まっていて操作できない状態でした.

図1.5 汚染されているフロートチャンバ
 図1.5はフロートチャンバを開けた様子です.チャンバ内部に堆積していたガソリンが内側に染みつき変色していることが分かります.またメインジェットの穴がふさがっていてフロートの動きも悪い状態でした.

図1.6 完全に固着しているフロートバルブ
 図1.6はフロートを取り外してフロートバルブの状態を確認した様子です.腐敗したガソリンがバルブとバルブシートを完全に固着させて,あたかも強力な接着剤の様になっていました.この状態ではガソリンがキャブレータに供給されないため絶対にエンジンはかかりません.



図1.7 完全に詰まっているスロージェット
 図1.7は取り外したスロージェットの様子です.穴の中が完全に腐ったガソリンで埋め尽くされていました.この状態では,例えガソリンがキャブレータに供給されたとしても,エンジンがかかることはないと言えます.


【整備内容】
 お客様に別の良質な中古キャブレータを手配していただけたことから,その中古キャブレータをオーバーホール(分解整備・精密検査)して使用することにしました.

図2.1 分解洗浄されたキャブレータボデー
 図2.1はお客様に調達していただいたキャブレータを改めて分解洗浄した様子です.各部のポートの損傷の有無や貫通確認等を実施しました.また真鍮部分は磨くことにより美しさを取り戻しました.

図2.2 洗浄されたボデー内部
 図2.2は洗浄されたキャブレータボデーの様子です.アルミが一部腐食して少し黒っぽく変色している部位もありますが,異物はすべて除去してある為,表面はクリーンな状態を保っています.

図2.3 新品のスロージェット
 図2.3は新品のスロージェットを取り付けている様子です.その他にメインジェットやそのシートも新品に交換しました.

図2.4 新品のスタータASSY
 図2.4は新品のスタータASSYの様子です.取り外したスタータも経年や劣化,腐食を考慮して新品に交換しました.ASSYで入荷しますが,すべて分解して状態を確認しました.

図2.5 スタータの動作確認
 図2.5は組み付けられたスタータの動作を点検している様子です.スムーズに動くことを確認しました.

図2.6 整備の完了したフロート室内
 図2.6は新品のフロートバルブ,フロート等を取り付けたキャブレータの様子です.これによりフロート室内の部品がすべて新品に交換されたことになります.

図2.8 オーバーホールの完了したキャブレータ
 図2.8はオーバーホール(分解整備・精密検査)の完了したキャブレータの様子です.ホース類もすべて新品にすることにより長期間の使用を可能にしました.

図2.9 エンジンに取り付けられたキャブレータ 
 図2.9は整備の完了したキャブレータをエンジンに取り付けた様子です.各部が磨かれたり新品になっていることにより外観が美しくなりました.特にホースは見た目に非常に影響を及ぼします.もう一度図1.2をご覧いただければ,見苦しさの根源はボデーに付着したガソリンと変色したホースのウエイトが高いことが理解できるはずです.

図2.10 正常に動くランツァ
 図2.10は試運転を実施し,一定距離を走行してから途中でエンジン廻りや車体廻りの点検する為に停車した様子です.山林も良いですが,アスファルトでこそ力強い2ストの加速が最大限楽しめます.試運転後,全体的に不具合のないことを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 今回の事例では状態の悪い取り外したキャブレータをオーバーホールせず,お客様に調達していただいた良質な中古キャブレータを改めてオーバーホールしてから使用しました.整備のご依頼を承った場合,基本的には取り外したキャブレータを再生させる流れになりますが,状態が極端に悪い場合は,やはり別の中古キャブレータをオーバーホールした方が良い場合があります.
 ランツァはその性質から山林や砂利道,林道等で使用された車両が多く見られますが,そのようなものの大半はキャブレータが見るも無残な外観に陥っています.もちろん使えば汚くなるものですが,オーバーホールという語句を使用したのであれば,内部はもちろんのこと,可能な限り外観を美しくしたいものです.
 2ストの面白さはエンジンの軽さとトルクおよび出力の出方にあると言え,ひとことで言えば軽量ハイパワーです.特にこの車両の様な単気筒であれば軽さは群を抜き,出だしから危険な感じのする加速を楽しめます.2ストはレプリカに視線が行きがちですが,もう一つの頂点としてオフロードも忘れてはならないのは,乗ってみれば話が早い,その一言に尽きます.


※1 製造段階でのバッテリ端子プラス側の加工不良について





Copyright © MEGA-speed. All rights reserved.